EP 8
ポポロ村大パニック!金相場の大暴落と紙切れになったアイドル特需
「いんふれ……? なあにそれ、美味しいの?」
広場にめり込んだ純金100kgのキューブを前に、首を傾げるエルフの美女・ルナ。
その純真無垢な微笑みを前に、優太は冷や汗を滝のように流しながらワスプ薙刀を杖代わりにして立っていた。
「ルナ。お前……まさかとは思うが、先月もこのサイズの金塊を受け取ってるんだよな? それ、どうした?」
優太が恐る恐る尋ねると、ルナはポンッと手を打った。
「ああ、先月分ね。部屋の隅に置いてたら足をぶつけて痛かったから、昨日、村に来ていた『ゴルド商会』の行商人に少しだけあげたの。お礼に、甘いシリアルと交換してくれたわ」
「……少しって、どれくらいだ?」
「ええと、これくらいかしら」
ルナが両手で形作ったのは、メロンほどの大きさだった。重さにすれば、優に数キログラムの純金である。
「メロン大の純金でシリアルをォォォッ!? お前、それだけでルナミス帝国の城が建つぞ!!」
優太が絶叫した、まさにその直後だった。
「た、大変だぁぁぁーーっ!! 村長ォォ!! 優太先生ェェ!!」
村の市場の方から、八百屋のオヤジやパン屋のおかみさんたちが、血相を変えて広場へ雪崩れ込んできた。
「どうしたの!? またオーク!?」
徹夜のロマンス小説で寝不足のキャルルが、慌ててウサギ耳をそばだてる。
「オークよりタチが悪いだよ!! 市場の物価が、おかしくなっちまっただ!!」
八百屋のオヤジが涙目で掲げたのは、何の変哲もない普通の『ネタキャベツ』だった。
「今日、ゴルド商会の奴らが村の野菜を買い占めようとしてな……なんと、このキャベツ1玉に『金貨10枚』を出しやがったんだ!!」
「ウチのパンもだよ! 1個で金貨5枚だって言うんだ! おかげで、村の衆が持ってる『銅貨』や『銀貨』じゃ、誰も売ってくれなくなっちまった!!」
優太は頭を抱えた。
恐れていた事態が、最悪のスピードで進行している。
ゴルド商会がルナから得た「莫大な純金」を元手に、ポポロ村の物資を異常な高値で買い漁り始めたのだ。結果として村に金貨が溢れかえり、相対的に「物の価値」が爆上がりし、「お金(これまでの銅貨や銀貨)の価値」が紙屑同然に暴落してしまったのである。
「う、嘘でしょ……?」
その事実に最も絶望したのは、他でもないリーザだった。
彼女は昨日、みかん箱の上で鼻に5円玉を詰め、腹を真っ赤に腫らしてドワーフたちから大量の『銅貨』と『銀貨』を稼いだばかりだった。
「私の……私の、血と汗と羞恥心の結晶(銅貨の山)が……ただの重たい金属のゴミになっちゃったっていうのぉぉぉぉっ!!?」
リーザは広場の土を握りしめ、天を仰いで慟哭した。アイドルの命を削って得たライブの売上が、エルフの天然テロによって一夜にして無価値(ストップ安)にされたのだ。
「あああっ! 私の100円玉(銀貨)がぁぁ! これじゃパンの耳すら買えないわぁぁ!」
「……ふっ。だから言ったでしょ、地道な労働なんてバカらしいのよ。時代は転売よ!」
泣き崩れるリーザの横で、ルチアナが100kgの純金ブロックに頬ずりしながらゲスな笑みを浮かべていた。
「これよ、これ! この純金を元手に、地球のアイドルグッズを魔王城に流せば……!」
「ふざけるな駄女神! お前らが経済をめちゃくちゃにしたんだろうが!」
優太はルチアナの首根っこを掴んで純金から引き剥がした。
「優太……どうしよう。このままじゃ、村のみんなが食べ物を買えなくて飢え死にしちゃうわ……っ」
キャルルが、涙目で優太の袖をギュッと掴んできた。
少女漫画フィルターが絶賛稼働中の彼女は、無意識のうちに優太を「頼れる冷徹公爵様」として見上げてしまっている。ウサギ耳は完全に垂れ下がり、上目遣いの破壊力は凄まじかった。
(……くそっ。可愛い顔しやがって。村長がこれじゃ、俺がやるしかないだろ)
優太は大きくため息をつき、極太の純金ブロックと、ニヤニヤしているルチアナを交互に睨みつけた。
「……仕方ない。毒をもって毒を制す。ルチアナ、お前の『邪悪な転売ルート』……俺が最大限に悪用してやる」
「え? 悪用?」
ルチアナがパチクリと瞬きをする。
医療と戦術のスペシャリストである中村優太。
彼が、村の経済を救うために「医学生らしからぬ悪魔のマネーロンダリング(資金洗浄)」を決意した瞬間であった。




