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『5階にトラック突撃!?ポンコツ女神の使役権と地球通販を得た医学生、辺境の村でワスプ薙刀と現代医療を駆使し最強防衛ライフを始める』  作者: 月神世一


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EP 1

5階に突撃するトラックと、コタツ部屋の定時退社女神

クミン、コリアンダー、ターメリック。

そして、たっぷりのバターとトマトの酸味が混ざり合った、極上のスパイスの香りがワンルームの部屋を満たしている。

「よし……これで完璧だ」

中村優太(24歳・医学生)は、コンロの上でコトコトと音を立てる鍋を見て、満足げに頷いた。

今日の夕飯は、週に一度の楽しみである特製バターチキンカレー。しかも今日は特別に、強力粉を練ってフライパンで焼き上げた自前の「ナン」まで用意する徹底ぶりだ。

外科医を目指して日々分厚い医学書と睨み合う優太にとって、料理は最大のストレス発散であり、生存のための重要なタスクでもある。

皿に熱々のカレーを盛り付け、こんがり焼けたナンを添える。

完璧なビジュアルだ。あとは、冷えたコーラと一緒にこれを胃袋に流し込むだけ——

『ブウウウウウウウンッ!!』

「……ん?」

優太はフォークを持ったまま動きを止めた。

窓の外から、大型ディーゼルエンジンのような重低音が響いてきたのだ。

なんだ? トラックの音?

いやいや、待て待て。

「ここ、マンションの5階だぞ……?」

優太が窓の方へ顔を向けた、次の瞬間。

『ガッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!』

凄まじい轟音と共に、壁と窓ガラスを粉砕して、10トントラックの巨大なフロントグリルが優太の視界を完全に埋め尽くした。

えっ。

そう思考したのが最後。

中村優太の意識は、スパイスの香りと共に唐突に暗転した。

   ***

目を覚ますと、そこは「審判の場」と呼ぶにはあまりにも生活感に溢れた空間だった。

「……ズルズルズルッ! はふっ、ズルルッ」

四畳半ほどの畳敷きの部屋。

中央には季節外れのコタツがデデンと鎮座しており、そのコタツに入って、ヨレヨレの芋ジャージを着た女がカップラーメンを啜っていた。

「な、ここは……?」

優太が呆然と声を漏らすと、女はラーメンの汁を飲み干し、口の周りを手の甲で雑に拭いながら振り返った。

無駄に顔の造形だけは神々しい、絶世の美女だった。ジャージ姿でなければ、だが。

「あ、目ぇ覚めた? はじめまして、中村優太さん。私の名は女神ルチアナ」

ルチアナと名乗った女は、どこか胡散臭い営業スマイルを浮かべてパンッと手を合わせた。

「いや~、私は感動致しましたよ! 貴方が、トラックに轢かれそうになった哀れな子猫を助けるために身を呈した、その英雄的行動! まさに全米が泣いた瞬間、神界でもスタンディングオベーションでした!」

「……は?」

優太の頭に疑問符が乱舞する。

「な、何を言ってるんだ!? 猫なんて助けた覚えはないぞ!」

「え? いやいや、ご謙遜を。身を挺してトラックの前に飛び出すなんて……」

「飛び出してねぇよ! 俺は自分の部屋でバターチキンカレー食おうとしてただけだ! だいたい、トラックがマンションの5階に突撃して来たんだよ! どういう物理法則してんだあのトラック!」

優太の魂の叫びが響き渡る。

しかし、女神ルチアナは小指で鼻をほじりながら、心底どうでもよさそうな顔をした。

「え? あ、そうなの? まあいっか。死んだって結果は同じだし、とりあえず終わった事なんで気にしないで」

「気にするわ! 俺のカレー返せ!!」

「あー、はいはい。声大きい。近所迷惑」

ルチアナは鼻をほじった指をコタツの天板でこっそり拭うと、どこからともなく商店街の福引きで見るような「ガラポン(抽選器)」をドサッと取り出した。

「面倒だから、とりあえずこれ回してよ。私、このあと魔王のラスティアちゃんと人間界の居酒屋で飲み会があるから。絶対定時に帰りたいのよ」

「ふ、ふざけんなよ! なんで俺がそんな適当な理由で……!」

「はいはい、文句言わない。回さないと強制的にミジンコに転生させるわよ?」

凄まじい理不尽である。

優太はギリッと奥歯を噛み締めながら、忌々しいガラポンのハンドルを勢いよく回した。

カラカラカラ……ポロッ。

出てきたのは、黄金に輝く玉だった。

「おっ。何ひいた?」

ルチアナが気怠げに玉を覗き込む。

そこには、神文字でこう記されていた。

【ユニークスキル:地球ショッピング】

【特別権利:女神ルチアナこき使い権】

「ん? 地球ショッピングなら分かるけど……え? 『私をこき使い権』……?」

ルチアナの顔から、スッと血の気が引いていく。

「へっ? ちょ、ちょっと待って! わ、私をこき使うって!? 嫌だ! 私は仕事とプライベートは分ける主義の、定時帰り女神よ! 嫌だああああああっ!!」

「……よし。どういう権利か知らんが、俺のカレーを邪魔した恨み、きっちり働いて返してもらうからな、駄女神」

優太が冷酷な笑みを浮かべた瞬間。

コタツ部屋の床が突如として光り輝き、抗うルチアナと、冷静にリュックを背負い直した優太の体は、未知なる異世界『アナステシア』へと強制的に転送されていった。

定時退社を愛するポンコツ女神と、現代の戦術・医療・料理スキルを持つ医学生の、理不尽極まりない異世界サバイバルが、今ここに幕を開けたのである。

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