18.赤いジャムと白い公爵
「アンブローズ公爵様がお持ちの茶葉、そちらは全て淹れても赤くならないものでしょうか?」
「そうだ」
挨拶や前置きなど一切無しでエストがアリオスに話しかける。
しかし無礼だと咎めることも無く人形公爵は即答を返した。
「つまり奥様は今後この種類の中から茶葉を選ぶようにという御命令で合っていますか?」
「私が居ない時は、これに限らず好きなものを自由に飲んで構わない」
成程。そこまで言われて俺はやっと気づく。
公爵が持って来た茶葉の缶はいわゆるお試しセットというものか。
そして全部抽出した茶の色は赤くないらしい。
以前飲んだローズヒップティーとか普通に真っ赤だった気がするが、公爵の反応を考えると違うのかもしれない。
特に紅茶に思い入れのない自分の記憶よりは普段紅茶を淹れるエストと、わざわざ数種類の缶を持参してきたアリオスの方が信頼できる気がする。
ローズヒップティーの記憶があるのも、やたら酸っぱくて印象に残っただけだし。
そんなことを考えているとメイド服のエストがとんでもないことを言い出した。
「奥様は苺ジャムと新鮮な牛乳を使ったジャムラテがお好きです」
「は?ちょっ」
「キッチンメイドに言えばどちらも用意して貰える筈だ」
よりにもよって赤い物が嫌いな公爵に何を暴露してくれてるんだこの従者は。
というかそうじゃなくても家族以外にその子供っぽい飲み物が好きなことを知られるのは恥ずかし過ぎるのだが。
「では苺ジャムをパンやスコーンなどにたっぷり付けて召し上がるのも?」
「私の前以外では好きにすればいい」
「良かったです。奥様は普段から苺のない世界なんて死んだ方がマシが口癖ですので」
ホッとしたような笑顔を浮かべてエストが言う。
口癖どころかそんな発言をしたこと自体が皆無だが。いや苺が好きなのは本当だけれど。
しかしどうしてこんなことを言い出したんだ俺の従者は。
絶対何かコメントした方が良いと思いながらも適切な台詞を思いつかない。
侍女服の従者と無表情の公爵をおろおろ眺めながら俺は焦る。
そういえばこの二人は身長差が殆ど無いな。
しかしアンブローズ公爵って肌が本当白いんだな。全体的に色素が薄い。
同じように赤い血が流れていると思えない。だから人形と呼ばれるのかもしれない。
本当に人形なら綺麗だなで終わるが、生きている人間だとその青白い顔は不安になる。
赤い物が見たくないレベルで嫌いだと言っていたけれど、普段どんな食事をしているのだろうか。
もしかして肉とか一切食べてないんじゃないだろうか。
余計な事を考えて勝手に心配していると、エストがアリオスから缶の入った籠を受け取っていた。
「あ、有難うございます。私なんかにこんな気を遣って頂いて……」
俺は慌てて公爵に礼を言う。
「気を遣ったのは君にではなく私自身にだ、礼を言う理由が分からない」
そう返され俺は今後彼の前で飲む物全てに苺ジャムを突っ込んでやろうかと一瞬悩んだ。
公爵が悪人か未だにわからない。
だが面倒な男であることは確実だった。うん、離婚したい。




