17.缶の中身
俺より頭一つ分は高い長身。しかも飛び抜けて美形だ。
そんな目立つ特徴を持つ人物が自分の部屋の前に立っていた。
それなのに気づくのが大分遅れる。目と鼻の先より少し距離がある程度だ。
公爵がわざと気配を消している訳ではないと思うが、なんというか存在が薄いのだ。
外見だけなら俺なんかより余程派手だというのに。
なんというか淡い色だけで描かれた美人画みたいな儚さを感じる。
だからといって彼を無視して部屋に入ることは出来ない。
物理的にも礼儀的にも無理だ。だから俺は公爵に呼びかける。
「……旦那様?」
この短い呼びかけには幾つかの意味が含まれている。
そこからどけと、何の用だが一番大きい主張だ。
アリオス・アンブローズは俺の声に俯いていた顔を上げ、そして又少し下げた。
こちらの目線に合わせようとしたのだろう。多少腹は立つ。
だがその動作で俺は彼が腕に何か抱えていることにようやく気付いた。
籠の中に小さな金属の缶が幾つか収納されている。
何だろうと考えていると彼がその内の一つを手に取った。
「これはミントティーだ」
「……はい?」
ずいと目の前に缶を突き出され、俺は半歩後ろに下がった。
近過ぎると逆に全貌が見え辛いものだ。
彼が差し出した青く四角い缶には植物の絵がプリントされている。
成程、茶葉の入った缶か。
籠の中入っている他の缶も色は違うが同じ形をしている。
種類違いの茶葉だろうか。
しかし何で公爵はそれを持って俺の部屋の前に居るんだ。
俺の疑問を感じ取ったのか彼は別の缶を手に取り言った。
「こちらはグリーンティー」
「はあ」
「そしてこの薔薇が描かれた缶がローズヒップティーだ」
アリオスの説明に俺は気が乗らない相槌を打つ。
俺が知りたいのは茶葉についてでなく、茶葉の入った缶を持って部屋の前に居た理由なのだ。
もしかして一緒にお茶がしたいのだろうか。だとしたら誘い方が下手過ぎる。
仕方が無いので俺は自分から誘い直してみることにした。
「あの、旦那様。宜しければ今から私とお茶を楽しみませんか?」
そちらの茶葉を使って。
にっこりと微笑んで言うと男は表情を変えず首を振る。
「それは出来ない、仕事がある」
じゃあもう帰って良いよ。というか何しに来たんだよ。
気を遣った俺が自意識過剰みたいじゃないか。恥ずかしくて死ぬわ。
そう言いたくなる気持ちを愛想笑いに隠し俺は残念ですと返した。
いや本当に俺の部屋の前に何しに来たんだこの人形公爵は。
そんな内心の疑問に答えをくれたのは、背後に立つ黒髪長身のメイドだった。




