14.苦手な色
「でも紅茶を見るのが嫌なレベルで赤色が嫌いって言うのも、特殊だよな」
俺は赤い装飾品を集め仕舞い込むエストに向かって話しかけた。
そりゃ人間なんだから好きな色や嫌いな色はあるだろう。
だが嫌うにも限度があると思う。
自分が着る服には選ばないとか、美味しくなさそうだから食べないとか。
それなら少しは理解できるが、他人の飲み物や口紅にまで文句を言うのは変だ。
俺の主張にエプロンドレスを纏った従者はどこか冷めた目で返した。
「紅茶は兎も角、口紅や服装に関しては偶に聞く話ですが」
「初耳だが」
「恋人の服装や化粧に文句をつける男への愚痴とか耳にしたことありませんか?」
「誰からだよ」
「女性からですよ」
姉も妹もいるがそんな話聞いたことが無い。母からもだ。
そう返すとエストは「あの方たちはそんなこと言わせないでしょう」と淡々と答えた。
試しに脳内でそれぞれに対し「俺が嫌だからこの色の服を着るな」と文句をつけてみる。
母と姉は笑って俺を赤ちゃん扱いし双子のセシリアは「私はこの色が好きだ」と言ってきた。
あくまで想像だが現実でも似たような結果になると思う。
「嫌いな物を近づけたくないという欲求と支配欲ですかね、恋人を自分の思い通りにしたいという」
「支配欲……俺には理解出来ないな」
「セレスト様は女性に優しいですからね、ただあの公爵はどうでしょう」
冷たい表情でエストは言う。
王家と縁続きの公爵家の当主。おまけに外見もすこぶる良い。
アリオス・アンブローズが多少傲慢な男でも嫁ぐ女性はいるだろう。
生まれと立場を考えればあの男の支配欲が強くても驚かない。
だが俺は首を振った。
「わからないけど、ろくでもない男なら……セシリアはそもそも結婚しないと思う」
「ええ、結婚する前に居なくなりましたね」
「そういうことじゃなくて……」
婚約者の人格に問題があったなら前日とかではなくもっと早く判断を下す気がする。
こんな男の妻にはなれないと。
王家が斡旋した縁談だが絶対受け入れなければいけない物では無かった。
そもそもセシリアが王女を庇い大怪我で職を辞した際の救済案として出て来た話なのだから。
「第一セシリアが旅に出たのは恐らくアイリーンと……」
そう、俺の婚約者と駆け落ちをしたからだ。
あっさりと口にするのは未だ難しい。
それにしたってどうして結婚式前日にとは思ってしまう。
頭が痛くなることだらけだ。
結婚式直前に消えた俺の妹と婚約者。
初夜の場で愛してないと宣言してくる人形公爵。
庭で口紅を強引に拭い去ったあの細い指先。
黄色い薔薇にオレンジ色のジュース。
紅茶が嫌いで赤い口紅が嫌いで。
でも俺がオレンジジュースを飲もうとしたら喉に悪いと止めて来た。
そのまま無視しても問題無かったのに。
腹を立てたが冷静に考えると傲慢で支配欲の強いだけの男とは思えない。
それに俺の唇に触れた指先は僅かに震えていた気もする。
「公爵は赤い色が、凄く苦手なのかもしれないな……」
見ただけで具合が悪くなるとか。
そんなことを言い出した俺にエストは「坊ちゃまは人が良すぎますよ」と呆れた顔をした。




