表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は戦場から逃げたいだけなのに、評価が積みあがる ~無能扱いだった後方担当が、なぜか英雄になる件  作者: 三浦レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/28

第20話 逃げ道は、ここにある

 出陣前の空気は、いつも独特だった。


 張り詰めているのに、騒がしい。

 皆が言葉を発しているのに、肝心なことは誰も口にしない。


 大規模戦。

 これまでとは、明らかに規模が違う。


 前線の兵力。

 補給の量。

 後方の動員。


 すべてが、「次は大きい」と語っていた。


 アレン・フォルツは、その喧騒から少し離れた場所にいた。

 いつも通り、倉庫の裏。

 地図と帳簿を広げている。


(……嫌な感じだ)


 戦う前のこの空気は、どうしても慣れない。

 勝つ前提で動くとき、人は退くことを考えなくなる。


 だからこそ。


 アレンは、地図の一点を指で押さえた。


「……ここ」


 撤退路。

 夜間移動用の仮設道。

 照明配置。


 誰も見ていない。

 誰も評価しない。


 それでいい。


「フォルツさん」


 背後から声がした。

 リーシャだった。


「始まります」

「……はい」


 彼女は、少しだけ言いづらそうに続ける。


「皆、緊張しています」

「そうでしょうね」


「でも」


 リーシャは、言葉を選ぶ。


「不思議と、落ち着いています」

「……どうしてですか」


 アレンは、分かっているのに聞いた。


「あなたが、後ろにいるからです」


 その言葉に、胸が少しだけ痛む。


「前に立つ人が、いなくても」

「逃げ道があると思える」


「それだけで」

「人は、踏み出せるんですね」


 アレンは、苦笑した。


「……それは」

「褒め言葉じゃ、ないですよ」


「いいえ」


 リーシャは、首を振る。


「私は」

「それでいいと思っています」


 遠くで、角笛が鳴った。


 出陣の合図だ。


 兵士たちが、動き始める。

 誰も、アレンを振り返らない。


 だが、誰もが知っている。


 もし、どうしようもなくなったら。

 退くべきだと感じたら。


 彼の準備が、そこにあることを。


 前線から、報告が入る。


「接触!」

「敵、予想以上の兵力!」


 声が上ずっている。


 アレンは、深く息を吸った。


「……退けますか」


 それは、命令ではなかった。

 提案でもない。


 ただの、確認だ。


 一瞬の沈黙。

 通信の向こうで、誰かが答える。


「退けます」

「あなたがいるなら」


 その言葉に、アレンは目を閉じた。


(……また、だ)


 自分は、戦わせないためにここにいる。

 それだけなのに。


「退路、確保」

「照明、点灯」

「負傷者を優先」


 彼は、淡々と指示を出す。

 それは、戦闘ではない。

 撤退の作業だ。


 やがて、報告が変わる。


「部隊、後退成功」

「大きな混乱なし」


 誰も、勝ったとは言わない。

 だが、誰も死んでいない。


 それで、十分だった。


 夜。

 すべてが終わった後。


 倉庫の外で、アレンは一人、腰を下ろしていた。


 空には、星が浮かんでいる。

 いつもと、何も変わらない。


「……俺は」


 独り言が、静かに落ちる。


「逃げてるだけだ」

「戦うのが、怖いだけだ」


 それでも。


「戦わせないために」

「ここにいる」


 それが、自分の逃げ方だ。


 英雄には、なれない。

 指揮官にも、ならない。


 だが。


 逃げ道は、ここにある。


 そして、その逃げ道を知っている限り。

 人は、無謀に前へ進まずに済む。


 それが、アレン・フォルツという人間の役割だった。


 第一部、了。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ