彼女が倒れたことを知る
11月も終わりに近づき、5時になると空がすっかり暗くなっていた。
街を歩く人々の装いも、マフラーや厚手のコートに変わりつつある。
北風がビルの合間を抜けるたび、乾いた落ち葉が路肩をかすかに舞い上がる。
冬はもう、すぐそこまで来ていた。
その知らせは、あまりに唐突で、しかも間接的だった。
いつものように、週次の進捗状況を確認するオンライン会議にログインした。
画面越しのメンバーたちはそれぞれ忙しそうに、資料の確認や報告を淡々と進めていた。ただ、その中に彼女の姿がなかった。
「…あれ、篠原さんは?」
何気なく問いかけた私に、同じ部署の若手が少し言いにくそうに口を開いた。
「…あ、えっと…篠原さん、体調崩されて…しばらくお休みされるとのことです」
「えっ、いつから?」
「一昨日の朝、倒れたみたいで……救急車で運ばれたって聞きました」
その言葉を聞いた瞬間、画面が揺れたような気がした。
会議はそのまま進行したが、耳に入ってくる内容は、どこか遠くにあるようで、焦点が合わなかった。
終わると同時に、私は無意識にスマホを手に取った。
メッセージの未読は、ない。
業務チャットの最後のやり取りも、数日前の確認メッセージで止まっていた。
胸の奥が、じわりと軋む。
彼女と電話で話したことを思い出す。
「そうか…」
あの日電話をかけてきたのは、せめて声を聞きたかったのか…。
なんとなく違和感を感じていたはずなのに、深く踏み込むことを避けていた自分がいた。
メッセージを打とうとして、送っていいものかどうか悩み、指が止まりかけたが、
短く「倒れたって聞いたけど……大丈夫?」とメッセージを送った。
こんな時、どんな言葉を選べばいいのかわからなかった。
病院名も、自宅の場所も知らない。
ただ、遠くのどこかで、彼女がひとりで眠っているかもしれないという現実だけが、重たく心にのしかかっていた。
会えないことが、これほど苦しいとは思わなかった。
何もできないことが、これほど無力だとは。
画面の向こうの静寂が、彼女の不在を突きつける。
そして、自分がまだ彼女の一番近くにはいないということを、痛いほどに思い知らされた。
次回は「優衣の心の葛藤」
入院した病室で、優衣が昌宏のことを考え思い悩む様子。
踏み込んでしまったことへの後悔、でも昌宏に会いたい…。