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やわらかな光のなかで  作者: 冬木真人
それでもお互いを信じて
23/39

彼女が倒れたことを知る

11月も終わりに近づき、5時になると空がすっかり暗くなっていた。

街を歩く人々の装いも、マフラーや厚手のコートに変わりつつある。

北風がビルの合間を抜けるたび、乾いた落ち葉が路肩をかすかに舞い上がる。

冬はもう、すぐそこまで来ていた。


その知らせは、あまりに唐突で、しかも間接的だった。


いつものように、週次の進捗状況を確認するオンライン会議にログインした。

画面越しのメンバーたちはそれぞれ忙しそうに、資料の確認や報告を淡々と進めていた。ただ、その中に彼女の姿がなかった。


「…あれ、篠原さんは?」


何気なく問いかけた私に、同じ部署の若手が少し言いにくそうに口を開いた。


「…あ、えっと…篠原さん、体調崩されて…しばらくお休みされるとのことです」


「えっ、いつから?」


「一昨日の朝、倒れたみたいで……救急車で運ばれたって聞きました」


その言葉を聞いた瞬間、画面が揺れたような気がした。


会議はそのまま進行したが、耳に入ってくる内容は、どこか遠くにあるようで、焦点が合わなかった。

終わると同時に、私は無意識にスマホを手に取った。


メッセージの未読は、ない。

業務チャットの最後のやり取りも、数日前の確認メッセージで止まっていた。


胸の奥が、じわりと軋む。


彼女と電話で話したことを思い出す。


「そうか…」


あの日電話をかけてきたのは、せめて声を聞きたかったのか…。

なんとなく違和感を感じていたはずなのに、深く踏み込むことを避けていた自分がいた。


メッセージを打とうとして、送っていいものかどうか悩み、指が止まりかけたが、

短く「倒れたって聞いたけど……大丈夫?」とメッセージを送った。


こんな時、どんな言葉を選べばいいのかわからなかった。


病院名も、自宅の場所も知らない。

ただ、遠くのどこかで、彼女がひとりで眠っているかもしれないという現実だけが、重たく心にのしかかっていた。


会えないことが、これほど苦しいとは思わなかった。

何もできないことが、これほど無力だとは。


画面の向こうの静寂が、彼女の不在を突きつける。

そして、自分がまだ彼女の一番近くにはいないということを、痛いほどに思い知らされた。


次回は「優衣の心の葛藤」

入院した病室で、優衣が昌宏のことを考え思い悩む様子。

踏み込んでしまったことへの後悔、でも昌宏に会いたい…。

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