EP 10
医学生の真骨頂!現代医療チートと、最強の村医者誕生
『ピロリロリロリロリロォォォォォンッ!!!』
戦場と化したポポロ村の広場に、システムが放つ神々しい黄金の光が降り注いだ。
光の粒子が収束し、優太の目の前に「それ」が実体化する。
ズンッ!
土煙を上げて現れたのは、強化プラスチックとチタン合金で覆われた、米軍特殊部隊用の『ポータブル野戦手術キット(最上位モデル)』だった。
「……ッ! 来た!!」
優太は迷うことなくケースのロックを解除した。
中には、滅菌済みのチタン製メスやペアン(止血鉗子)、戦傷救護用の超強力な先進止血剤、そして小型バッテリー駆動の自動バイタルモニターまで完備されていた。
奇跡のSSR排出。これなら、いける。
「ネギオ! お前、執事検定1級を持ってるなら手先の精密作業は完璧だな!?」
「あ、ああ! ミリ単位の給仕も可能だが……!」
「俺の助手(第一助手)をやれ! まずはこのアルコールで手を消毒しろ!」
優太は消毒液をネギオの木の手にぶっかけ、自身も瞬時に手袋を装着した。
医学生としての膨大な知識と、絶対に命を救うという執念が、優太の脳を極限までクリアにしていく。
「傷口を開くぞ! ネギオ、開創器で視界を確保しろ!」
「承知した!」
ネギオの動きは完璧だった。無駄口を叩かず、優太の指示よりもコンマ数秒早く必要な器具を差し出してくる。世界樹の端末としての処理能力と執事のスキルが、最強のオペナースを誕生させていた。
「木片を抜く。出血が噴き出すぞ……3、2、1、抜去!」
木片を引き抜いた瞬間、破損した動脈から鮮血が噴き上がった。
しかし、優太は全く動じない。
「クイッククロット(止血剤)投入! ペアン(鉗子)!」
バシッ、とネギオから手渡されたペアンで、優太は血溜まりの中から正確に損傷した血管を摘み、出血を物理的に遮断した。
野戦病院さながらの神速の応急処置。ためらいのないメス捌きと、手品のようになめらかな縫合技術。
「……よし。血管の縫合完了。バイタル安定。……峠は越えたぞ」
優太が最後の一針を縫い終え、血まみれの手袋を外して大きく息を吐き出した。
青年リョウの顔色に、わずかだが赤みが戻り、穏やかな寝息を立て始めている。
「「「おおおおおぉぉぉぉっ……!!」」」
息を呑んで見守っていた自警団や村人たちから、地鳴りのような歓声が上がった。
致命傷を負ったはずの若者が、見ず知らずの青年の「未知の魔法(医療)」によって、文字通り死の淵から引き戻されたのだ。
「優太さん……! ありがとうございます、ありがとうございます……!!」
リョウの弟が、優太の血まみれのズボンにすがりついて号泣している。
「気にするな。……俺は、医者を目指してるんでね」
優太が照れ隠しに頭を掻いた、その時だった。
『ピロリン♪』
『ピロリロリン♪ ピロリロリロリロリロォォォォォンッ!!!』
優太の視界の端で、電子ボードが狂ったようにファンファーレを鳴らし始めた。
【善行判定:絶望的な状況下における、極めて高度な『人命救助』を達成しました】
【ボーナス獲得:+50,000 GP】
【称号獲得:『村の救世主』】
(ご、ごまんポイント……!?)
カレーの餌付けとは桁が違う、文字通りの「命の重さ」が数値化された瞬間だった。
これだけあれば、地球の最新医療器具もサバイバルギアも、しばらくは出し放題だ。優太は思わず天を仰いだ。
「ふぁぁ~あ。んん? なんか広場が騒がしいわねぇ……って、うぎゃあああ!? オークの死体の山ぁぁ!?」
そこへ、昨晩の大吟醸ですっかり二日酔いになったルチアナが、目を擦りながら芋ジャージ姿でのこのこと現れた。
その後ろには、同じくフラフラのキャルルとルナ、そして「オークの持ってたお肉(携帯食料)落ちてないかしら」と地面を這いつくばるリーザの姿。
「優太ぁ! アンタ何勝手に激しい戦闘してんのよ! 二日酔いの頭に響くじゃないの!」
「……お前らという奴は、本当に良いご身分だな」
優太は呆れ果ててため息をついた。
だが、そんな優太の前に、村長であるキャルルが居住まいを正して歩み出た。
「優太。二日酔いで寝坊した村長を許してちょうだい。……そして、村を守り、リョウの命を救ってくれて本当にありがとう」
キャルルは、ウサギ耳をペタンと下げて深々と頭を下げた。
ネギオも、自警団の面々も、村人たちも全員がそれに倣う。
「中村優太。あなたのその『戦術』と『未知の治療術』……そして何より、誰も見捨てないそのお人好しな心を、私たちポポロ村は必要としています」
キャルルが顔を上げ、満面の笑みを向けた。
「今日からあなたを、ポポロ村の『専属医』兼『自警団戦術顧問』として正式に雇い入れたいわ。……もちろん、お給料は美味しいご飯と、ウチへのタダ住みでどうかしら?」
「……タダ住みで、三食付きか。悪くない条件だ」
優太がワスプ薙刀を肩に担ぎ、ニヤリと笑い返す。
「わぁい! 優太のご飯が毎日食べられるのね!」とリーザが歓喜の舞を踊り、ルナが「私もお手伝い(天然テロ)するわ」と微笑み、ルチアナが「じゃあ今夜は祝賀会で大吟醸ね!」と叫んで優太に蹴り飛ばされる。
こうして、現代の医療と戦術を持つ医学生・中村優太の、理不尽で騒がしくも、最高に熱い「ポポロ村防衛ライフ」が、本格的に幕を開けたのであった。
――【第1章:ポポロ村定住編】 完 ――




