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俺は戦場から逃げたいだけなのに、評価が積みあがる ~無能扱いだった後方担当が、なぜか英雄になる件  作者: 三浦レン


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第3話 前線崩壊

 側面からの敵影確認。


 その報告がもたらしたのは、混乱だった。


「規模は!?」

「数は!?」

「どこから回り込んできた!」


 指揮幕舎の中で怒号が飛び交う。伝令兵は息を切らしながら答えた。


「数は不明! ただ、想定よりも早い速度で――」

「斥候は何をしていた!」

「確認を急がせろ!」


 誰もが声を荒げ、誰もが焦っていた。

 それは、予想外の事態に直面した時の、典型的な反応だった。


 アレンは、少し離れた位置からその様子を見ていた。


(……連絡が遅い)


 敵影の報告自体が遅れたわけではない。

 だが、情報が整理されないまま、感情だけが先行している。


「フォルツ!」


 突然、指揮官の一人がアレンを呼んだ。


「補給線はどうなっている!」

「現時点では、主ルートは問題ありません。ただ――」

「ただ何だ!」

「側面が突破された場合、遮断される可能性があります」


 一瞬、場が静まり返る。


「だから言っただろう!」

「今はそんな話をしている場合じゃない!」


 怒鳴り声が飛び、アレンはそれ以上言葉を続けなかった。


(……もう、間に合わない)


 彼はそう判断した。


 敵が側面に回り込んだということは、正面の圧力は囮だった可能性が高い。

 つまり、これから来るのは――。


「前線が、押されています!」


 別の伝令が駆け込んでくる。

 混乱は、一気に加速した。


「前進だ! 押し返せ!」

「いや、隊形が崩れている!」

「予備隊を出せ!」


 命令が錯綜し、誰が何を指揮しているのか分からなくなる。

 アレンは、その様子を見ながら、胸の奥が冷えていくのを感じていた。


(……これ以上、前に出たら)


 彼は地図に視線を落とす。

 赤線で引かれた主補給路。

 その横に、細く描かれた予備ルート。


 まだ、使われていない。


「マルティナさん」


 アレンは補給部門責任者の元へ向かった。


「どうした」

「撤退準備を始めた方がいいと思います」

「……状況は?」

「最悪を想定した方がいい段階です」


 マルティナは一瞬、目を閉じた。


「……分かった。私の判断だ。動きなさい」


 その言葉を聞いた瞬間、アレンは小さく息を吐いた。


(間に合えば、いいけど)


 彼は補給兵たちに指示を出し始める。


「予備ルートを開けてください」

「物資は小分けに、運びやすい形で」

「夜間行動の準備も」


「撤退ですか?」

「まだ命令は出てないぞ」


 戸惑いの声が上がる。

 それでも、アレンは淡々と答えた。


「使わなければ、それでいい準備です」

「……分かりました」


 兵士たちは半信半疑ながらも、動き始めた。


 その頃、前線では。


「押し返せ!」

「隊列を保て!」


 叫び声と、金属音と、悲鳴が入り混じっていた。


 敵は、明らかに訓練されていた。

 側面から崩し、混乱を拡大し、逃げ場を潰す。

 それは、偶然ではない動きだった。


「退路が……!」

「後ろが塞がれた!」


 その報告が上がった時、すでに遅かった。


 主補給路は敵に押さえられ、前線部隊は孤立しかけていた。


「撤退だ! 退け!」


 ようやく出た命令は、しかし、あまりにも遅い。


 兵士たちは、どこへ逃げればいいのか分からず、散り散りになった。


 一方、後方。


「第一予備ルート、通行可能です」

「第二も、なんとか」


 報告を聞きながら、アレンは歯を食いしばる。


(……来てくれ)


 それは祈りだった。

 自分の準備が正しかったかどうかを、確かめるための。


 やがて、ばらばらになった部隊が、少しずつ後方へと流れ込んできた。


「……生きてる」

「助かった……」


 血と泥にまみれた兵士たちが、予備ルートを通って戻ってくる。

 数は少ない。

 だが、確実に、生きている。


 アレンは、その光景を遠くから見つめていた。


(……よかった)


 胸の奥で、安堵と、そして重い感情が渦を巻く。


 助かった人間がいる。

 同時に、助けられなかった人間もいる。


 その現実から、彼は目を逸らさなかった。


 この時点では、まだ。


 誰も、この撤退が「仕組まれていた」などとは思っていない。

 ただの、混乱の中の、偶然の生還。


 そう認識されていた。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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