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俺は戦場から逃げたいだけなのに、評価が積みあがる ~無能扱いだった後方担当が、なぜか英雄になる件  作者: 三浦レン


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第19話 役割という名の居場所

 王都からの使者が到着したのは、昼を少し過ぎた頃だった。


 白を基調とした外套。

 過度な装飾はなく、だが一目で分かる身分の高さ。


 補給拠点の空気が、わずかに張り詰める。


「アレン・フォルツ殿を」


 名を呼ばれた瞬間、胸が小さく跳ねた。


(……また、か)


 案内されたのは、簡素な応接室だった。

 豪奢さはないが、無駄もない。


 そして、そこにいたのは。


「お久しぶりです、アレン」


 第三王女セレナだった。


「……お久しぶりです」


 深く頭を下げる。

 前回よりも、心拍数は落ち着いていた。


「急に呼び立てて、ごめんなさい」

「いえ」


 彼女は、椅子に腰掛けるよう促す。


「今日は、報告を聞くためではありません」

「……では?」


「確認です」


 その一言が、妙に重かった。


「あなたは」

「判断を避けている人ではありませんね」


 アレンは、即答できなかった。


「……避けて、います」

「そう見えますか」


 セレナは、穏やかに笑った。


「私は、そうは思いません」


 彼女は、机の上に一枚の書類を置く。


「昨夜の件」

「判断は遅れた」

「しかし、部隊は生還した」


 事実だけが、並べられる。


「あなたは、即断しなかった」

「それは、事実です」


「ですが」

「即断できない状況を、事前に想定していた」


 アレンは、黙って聞いていた。


「退路」

「夜間灯」

「混乱を抑える配置」


「それらは」

「判断を“遅らせるための準備”です」


 その言葉に、胸の奥がざわつく。


(……そんなつもりは)


「多くの人は」

「決断とは、即座に下すものだと考えます」


「でも」

「あなたは違う」


 セレナは、はっきりと言った。


「あなたは」

「決断を遅らせることで」

「選択肢を残す人です」


 沈黙が落ちる。


 アレンは、ようやく口を開いた。


「……それは」

「逃げだと思っていました」


「逃げることが、悪だと思いますか?」


 不意の問いに、言葉が詰まる。


「……分かりません」


「なら」


 セレナは、静かに続ける。


「国家にとって」

「最も必要なのは、何でしょう」


 英雄か。

 勝利か。


 アレンは、答えなかった。


「――敗北しないことです」


 セレナは、自分で答えを出す。


「勝つことは、賭けです」

「ですが、負けないことは、設計できます」


 その言葉が、すとんと落ちた。


「あなたは」

「戦争を終わらせる人ではありません」


「ですが」

「戦争を“壊さない”人です」


 アレンは、視線を下げる。


「……そんな、大層な」


「肩書きは、要りません」


 セレナは、きっぱりと言った。


「命令権も、与えません」

「前線に立つ必要もありません」


「ただ一つ」


 彼女は、まっすぐにアレンを見る。


「撤退判断の」

「最終安全装置でいてください」


 最終安全装置。


 それは、役職でも、称号でもない。

 だが、逃げ道でもなかった。


「拒否は、できますか」


 アレンは、しばらく考えた。


 逃げたい。

 関わりたくない。


 その気持ちは、今も変わらない。


 だが。


「……拒否しても」

「現場は、僕を見ると思います」


 セレナは、頷いた。


「ええ」


 それが、答えだった。


「なら」


 アレンは、静かに言う。


「今までと、同じで」

「いいでしょうか」


「判断を急がず」

「分からない時は、分からないと言う」


「それでも」

「準備は、続けます」


 セレナは、少し驚いたように目を見開き。

 やがて、柔らかく微笑んだ。


「それで、十分です」


 立ち上がり、去り際に一言。


「居場所は」

「無理に、掴むものではありません」


「あなたは」

「もう、そこにいます」


 扉が閉じる。


 アレンは、一人、応接室に残された。


 英雄でもない。

 指揮官でもない。


 だが。


(……役割、か)


 逃げ続けた先に、

 逃げるための居場所が出来てしまった。


 それが、重いのか。

 それとも、救いなのか。


 まだ、分からない。


 だが確かなのは。


 アレン・フォルツは、

 この場所から――もう外れない、ということだった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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