8.黄色いバラの花言葉
手紙をさっさと書き終え蜜蝋で封をする。
もしかしたら俺の考えることなんて父や兄たちが既に思いついて手配しているかもしれない。
封筒を机の引き出しに入れた後そう気づいたが、多少の行き違いは大目に見てもらおうと思った。
戻ってきたエストから昼食も自室でとって構わないという答えを貰う。
リクエストを聞かれたと言われたので迷った挙句セシリアと自分の共通の好物を伝えた。
エストはそれを屋敷の使用人に伝えるため退室してここにはいない。
暫くしたら戻ってくるだろう。
しかし公爵邸の使用人は意外な程俺に干渉して来ない。
正直助かるが当主の新妻に対し普通ではない気もする。
もし俺が本物の花嫁でかつアイリーンみたいな繊細な性格なら嫁ぎ先で放置され過ぎて不安で震えると思う。
いや今となってはあの婚約者が本当に臆病な女の子だったかもわからないけれど。
「アイリーンの好きな人ってマジでセシリアなのかな……」
だとしたら彼女はどんな気持ちで俺と婚約していたのだろう。
考えるとそれなりに落ち込む。
アイリーンが見つかったら俺との婚約は解消になるのだろうか。
誰かと駆け落ちした貴族の娘にまともな縁談が来るとは思えないけれど。
それを俺が心配するのは余計なお世話だろう。じゃなければただの馬鹿だ。
「暇だとろくな事考えないな、駄目だわ」
俺は椅子から立ち上がってカーテンと窓を開ける。
すると黄色い薔薇が鮮やかに咲き乱れる広大な庭が目を楽しませてくれた。
「黄色は珍しいな」
そう独り言を言う。
黄色い薔薇はネガティブな花言葉も多いせいか庭に植える貴族は少ないと聞いた。
「まあ黒薔薇よりはマシだけどな」
そう言いつつ俺は庭をぼんやりと眺める。
すると黄色と緑の中に薄い水色が入り込んできた。
「あれは……アンブローズ公爵か?」
聞こえないように声量を落とし呟く。
少し驚いたが冷静に考えればここは彼の家だ。
その庭に家主がいてもおかしくはない。
「そういや、朝の挨拶してないな……」
正直したくはない。話したくもないし近寄りたくもない。
だが公爵家に嫁いだ花嫁の行動としてそれは正しいのだろうか。
白い結婚を宣言されているし愛するつもりはないと明言もされたが、妻扱いしないとは言われていない。
離婚するともだ。
愛の無い結婚でも閨以外では妻として振舞うことを求めているかしもれない。
身勝手だが相手のほうが立場は上だ。こちらは忖度する側だった。
つまり俺は夫である彼の機嫌を損ねてはいけない。
そんなことを考えてモヤモヤしていると唐突に公爵が此方を見上げてくる。
俺は上げそうになった悲鳴を寸でのところで噛み微笑んだ。




