12 ユイちゃん
「あのー、すみませーん。怪しい者じゃないんですけど、誰か居ませんか?」
「もしも成仏したいと言うのであれば成仏させてやるぞ。どこにいる?」
「なんだか“ワクワク”するわね。こんな事するの初めてかも?」
俺は二人を抱き抱えながらトンネルを進む。
かなり機動力に難ありだ。
なにかしらもっと簡単に運ぶ手段を考えなければならない。
まあ、走らなければいけないシチュエーションなんて今まで遭遇したことないし、別に両手が塞がっていたとしてもなんとかなるだろう。
それに、最悪、二人を置いていったとしても問題ない。
また拾いに行けばいいんだし。
ただ、こんなトンネルで落としたら少し心配だ。
車に轢かれたらさすがのサキタも壊れてしまうだろう。そうでなくても水無月さんは壊れるだろうから、置いたとしてもすぐに回収しないといけない。
なんかフラグのようになってないか?別に俺はなにかと遭遇してここから逃げ出すことになんて――
「マズイ!なんだか怪しい空気だ!」
「え?なに?そういうの初めてじゃない?」
「とにかく逃げろ!もしも俺たちの事が邪魔ならば一度置いてくれても構わない!先に俺が話をして相手の気持ちを落ち着かせておくから、生身の人間である礼は早くここから去れ!」
なにそれ!?
いきなりそれを言われた俺は全速力で走るために二人を地面に置いた。なんかちょっと申し訳ない気持ちもあったが、それでも二人がいたら上手に走れない。
“ダッダッダッダッ”と音が反響するトンネルの中で全力で走る由良。今まではそんなことなかったのにいきなり「走れ!」と言われて驚いている。
想像していたよりも悪霊的であったトンネルの霊。それでもそこに残された二人はしっかりと対象と話をしていた。
これは、どうすればいいんだ?
無事にトンネルの外へやって来た俺。
でも、また戻らないといけない。
戻らないといけないけど、戻るってことはまたその悪霊?の所へ向かうってところだからそうなるとどうすれば良いのかなって、なんか考えても無駄だな。
とりあえずはサキタのことを信じてちょっと待つことにしよう。でも、今すぐにでもそこへ行きたい気持ちと、今すぐにでも帰りたい気持ちが半々でヤバい。
とりあえず、塩でもかけとこ。
俺は自分に塩をかけた。
そして、とりあえずは祝詞を唱えてみる。
今までの経験からして意味があるのはわかっているけど、それでも無意味なのではないか?と思えてしまう気持ちを振り払いながらそれをする。
しばらくそれをしてからまたトンネルに向き直る。
サキタが霊の話を聞いてくれているはず。
だから、大丈夫なはず。
そう思って、ヤバそうなそこへまた足を踏み入れた。
由良はトンネルに入り、奥の方から微かに聞こえてくる話し声に耳を澄ませることにした。それはかなりの人数の話し声で、前に聞いていた家族の事故という噂を彼に思い出された。
そこには小さな少女の声もあった。痛ましい出来事に胸を痛めながらも、それでもやらなければならないので前へ前へと進んでいく由良。
「すみません。お邪魔してしまって」
「お兄さんは私たちの声が聞こえるんだよね?いきなり追いかけちゃってごめんね?」
「いや。大丈夫だよ。サキタと話したの?」
「うん!水無月ちゃんとも話した!お父さんとかお母さんとかおじいちゃんとかおばあちゃん以外とお話しするの久しぶりだからスゴい楽しかった!」
よかった。
もっと悪霊的な存在かと思ったらそうでもないみたいだ。
彼女の声は本当に可愛らしい少女の声といった感じだ。
小学校低学年くらいだろうか?恐ろしい雰囲気はない。
しかし、これだとサキタが俺に「逃げろ!」と言った理由がわからない。本人たちがいる前でそれを聞くわけにもいかないけど、どっかのタイミングで聞いてはおきたい。
とりあえず、一回出る事にするか?
そうしたらどんな話をしてたのかも聞く事ができる。
「どうする?サキタ、水無月さん、一回戻ってみる?」
「そうだな。またここへ帰ってくるよ。だから、一旦ちょっといいかな?」
「えぇー!やだやだ!もうちょっと話がしてたいよー!」
さすがは子供だ。
いかにも子供という風な感じの振る舞い。
というか、さっきは家族の声がしていたはず。
どうして今は少女の声しか聞こえてこないんだ?
不思議に思った俺はこの違和感の正体がなんとなくわかった気がした。それは、少女はここで一人で取り残されているという気だ。
「水無月さん。ちょっとここでこの子の相手をしてくれたりしても良い?」
「良いわよ。この子さえ良ければ」
「そうだ。名前は何て言うの?聞かせてくれる?」
「ユイって言うの。お兄さんは?」
「俺の名前は由良礼。よろしくね?ユイちゃん」
「なんか『ユーレイ』みたいな名前だね。よろしくね?礼!」
こんな小さな子にまで弄られてるよ。まあ、小さい子であれば全然許せるけどね?
俺は水無月さんを残してトンネルから去った。
サキタとあの子のことについて話す必要があったのだ。
実は毎日変わります、ここ。
モロモロモロモロです。よろしくお願いします。
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