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俺は戦場から逃げたいだけなのに、評価が積みあがる ~無能扱いだった後方担当が、なぜか英雄になる件  作者: 三浦レン


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第14話 敵の読み違い

 敵国軍・前線司令部。


 重厚な机の上に広げられた地図を前に、ヴェルナー・シュトラウスは無言で立っていた。

 周囲には、数名の参謀と副官が控えている。


 沈黙が、長い。


 それを破ったのは、副官の一人だった。


「……王国軍の動きですが」

「相変わらず、大きな進軍は見られません」


 ヴェルナーは、視線を地図から外さない。


「こちらの突出拠点を見送った件だな」

「はい。攻めてくると見ていましたが」


「来なかった」


 低い声が、室内に落ちる。


「伏兵の存在を、把握していた可能性は?」

「否定できません」


 ヴェルナーは、ゆっくりと頷いた。


「やはり……いるな」

「後方で、全体を見ている人間が」


 参謀の一人が、眉をひそめる。


「慎重すぎる判断とも取れますが」

「違う」


 即座に否定された。


「慎重なだけの人間は、いずれ動く」

「だが、今回は“動かないこと”を選んだ」


 ヴェルナーは、駒を一つ、指でずらす。


「これは、待ちだ」

「我々が動いた瞬間を、狙っている」


 副官が、息を呑む。


「つまり……」

「こちらが不用意に前に出れば、退路を断つつもりだろう」


 それは、完全な誤解だった。


 だが、ヴェルナーの論理は破綻していない。

 彼の中では、すべてが繋がっている。


「王国軍は、撤退を恐れなくなった」

「つまり、撤退できる準備がある」


 彼は、報告書を一枚取り上げる。


「補給線が、異様に安定している」

「物資の分散配置」

「夜間移動の痕跡」


「……確かに」

「これは、攻勢の準備ではない」


 ヴェルナーは、静かに結論を出す。


「大規模な衝突は、避けるべきだ」

「今、動くのは危険すぎる」


 副官が、慎重に尋ねる。


「では、どうなさいますか」

「兵力を分散させる」


 その一言に、周囲がざわめく。


「後退ではない」

「だが、集中もさせない」


 ヴェルナーは、淡々と命じた。


「補給線を引き直し、各部隊を防御重視に切り替えろ」

「敵の動きが見えるまで、攻勢は取らない」


 命令は、即座に伝達された。


 結果として。


 敵軍の圧力は、目に見えて弱まった。


 一方、王国軍側。


 前線では、予想外の“静けさ”が広がっていた。


「……敵が、引いた?」

「完全撤退じゃないが」

「明らかに、圧が減っている」


 報告を受けた指揮官たちは、戸惑いを隠せない。


「フォルツは、何か言っていたか」

「いえ、特には」


 アレンは、その場にすらいなかった。


 彼はいつも通り、倉庫で帳簿を確認している。


「……妙だな」


 補給兵が、ぽつりと呟く。


「最近、敵の動きが鈍い」

「そうだね」


 アレンは、特に気にした様子もなく返す。


(……良かった)


 それが、正直な感想だった。


 戦わずに済む。

 誰も死なない。


 理由が何であれ、それでいい。


 だが、上層部は違った。


「敵が警戒している」

「こちらの動きを、読まれている可能性がある」


 議論の末、名前が挙がる。


「……フォルツの存在か」


 アレンの知らない場所で、彼の“慎重さ”は、

 また一段、別の意味を与えられていた。


 この戦線が、しばらく大きな衝突を迎えなかったのは。


 彼が何かをしたからではない。


 彼が“何もしなかったこと”が、

 相手の判断を狂わせたからだった。


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