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【書籍化】素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる【シーモア3話先行コミカライズ連載中】  作者: 待鳥園子
第二章

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59 闘技大会

 闘技大会の入場券を手に入れるため、アリスは情報通のリリアから手に入れる方法を聞き、彼女と一緒に朝早くから並ぶことになった。


 薄暗い中で辺りを見回せば人人人で、かなり多くの人が夜も明けきらぬうちに並んでいる。


 こんな早朝から並ばされているというのにどこか楽しそうな表情をした彼らが、久しぶりに開かれる闘技大会に向けどれだけ興味を強く持っているのかこの光景を見ればわかろうものだ。


 自宅よりも城から近いリリアの家で時を待ち、自分は仮眠したいというリリアを時間通り起こして、二人はそろそろ並び始めるだろうという時間に外へと出て来ていた。


 アリスは寝坊してしまうのが怖くて、昨夜からずっと起きていた。何故かというと絶対に入場券は手に入れたかった。ゴトフリーが出場するというのに、自分が現場で応援しないなんてあり得ない。


(眠い……けど、ゴトフリーのためなら耐えられる。私は一晩くらい、徹夜出来るんだから……!)


 つい一昨日まで深夜に及ぶ残業をこなしていたせいか、疲労感もあってやたら眠たい。アリスは今にも閉じようとする瞼を強い意志の力だけで開いていた。


「……アリス。私、いま思ったんだけど」


 リリアは眠そうな顔で口に手を当てて軽く欠伸をしながら言った。


「なっ! ……なに!?」


 眠っていないせいか脳が興奮状態にあり、アリスは頭が回らないままにリリアの言葉に大きく反応した。


「闘技大会にゴトフリーさんは出場するんだから、彼の関係者席あるんじゃないの。ダニエルは今回出ないから、私うっかり忘れていたけど……」


「え……! そうなの?」


 アリスは驚いた。


 この前にゴトフリーと会ったと言えば会ったのだが、色々話し込んだせいで入場券については話には出ていない。


 ちなみに親友リリアと結婚したての近衛騎士ダニエルは、闘技大会で戦うことに怖じ気づいたわけでもなく単に勤務時間が被ってしまっているので出場が出来ないらしい。


 彼は近衛騎士で王族を常に守っていなければいけないし、闘技大会だからとそれが免除されるはずもなかった。


「そうなのよ。開催されるのが数年振りで久しぶりだから、忘れていたわ……どうする?」


 リリアは並んで居る列の前方を見た。二人が並ぶ前から長い行列が出来ていて、まだ窓口は開いていない。ここから、まだまだ時間は掛かるだろう。


「……出来たら、入場券は自分で買いたいの……! それに、ゴトフリーがもし用意してなかったら、見られなくなるし……!」


 確実に闘技大会を観るために、ここは長時間並んででも入場券を買うと言い切ったアリスに、リリアは苦笑した。


「なんだか、アリス。本当に気合い入っているわね。ゴトフリーさんは竜騎士なんだし、どういう手段を使っても手に入れると思うけど……」


「今回、ゴトフリーは私の前では負けたくないって、そう言ってたの。だから、優勝してって言った。私のために優勝してって。出来れば、出場する以外で余計なことを考えて欲しくないの」


 ゴトフリーと交わした会話を思い出せば、勝ちたいと勝てないかもしれないが心の中ではせめぎ合っているようだった。


(集中して欲しい……どうしても、勝ちたいと思うなら)


「……ねえ。それって、もし……負けたらどうするの?」


 声を潜めたリリアの疑問は、もっともだ。


 それだけアリスが『勝って』と言っている状態で、負けてしまえば相当落ち込んでしまうだろうことも。


(そうだよ。けど……)


「ゴトフリーが負けた時のことなんて、今は考えないよ。リリア。だって、私が一番に彼が勝つって信じていないと、勝てないような気がするもの」


 アリスはそう思った。ゴトフリーが負けるかもしれないなんて、この時点で自分は思ったりしてはいけないのだと。


 勝負は時の運で、圧倒的実力者が絶望的に調子が悪い時に新人が非常に調子が良かったりすると、新人が勝ててしまうことだってある。


 すべてが終わってみないと、結果がどうなるかなんて誰もわからないのだ。


「そっか。アリスらしいね……ゴトフリーさんも奮起して、本当に優勝したりするかもしれないわね」


「そう思う? ……私もそう思うんだ。リリア。なんとなく、なんだけどね」


 微笑んで肩を竦めたアリスに、リリアは息をついて言った。


「私はなんとなくではなくて、ゴトフリーさんのアリスへの愛の強さでそう思うの。だって、どう見てもアリスへの執着や愛はおかしいくらいだもの……そうね。もしかしたらって、私も思ってきたわ」


 リリアはこれは勘だからと根拠のない話はあまり聞いてくれないが、ゴトフリーのアリスへの愛の強さは彼女も認めるところらしい。


「ゴトフリーは闘技大会を優勝するの。私のために……うん。それって、すっごく、愛感じるかも」


 多くの人出のため予定時間よりも早く入場券を売り出す窓口が開いたのか、列が動き始めて二人は前へと進んだ。



◇◆◇



「わー……緊張する」


 闘技大会当日。


 入場券を徹夜してまで手に入れたアリスは、結局はゴトフリーが用意していた関係者席に座っていた。購入した入場券は、管理職のため年末仕事が終わらず買いに行けなかったという半泣きのサハラ室長に譲った。


(すっごく喜んでくれたから、朝並んで買った甲斐はあったかも……)


 アリスがゴトフリーから入場券を貰えたのは前日のことで、わざわざ家にまで届けにきてくれた。


 年末からそこまでゴトフリーは仕事で多忙で、なかなか会えなかったのだ。けれど仕事だからと言いつつ、おそらくはこの闘技大会のために特別に鍛錬を詰んでいたのではないかと、アリスは睨んでいた。


 隣の席にはせっかく良い席だからと付いて来た、親友リリアも居た。


 非常に入手困難な入場券を手に入れた面々は興奮しているのか、会場内はざわざわと忙しなく、寒い季節のはずなのに熱気に満ちていた。


「アリスが緊張してどうするのよ」


 呆れたように言ったリリアに、アリスは微笑んで言った。


「私も一緒に戦うくらいの気持ちなの……! ゴトフリーが優勝したら、一番にしたいことをするって約束したんだよね……」


「あら。それはそれは、気合いが入るわね……本当に優勝するかも」


 のろけたアリスにリリアが苦笑いを顔に浮かべたその時、闘技大会開始の合図に、花火の派手な音が鳴り響いた。すり鉢状に座席が設置された闘技場全体が、熱狂的な歓声に溢れた。


「わー……すっごい……!」


「はじまるわよ……!」


 そして、予選が始まり、まずは見習い騎士たちから戦うようだ。


 もちろん、ヴェリエフェンディの誇る竜騎士たちは、騎士たちの頂点に位置する存在であるので、本戦からの参加となるらしい。


 予選は時間短縮のため四組が一斉に戦っていくのだが、本戦からは二人ひと組で戦うことになる。


 騎士たちも近衛騎士ダニエルと同じように外せない勤務の関係上、闘技大会に出場出来ない面々も居て、総数はそこまで多くないらしい。


 そして、予選が終わり本戦がはじまり、本格的な戦闘が繰り広げられるようになって、いよいよだとアリスは胸が痛くなった。


 いまかいまかと待ち構えていたアリスの耳に、彼の名前が聞こえた。


「……竜騎士ゴトフリー・マーシュ!」


 まずは初戦に出て来たゴトフリーはいつもの竜騎士服に、飾り気なく持ち手の部分に滑り止めの布が巻かれただけの黒い長槍を持っていた。特に緊張している様子も見せず、普段の彼のように余裕ある風情だ。


 戦闘特化の竜騎士たちは厳しい訓練を積み武器は何でも使えるそうなのだが、竜に騎乗しての実戦で使うのは長槍なので、ゴトフリーもここでも長槍を使うようだった。


「ゴトフリー! 頑張ってー!」


 立ち上がったアリスは大きな声で叫んだけれど、辺りの声が大きくてかき消されてしまった。


 けれど、対戦相手の騎士と向かい合っていたゴトフリーは不意にアリスの居る方向に視線を向けて、そして、微笑んだ。


 距離を考えれば姿は見えていないだろうと思うのに、アリスは懸命に名前を呼んで手を振った。


(ゴトフリー……!)


 拡声効果のある魔導具を使った審判の開始の声がして、戦いは始まった。


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