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私が筆を折った理由〜法律の斧〜

作者: 東雲 明

ある冬の午後、北海道の小さなアパートで、一人のアマチュア作家が最後のキーを叩いた。

彼女のペンネームは「東雲明」。

なろうに上げたラブコメは、累計で七万PVに届いていた。

過激な描写は一切なく、ただ高校生の男の子と、少し年下の女の子が、ぎこちなく手を繋いで、雪の降る公園で「また明日ね」と言い合うだけの物語だった。

でも、ある日、私は一つの長文コメントに心を砕かれた。

「この歳の差描写、法律的に完全にアウトだろ。児童ポルノ法の趣旨から見て実質的に児童性的対象化。作者は児童買春幇助罪に問われてもおかしくないレベル。

今すぐ全話削除して謝罪しろ。通報済み」

その言葉は、たった一行のコメントだったのに、

彼女の胸の中で巨大な斧のように育っていった。

翌朝から私は眠れなくなった。


「本当に捕まるのかな」

「出版社が興味持ってくれたら、もっとヤバいことになる?」


「私の書いた『好きだよ』の一言が、誰かを傷つける犯罪になるの?」


 ネットで検索すればするほど、

「児童ポルノ法の拡大解釈」「東京都青少年条例の有害指定」「わいせつ物頒布罪の判例」

という言葉が、次から次へと彼女の目を刺した。

誰かが書いた「最悪のケース」記事を、彼女は全部真に受けた。

三週間後、私は更新を止めた。

作品ページは「作者都合により非公開」とだけ表示された。

四週間目、私はアパートのベランダに立って、

雪が積もる街を見下ろした。

手には、印刷した自分の小説の原稿。

ページの隅に赤ペンで何度も書かれた文字。

「アウト」

「危険」

「通報」

「罪」

私は原稿を一枚ずつ、ゆっくりとちぎった。

雪の中に散らばる紙片は、まるで白い花火のようだった。

最後のページをちぎり終えたとき、

私は静かに呟いた。

「ごめんね。

もう、誰も怖がらせたくないから」

それから二日後、

近所の人が異臭に気づいて警察を呼んだ。

部屋の中には、ちぎられた原稿の断片と、

誰も読むことのなくなったラブコメのファイルだけが残されていた。

ネットでは、

「最近更新止まったあの作品、どうしたんだろう」

「作者さん、なんかあったのかな」

という数件の書き込みが、すぐに埋もれていった。

誰も知らない。

私が最後に見た夢の中で、

誰かが優しく言ってくれた言葉を。

「君の物語は、誰かを幸せにするためにあったんだよ。

それだけで十分だよ」

斧は、振り下ろされた。

でも、それは誰かの手によるものではなかった。

私自身が、自分の首にそっと当てて、

ゆっくりと、力を込めたのだ。

そして、

その斧の柄には、

「法律的に」「安全に」「リスクを避けて」

という、誰かが丁寧に彫った文字が、

永遠に残っていた。

何度も言いますが、この話はフィクションです。あなたが今準備している評価が本当にその作家を励まし鼓舞する物か、それとも作者を精神的に追い詰め、自殺にまで追い込む程の透明な刃をもつ物か、少しでも送信ボタンを押す前に一度立ち止まって3つ深呼吸してから考えて欲しいと思って書きました。どうしてもわからない場合、第3者に見てもらうという手もあります。どうか、何か一つでも刺さる点があると嬉しいです。

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