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俺は戦場から逃げたいだけなのに、評価が積みあがる ~無能扱いだった後方担当が、なぜか英雄になる件  作者: 三浦レン


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第10話 第三王女の興味

 その呼び出しは、あまりにも唐突だった。


「補給担当のアレン・フォルツを、王都へ」


 伝令が読み上げたその命令に、周囲がざわめいた。

 アレン自身は、意味が理解できずに立ち尽くしていた。


「……王都?」


 聞き返すと、伝令は無表情のまま頷く。


「第三王女殿下が、お会いになりたいそうだ」

「え?」


 声が裏返った。


(……なんで?)


 頭の中で、その疑問が何度も反響する。

 補給担当。

 後方要員。

 王族と顔を合わせる理由など、どこにもない。


 だが、命令は命令だった。


 数日後。

 王都の白い城壁を前に、アレンは完全に萎縮していた。


(帰りたい……)


 豪奢な建物。

 整然とした兵列。

 空気そのものが、前線とは違う。


 案内されたのは、庭園に面した応接室だった。

 柔らかな日差しが差し込み、花の香りが漂っている。


「お待たせしました」


 その声に、アレンは慌てて立ち上がった。


 入ってきたのは、若い女性だった。

 淡い色のドレス。

 年齢は、十八ほどだろうか。


 だが、その佇まいには、不思議な落ち着きがあった。


「初めまして、アレン・フォルツ」

「は、はい」


「私は、セレナ」

「第三王女を務めています」


 深々と頭を下げると、彼女はくすりと笑った。


「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」

「……努力します」


 その返答に、セレナは楽しそうに目を細めた。


「今日は、あなたを叱るために呼んだわけではありません」

「そう、ですか」


 少しだけ、肩の力が抜ける。


「単純に、興味があったんです」

「……興味?」


「ええ」


 セレナは、椅子に腰掛けながら続ける。


「最近の戦況報告を読んでいて、妙なことに気づきました」

「妙なこと、ですか」


「あなたが関わった作戦は、被害が少ない」

「関わらなかった作戦は、被害が大きい」


 淡々と、事実だけを並べる。


「ですが、あなた自身は」

「目立った功績を主張していない」


 アレンは、黙って聞いていた。


「だから、知りたかった」

「あなたは、“何をしている人”なのか」


 その問いは、責めるものではなかった。

 ただ、純粋な探究心。


「……僕は」


 アレンは、正直に答えた。


「失敗したくないだけです」

「失敗?」


「人が死ぬのが、嫌なので」

「だから、最悪を考えます」


 セレナは、驚いたように瞬きをした。


「それだけ?」

「それだけです」


 沈黙が落ちる。


 やがて、セレナは静かに笑った。


「……面白いですね」

「え?」


「多くの人は、勝つ方法を語ります」

「でも、あなたは“負けない方法”しか考えていない」


 彼女は、アレンをまっすぐに見た。


「それは、とても珍しい」

「珍しい……ですか」


「ええ。特に、この国では」


 セレナは、少しだけ声を落とす。


「王国は、勝利を望みます」

「英雄を必要とします」


 その視線が、鋭くなる。


「でも、国家が本当に必要としているのは」

「敗北を回避できる人間です」


 アレンは、思わず息を呑んだ。


(……そんな大それた)


 彼女は、軽く首を傾げた。


「安心してください」

「あなたを前線に立たせるつもりはありません」


 その言葉に、心から安堵する。


「ただ」


 続く一言で、安堵は打ち消された。


「あなたの考え方を、少しだけ」

「国の判断材料に加えたいのです」


 それは、命令ではなかった。

 だが、拒否権があるとも思えなかった。


「……分かりました」


 それしか言えなかった。


 別れ際。

 セレナは、ふと足を止めた。


「アレン・フォルツ」

「はい」


「あなたは、自分が特別だと思いますか」

「思いません」


 即答だった。


「臆病なだけです」

「……そう」


 彼女は、微笑んだ。


「その臆病さが」

「この国を救うかもしれませんね」


 その言葉が、冗談に聞こえなかったことに。

 アレンは、城を出た後も、しばらく気づかなかった。


 この日。


 彼の名前は、正式に。

 **王族の記憶**に刻まれた。


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