EP 7
突然の宅配便。世界樹からの『重すぎる仕送り』
オークの襲撃から立ち直り、リーザのゲリラライブによる騒音問題も日常の風景として馴染み始めた頃。
ポポロ村には、久々にのどかな空気が流れていた。
「よし、今日の自警団の訓練はここまでだ! 槍の手入れを怠るなよ!」
広場で訓練を終えた優太が、ワスプ薙刀の汚れを布で拭き取っていると、隣で同じく教官を務めるネギオ(長ネギの樹人)が空を見上げて呟いた。
「……ふむ。そろそろ『アレ』が届く時期か」
「アレ?」
優太が首を傾げた、その瞬間だった。
ズズズズズズッ……!!
突如として、ポポロ村の広場全体が激しい地響きに包まれた。
マグニチュードにすればかなりの揺れだ。村のあちこちで「地震か!?」「またオークの残党か!?」とパニックの声が上がる。
「チッ、敵襲か!?」
優太が即座に薙刀を構え、周囲の射線を確保する。
しかし、ネギオはハリセン(ネギカリバー)を下ろしたまま、全く動じずに広場の中央を指差した。
「慌てるな優太。ただの『定期便(仕送り)』だ」
ドゴォォォォォンッ!!
広場の中央の地面が弾け飛び、地中から「極太の巨大な木の根」が天高く突き出してきた。
それは、遥か遠方の『世界樹の森』から地中深くを這い、ポポロ村までピンポイントで伸びてきた世界樹の端末(根っこ)だった。
「な、なんだあれは……!」
呆然とする優太の目の前で、巨大な根の先端が蕾のようにゆっくりと開き始めた。
そして、中からゴロンッと『何か』を吐き出すと、根は役割を終えたかのように、再び地中へと凄まじいスピードで引っ込んでいった。
ズッドォォォォンッ!!!
地面に落下した『それ』は、尋常ではない質量を感じさせる重低音を響かせ、広場の地面に深いクレーターを穿った。
「……あら。今月も無事に届いたみたいね」
土煙が晴れる中、村長宅から優雅な足取りでエルフの美女、ルナ・シンフォニアが現れた。
彼女はクレーターの底に鎮座する『それ』を見て、ふわりと微笑んだ。
「……おい、ルナ。なんだよ、このバカでかい……ピカピカ光るブロックは」
優太は冷や汗を流しながら、クレーターを覗き込んだ。
そこにあったのは、一辺が数十センチはあろうかという、太陽の光を反射して眩いばかりの黄金の輝きを放つ、巨大な『金属の立方体』だった。
「ん? 母様(世界樹)からの、私への毎月の年金……お小遣いよ」
ルナは上品に口元を手で覆い、事も無げに言った。
「純度100%の『純金』、およそ100キログラムね」
「ひゃっ、ひゃくきろぐらむぅぅぅ!?」
優太の声が裏返った。
100グラムではない。100キロである。
地球の相場で換算すれば、1グラム約1万円として、1キロで1000万円。100キロならば――実に『10億円』に相当するバケモノじみた富の結晶だ。
それが、毎月、過保護な世界樹から「お小遣い」としてこの小さな村にポイッと送られてきているというのだ。
「ネ、ネギオ! お前、世界樹の端末なんだろ!? なんちゅうモン送ってこさせてんだ!」
「私に言うな。世界樹の意志(ルナへの過保護)は絶対だ。これでも、ルナミス帝国との緩衝地帯にいる彼女を心配して、普段の倍の量を送ってきたらしい」
ネギオがやれやれと肩をすくめる。
その横で、ルチアナ(駄女神)とリーザ(大食いアイドル)が、黄金のブロックを見てヨダレを垂らしながら群がっていた。
「じゅ、純金100キロ……! これ全部ゴルド商会に持っていけば、一生遊んで暮らせるわぁぁ!!」
「ルナお姉様! 私と義姉妹の契りを結びましょう! パンの耳じゃなくて、高級食パンの真ん中だけ食べ放題よ!」
欲望のままに金塊に抱きつく二人を、ルナは「ふふっ」と優しく見守り、そして優太の方を向いて最高の笑顔を向けた。
「優太。あなたがこの村の専属医になってくれて、美味しいご飯を作ってくれるから、私、このお金を全部あなたに払おうと思うの。これで、優太の『地球のすぱいす』を買って、毎日美味しいカレーをお腹いっぱい作ってちょうだいね!」
純真無垢なエルフの善意。
しかし、経済学や歴史を学んだことのある現代日本の医学生にとって、それは悪魔の宣告に等しかった。
「バ……バカヤロウ!!」
優太は顔面を蒼白にして叫んだ。
「こんな純金100キロを、このちっぽけな村の市場や商会に一気に流してみろ! 村中の物価がバグって、パン1個が金貨100枚になるような『超絶インフレ(ハイパーインフレーション)』が起きるぞ!!」
「いんふれ……? なあにそれ、美味しいの?」
ルナが不思議そうに首を傾げる。
「お前ら全員、経済の概念ってもんがないのかァァァッ!!」
オークの襲撃という「物理的な暴力」はワスプ薙刀で弾き返せた優太だったが、無知なエルフがもたらした「純金100kgという経済の暴力」を前に、かつてない絶望の悲鳴を上げるのだった。




