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『5階にトラック突撃!?ポンコツ女神の使役権と地球通販を得た医学生、辺境の村でワスプ薙刀と現代医療を駆使し最強防衛ライフを始める』  作者: 月神世一


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EP 5

激務の村長と、一冊の劇薬(ロマンス本)

「ポンポコポーンッ! ターマターマはマ〜ルマル〜!!」

「アハハハハッ! いいぞ嬢ちゃん、もう一丁!!」

ポポロ村の村長宅にある執務室。

窓の外の広場から、今日も今日とてリーザの全力の宴会芸と、ドワーフのオヤジたちの下品な歓声が響き渡ってくる。

「……頭が、痛いわ」

机に山積みになった書類――緩衝地帯としての三国への報告書や、オーク襲撃後の村の修繕計画書――を前に、村長キャルルはウサギ耳をペタンと力なく垂らし、こめかみを強く揉みほぐしていた。

ルナミス帝国から亡命し、この平和な村で気ままなスローライフを送るはずだった。

それがどうだ。フタを開けてみれば、横領テンバイヤーの駄女神、天然で市場を破壊するエルフ、そしてアイドルのプライドを捨てて5円玉を鼻に詰める居候。

「なんで私の周りには、常識人が優太とネギオ(長ネギの樹人)しかいないのよ……」

はぁ、と深いため息をついた時だった。

「コンコン」

控えめなノックと共に、執務室の扉が開いた。

「キャルル、入るぞ。休憩しろ」

マグカップを二つ持った優太が、呆れたような顔で立っていた。マグカップからは、トライバードの骨で出汁を取った、ホッとするような温かいスープの香りが漂っている。

「優太……。ごめんなさいね、忙しいのにスープまで」

「いや、リーザの奴が稼いできた野菜の仕込みを手伝ったついでだ。……随分と耳が垂れ下がってるな。お疲れのようだが」

優太はスープを机に置くと、キャルルの向かいの椅子にドカッと腰を下ろした。

キャルルのピンと立ったウサギ耳は彼女の感情のバロメーターだ。それがここまで力なく垂れているのは、オークの襲撃時にもなかったことである。

「少し、ね。村長の仕事もそうだけど……外の音(ポンポコ節)が気になって、夜もあまり眠れていないの」

優太は小さく息を吐いた。

ルチアナの使い込みにより【地球ショッピング】のポイントは枯渇したが、ここ数日、村の医療活動や皿洗い、ゴミ拾いなどの地道なポイ活で、数千GPほどは回復していた。

(……仕方ない。村長が倒れたら、俺の居候ライフにも響くからな)

優太は視界の端にホログラムパネルを展開し、『書籍・エンタメ』のカテゴリーを検索した。

地球の娯楽品は意外と安い。文庫本なら、一冊数百GPで召喚できる。

「おい、キャルル。これでも読んで、少し現実逃避でもしろ」

優太が何もない空間からスッと取り出したのは、一冊の分厚いペーパーバック(文庫本)だった。

「え? 本……? わぁ、すごく滑らかな紙ね。羊皮紙じゃないわ」

キャルルが不思議そうにそれを受け取る。

表紙には、金髪で彫りの深い、キラキラと輝くような超絶イケメンの貴族(公爵)が、頬を赤らめる美しい令嬢の顎をクイッと持ち上げている、極めてコテコテなイラストが描かれていた。

タイトルは――『貴婦人の恋心 〜冷徹公爵様は、私だけを甘く溺愛する〜』。

地球のスーパーのレジ横や、書店のライトノベルコーナーに平積みされている、王道の純愛ロマンス小説である。

「『きふじんの、こいごころ』……? 恋のお話?」

「ああ。俺の故郷の娯楽小説だ。頭を空っぽにして読めるから、息抜きには丁度いいだろ」

優太はパラパラと適当に選んで買っただけだったため、その本がアナステシア世界――特に、これまで戦いとサバイバルに生きてきた武闘派の獣人少女にとって、どれほどの『猛毒(劇薬)』になるかなど、微塵も想像していなかった。

「ふーん……。優太の故郷の恋の物語、ね。ありがとう、今夜寝る前に少しだけ読んでみるわ」

キャルルは垂れていたウサギ耳を少しだけピクッと動かし、その本を大切そうに胸に抱いた。

   ***

その日の深夜。

村長宅のキャルルの私室には、魔導ランプの明かりがポツンと灯っていた。

「なっ……! な、な、な……っ!?」

ベッドの上でうつ伏せになり、パジャマ姿で本を開いていたキャルルの顔は、茹でダコのように真っ赤に沸騰していた。

『お前のその強がりな唇を、今すぐ塞いでしまいたい……』

『んっ……ダメです、公爵様……こんな、誰もいない書庫で……っ』

「ひゃあああああああっ!!? ダ、ダメよ令嬢! 騙されちゃダメ! そいつ冷徹公爵って言われてるヤバい奴よ!! ああっ、でも……っ!!」

バタバタバタバタッ!!

キャルルは耐えきれず、ベッドのシーツに顔を埋めながら、足をバタバタと猛烈な勢いで上下させた。

ウサギ耳はピンッ! と限界までそそり立ち、ブルブルと小刻みに震えている。

元・近衛騎士隊長候補として、男顔負けの武術『月影流』を極め、オークの頭蓋骨をトンファーで砕いてきたキャルル。

彼女の人生には、「恋」や「甘いロマンス」などという概念が入り込む隙間は一切なかった。

それゆえに――地球の洗練された(ベタすぎる)ロマンス小説の破壊力は、純情な彼女の脳髄を直接ぶん殴るほどの威力を持っていたのである。

「こんな……こんな恥ずかしい本、優太は普段から読んでるの……!? 信じられないわ……っ!!」

そう口では言いながらも、キャルルの視線は次のページへと吸い込まれていく。

止まらない。活字が脳内で映像化され、胸の奥がキュンキュンと締め付けられる。

「あともう1ページ……いや、この章の終わりまで……っ!」

結局、ウサギ耳の村長がその分厚い文庫本を完全読破し、充血した目で朝日を迎えたのは、それから数時間後のことであった。

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