4.愛してもいない癖に
セシリアは女性にしてはハスキーで低い声をしている。
俺はそんな彼女の声を真似るのがそこそこ得意だった。独特のアクセントが似せるポイントだ。
エストは騙せないが家族でさえたまに間違える位のクオリティはあった。
だから親たちも大して心配せず公爵邸にいってらっしゃいと女装した俺を送り出したのだ。
しかしアリオスはすぐ俺の声がセシリアと違うと気づいた。愛してもいない癖に。
「……彼は神経質な人間なのかな、出来るだけ近づかないようにするか」
「公爵のことですか?」
「そう、なんか結婚した後に君を愛するつもりはないとか言ってくる変人だった」
「愛してないならさっさと離婚して貰いましょう、協力します」
「だな」
エストの言葉に俺は頷く。
昨日の結婚式、神秘的な色合いの髪をオールバッグにしたアリオスは同性から見ても美麗だった。
格好良いとか通り越して美しかったのだ。確かに噂通りの無表情だったが。
セシリアに対する彼の気持ちは分かったが、妹があの人形公爵をどう思っていたかはわからないままだ。
多分恋はしていないと思う。アイリーンの件を抜きにしても。
万が一、妹が彼に惚れていたならその時は多分俺はアリオスをぶん殴ってしまう。
愛するつもりはないなんて、初夜の場で暴露すべき本音ではないからだ。
いや、でも殴らないかも。色々立場があるし。こっち側も碌な事してないし。
ただずっと陰湿に嫌いで居続けるとは思う。
「そういえば、奥様から予備のヘアウィッグを幾つかお借りしてきました」
「ああ助かる、家族全員同じ色の髪で助かったわ」
俺の髪の長さだと今のセシリアよりは短いからな。
自分の茶色の髪に触れながら言う。
俺の髪は男にしては少し長くて女にしては少し短い。
それを物心ついた時から大体細いリボンで一つに結んでいた。
セシリアもドレスを着ていない時は同じようしていた。服装まで同じな時も多々あった。
というかあいつが俺の服を「汚してもいい奴」扱いして勝手に借りていくのだ。
いっそ俺の衣装棚の服を全部フリフリのドレスに入れ替えようかと思ったこともある。
だがセシリアは別に女性らしく着飾ることが嫌な訳ではないし、俺がフリフリに飾り立てられる未来が見えたので断念した。
幼馴染のアイリーンは俺たち双子が似たような恰好をしていると嬉しそうに笑う。
いつもどこか幸薄そうな彼女が喜ぶならいいと納得してもいた。
そして今俺はセシリアのドレスを着てセシリアの真似をする羽目に何故かなっている。
女性陣は皆俺だけ置いてどこかへ消えて行ってしまった。
「そういえば今日セレスト様のクローゼットを確認したらシャツやズボンが何着か消えてましたよ」
「あいつ、自分の服持って行けよ……!」
瞼の裏に妹の無駄に爽やかな笑顔が浮かび俺は歯ぎしりをする。
エストは「でも下着に手を付けた痕跡はありませんでしたよ」と謎のフォローをしてきた。




