EP 4
伝説の宴会芸『ポンポコたぬき』と熱狂のドワーフ
ポポロ村の広場の中央、みかん箱のステージ。
鼻の穴に「5円玉(日本円)」を深々と詰め込んだ、かつての美しき魚人族の親善大使・リーザは、大きく息を吸い込んだ。
「いくわよぉぉぉっ!! ミュージック、スタートッ!!」
もちろん、伴奏の音楽などない。完全なアカペラである。
リーザは自身の白く滑らかなお腹を、両手で勢いよく叩き始めた。
パァァァンッ! パンッ! ポンポコポーンッ!!
「……っ!? あいつ、自分のお腹を打楽器にしやがった!?」
優太が驚愕に目を見開く中、リーザの腹から響く異様に良い音と共に、伝説の宴会芸が幕を開けた。
「♪た、た、たぬきのお腹は ポンポコポンポン!
♪月よ〜月で〜頭は ハーゲハゲでピーカピカ〜!
♪お尻はツールツル〜 ターマターマはマ〜ルマル〜!
(ソレ! ヨイヨイ!)」
みかん箱の上で、美少女が鼻を豚のように膨らませながら、全力で股間を丸く強調するような下品な振り付けを踊っている。
広場に集まった素朴な村人たちは、あまりの光景に口をポカーンと開けてフリーズしていた。
「な、なんて可哀想な子なの……。空腹のあまり、羞恥心という概念を失ってしまったのね……」
村長キャルルが、両手で顔を覆ってガチ泣きし始める。
だが、リーザのマーケティングは間違っていなかった。
広場の隅で酒盛りをしていた『ドワーフの行商人』たちのテーブルから、ドッと地鳴りのような笑い声が沸き起こったのだ。
「ぶわっはははははっ!! なんだあの嬢ちゃん! 最高にバカじゃねえか!!」
「おいおい、ツルツルのマルマルだってよ! ギャハハハハッ!!」
ドワーフのオヤジたちの爆笑を浴びて、リーザの瞳にギラリと野生のエンターテイナーの火が灯る。お腹を叩く手がさらに加速し、白かった肌がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「まだまだいくわよぉぉっ!!
♪は、は、葉っぱを乗せても ドロンとドンドン!
♪化けよ〜化けで〜尻尾は ボーサボサでチョーロチョロ〜!
♪おヘソはデベソだ〜 ターマターマはユーラユラ〜!
(ア、ドッコイ!)」
「ウオォォォォォッ!! ヨイショォォ!!」
ドワーフたちが完全にコール&レスポンスを把握し、ビールのジョッキをガンガンと打ち鳴らし始めた。おっさんたちの異様な熱気が広場を包み込む。
「♪と、と、トックリ抱えて グイグイグイグイ!
♪酒よ〜酒で〜目玉は クルークルのパーラパラ〜!
♪足元フラツク〜 ターマターマはブーラブラー!
(ソレ! モヒトツ!)」
「ブーラブラー!! ギャハハハハッ!! いいぞ嬢ちゃん!! もっとやれェ!!」
ドワーフのオヤジの一人が、たまらず立ち上がり、ステージに向かって銀貨(100円玉)を力いっぱい投げつけた。
リーザは歌い踊りながら、その銀貨を空中で見事に口(鼻には5円玉が詰まっているため)でキャッチし、ウインクを決めた。
「おっしゃ! 俺もくれてやる!!」
「嬢ちゃん、これでも食いな!!」
それを皮切りに、狂乱の『物理スパチャ』の雨が降り注いだ。
銅貨や100円玉だけでなく、ドワーフたちが食いかけの「シープピッグ(綿豚)の串焼き」や、八百屋のおばちゃんが同情で投げた「ネタキャベツ」、さらにはルチアナが酔っ払って投げた「ポテトチップスの未開封袋」までがステージに飛び交う。
リーザは飛んでくる食料や小銭を、アクロバティックな動きで次々とみかん箱の上に回収していく。もはやアイドルのライブというより、野生動物の狩りである。
「♪み〜んな合わせて 腹太鼓〜!!
♪ポンポコ ピーヒャラ テーンツルリンッ!!」
バチィィィンッ!!
最後にお腹を渾身の力で引っぱたき、リーザは鼻に5円玉を詰めたまま、最高に美しい笑顔で投げキッス(チュッ♡)を放った。
「「「ウオォォォォォォォォォォォォォッッ!!!」」」
ドワーフたちの割れんばかりの歓声と拍手が、ポポロ村の空に響き渡った。
「……ハァ、ハァ……。ありがとう、みんな! リーザは、みんなの笑顔と……このお肉で、明日も生きていけるわ!!」
真っ赤に腫れ上がったお腹を擦りながら、戦利品(小銭の山と大量の食材)を抱え込むリーザ。その顔は、誇り高き『プロのサバイバー』の達成感に満ち溢れていた。
「……たくましい通り越して、引くわ」
一部始終を見ていた優太は、ワスプ薙刀の柄に寄りかかりながら深くため息をついた。
カレーの配給を止めたくらいで飢え死にするようなタマではないと分かっていたが、まさかここまでプライドを投げ捨てて荒稼ぎするとは。
「優太様ぁ! 見て見て! 今日はシープピッグの串焼きとポテチが夕飯よぉ!」
鼻の穴の5円玉を外し、ホクホク顔で駆け寄ってくるリーザ。
「……ああ。お前は本当に、たくましいな」
優太は半ば呆れながらも、彼女の根性だけは素直に認めるしかなかった。
こうして、ポポロ村の経済(リーザの胃袋)は、彼女自身の捨て身の宴会芸によって見事に自給自足のサイクルへと突入したのである。




