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俺は戦場から逃げたいだけなのに、評価が積みあがる ~無能扱いだった後方担当が、なぜか英雄になる件  作者: 三浦レン


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第9話 彼がいなかった戦線

 その戦線は、アレンの担当ではなかった。


 地図上では南側。

 補給線も短く、敵の圧力も比較的弱いと判断されていた区域。

 経験豊富な指揮官が配置され、事前評価も高い。


 だからこそ。


「今回は、フォルツの助言は不要だ」


 軍議でそう判断された時、誰も異を唱えなかった。


 アレン自身も、内心で安堵していた。


(……正直、助かった)


 これ以上、余計な責任を背負いたくない。

 自分の関与しない場所であれば、結果がどうなろうと――。


 そう思っていた。


 数日後。


 その戦線からの報告は、短く、重かった。


「……壊滅?」


 読み上げられた文面に、室内が凍りつく。


 敵の動きは予想より早く、側面を突かれた。

 撤退命令は出されたが、補給路が混乱し、部隊は分断。

 生還者は、わずか。


 アレンは、書類を持つ手に力が入るのを感じた。


(……まただ)


 胸の奥が、嫌な形で締め付けられる。


「フォルツ」


 呼ばれて、顔を上げる。


「……はい」

「この戦線には、君は関与していないな」

「はい」


 事実だった。


「意見も、出していない」

「求められていませんでしたので」


 その答えに、誰かが小さく息を吸った。


 責める声は、ない。

 だが、空気が変わったのは、はっきりと分かった。


「……結果として」


 将軍の一人が、重く言う。


「フォルツが関わった戦線は、生還率が高い」

「関わらなかった戦線は――」


 言葉が、途中で止まる。


 続きは、誰もが分かっていた。


 アレンは、視線を落とした。


(……違う)


 それは、偶然だ。

 準備の有無。

 状況の差。

 自分がいたかどうかで、結果が変わるはずがない。


 だが。


「次からは」


 別の将校が、静かに言った。


「フォルツの意見を、一度は聞くべきではないか」

「……そうだな」


 同意の声が、ぽつぽつと上がる。


 アレンは、思わず口を開いた。


「僕がいなくても、正しい判断は――」

「分かっている」


 遮られる。


「だが、結果が違う」


 その一言が、重かった。


 軍議が終わった後。

 アレンは、倉庫へと逃げるように戻った。


「……おかしいだろ」


 独り言が、自然と漏れる。


 彼は何もしていない。

 助言もしていない。

 ただ、そこに“いなかった”だけだ。


 なのに。


 結果だけが、意味を持ち始めている。


「フォルツさん」


 声をかけてきたのは、リーシャだった。

 表情は、硬い。


「……聞きました」

「はい」


「あなたは、関わっていなかった」

「……はい」


 一瞬、沈黙。


「それでも」


 リーシャは、言葉を選ぶように続ける。


「もし、あなたがいたら」

「違う結果になったかもしれない、と」


 その言葉に、アレンは顔を上げた。


「……それは、言い過ぎです」

「かもしれません」


 リーシャは、否定しなかった。


「でも、現場はそう思っています」

「“あなたがいなかった”ことを、悔やんでいます」


 アレンは、何も言えなかった。


 自分の存在が、そんな風に扱われることを、想像したことがなかった。


(……重い)


 それが、正直な感想だった。


 この日を境に。


 王国軍内部では、はっきりとした区別が生まれる。


 ――フォルツが関わった作戦。

 ――フォルツが関わらなかった作戦。


 本人の意思とは無関係に。


 彼の“不在”ですら、判断材料として扱われるようになっていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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