2 庭には埴輪
ひたすらに掘り続けたことで、庭にはちょっとした山ができていた。それはさっきからずっと由良が掘っていた穴から出た土であり、その量はおよそバケツ二、三杯分程度。
そんな大量の土を掘った先にあったのは、埴輪だった。この周辺では馴染みが深い埴輪がそこにはあったのだった。
「は、埴輪?なんで埴輪がこんなところに?」
「やっと掘り出してくれたな。ホントにずっと待っていたのだ!」
「やっぱりめちゃくちゃ喋っている……?音声……?」
どういうことなのかはまだ理解できていない。
俺が地面を掘った先には左手を上に上げた埴輪がいた。
しかも、鎧を身に付けてるタイプじゃなくてもっと簡素的な奴だ。
口を開けて、驚いたような顔をしている埴輪。
どうしてこんなところに埴輪が居るのだろうか?もしかして、本物か?まさしく掘り出し物か?この辺りだったらワンチャンそういうのもありえるのか?
「音声などではない!普通に喋っておる!」
「おじいちゃん?これ、話してるよね?」
「はぁ?なにを言ってるんじゃ?なにも話してなどおらんじゃろ?というか、またなんだか大袈裟なことをしよって。どうせそれも偽物の埴輪じゃろ?この辺りには埴輪を作れる施設もあるからな。誰かがそこに埋めたんじゃろ」
さすがは行田市だ、埴輪には慣れている。
じゃないんだ、本題はソッチじゃない。
今、おじいちゃんはこれが喋ってないって言ってたよな?
でも、どう考えても喋ってるよな?
「俺の声は霊感がある奴にしか聞こえないのだ!」
「な、なに!?俺って霊感があったのか!?」
「なんの話をしとるんじゃ?ワシよりも先にボケたか?」
俺はおじいちゃんに微妙に心配されていた。
でも、そんなことなんてどうでもよくなるくらいに衝撃的なことを言われている。霊感があるってどういうことだ?もしかして、この埴輪には幽霊が宿っている?
「幽霊なの?埴輪って」
「俺の名前は埴輪じゃない。サキタって名前なのだ。サキミタマの略でサキタ。まぁ、つまりは俺は神様みたいな存在ってことだな?」
なんだかよくわからない。
が、俺にしか声が聞こえていないのだとしたらそれは本当かもしれない。
サキタと「ユーレイ」のやり取りを不思議そうに眺めるおじいちゃん。彼の目には埴輪に対して話しかけている不思議な人間しかいなかった。その埴輪と当然ながら無表情のような顔だった。
「おじいちゃん。これ、どうしたらいいんだろ?どっか、市とか県に相談した方がいいのかな?」
「どうせ偽物の埴輪じゃ。そんなことせんでよい」
「そっかぁ。でもなぁ」
「俺としてもあんまりそういうのはしないでもらいたい。せっかく俺の声が聞こえる人間に出会えたのだ。ここでお別れというのはあまりにも悲しすぎるのだよ」
埴輪がそう言うならそうするべきなのか?
でも、逆に喋るような埴輪だから届けるべきという考えも。
なにがなんだかわからないけどきっと本物ではあると思う。
本当に古墳時代から家の庭に居た埴輪なんだと思う。って思ったけど、でも、普通に工事の時に掘り起こされてるはずだよな?そのときに見つかってないってことはやっぱり偽物?
実は工事のときにサキタは見つかっていた。しかし、こういう歴史的に価値がありそうな物のが見つかると工事が止まってしまうということと、サキタの一つしか埴輪がなかったことから現場判断で見なかったことにして埋められた。
ということは、この埴輪は俺の物ってことになるのか。
家まで持って帰るの地味に大変そうだな。
だって言うて単なる陶器?陶器ですらないのかもしれない。
とにかくめちゃくちゃ脆い素材だろうし、持ち運びは要注意だな。
「まぁ、じゃあ、とりあえずはこれからもよろしく」
「よろしく頼む。お前の名前は?」
「俺の名前は『由良礼』。あの、まぁ、よろしく」
急に埴輪に自己紹介してることが変に思えてきた。
実際に、おじいちゃんは俺のことを不思議そうに見ている。
でも、なんかギリギリ見逃してくれそうな感じだ。
普通だったらこんな埴輪に話しかけるような変な奴、もう関係切ってもいいくらいだけど年の功でなんとか許してもらえそうな感じがあった。
これから二人が除霊師をやるようになるまでにはそれなりの道のりがあった。しかし、それを全部説明するとなるともはや除霊どころではなくなるので一旦省かせてもらう。
とにかくなにが伝えたいのかというと、二人は埼玉県の行田市のおじいちゃんの庭で出会ったということだ。いや、別に一番伝えたいことはこれではなかった気もする。
◈◈◈
今にも幽霊や動物が飛び出してきそうな森の中。
俺としてはもはや幽霊よりも動物の方が怖い……ってほどでもないか。さすがにまだ動物よりも幽霊の方が怖いかもしれない。ただ、それは別として熊は怖い。
「よし。それじゃあ、除霊開始しますか。ちゃんと結界も張ったし」
「そうだな。油断するなよ。『ユーレイ』」
「サキタまでそのあだ名で言わなくていいのに。まぁ、頑張りますか」
ブックマークが増えると消えない、終わらない可能性が高まります
(週刊少年ジ○ンプ方式)




