47 選抜
「……ってことなんだけど、どうしよう! リリア~」
普段通り城の食堂でリリアと昼食を食べていたアリスは、ゴトフリーが本日窓口にまで伝えに来た内容を彼女に相談した。
「知り合いを何人か選抜して、竜騎士と飲み会をすれば良いんでしょう? アリスが好きな子から、呼べば良いじゃない。皆、二つ返事で頷くわよ。だって、お相手は竜騎士だもの」
リリアは食後の紅茶を飲みつつ、表情を変えずに冷静に答えた。
「そっ……そうだよね」
未婚女性であれば相手が竜騎士と聞けば、どんな予定があったとしても、キャンセルして飲み会を優先してしまうはずだ。彼らと出会えるチャンスが、そこにあるのなら。
(だって、私もゴトフリーと付き合ってなかったら、そうするはずだもん! わかる……気持ちが、わかるよ~! けど、誘われなかったら、一生恨みそう~!)
しかし、これまでに誰とも付き合ったこともなく、そこに誘われなかった側の気持ちも容易に想像出来てしまうために、アリスは頭を抱えた。
「アリスが言いたいこともわかるけど、ゴトフリーさんの結婚式前にそれぞれの招待客と会わせておきたいという言い分も、なんだかわかる気がするわ。二人は職場結婚になるから、招待客も多くなるでしょうし、それで盛り上がりに欠けてしまったら気まずくなるもの」
「……あ。けど、リリアだって、職場結婚でしょう?」
もうすぐ結婚を前にした婚約者が城で働いているというのなら、リリアだって一緒なのだ。
「ダニエルの近衛騎士団には、非番全員出席なんて決まりはないもの。それに、近衛騎士団と女官同士って仲が良いのよね。良く交流したり、飲み会だってあるし。だって、あの人たち城に常駐だもの」
「そっ……そっか。それもそうだよね」
近衛騎士団の主な職務は、王族の警護だ。それに対して、ゴトフリーの所属する竜騎士団は飛行出来る竜に騎乗するため機動力が高く、何かあればすぐに国境などの遠征へ赴くことになる。
城に居る時間が違い過ぎることと、人気のある竜騎士団は貴族令嬢だったり、名高い歌姫や舞姫と結婚することが多く、同じ職場とは言え女官や文官などとは出会う機会は少なかった。
そもそも、竜騎士の人数が少なすぎるのだ。
「そうだよね~、私だって、私だって……竜騎士と付き合えて、正直言うと嬉しいもん……」
アリスはゴトフリーが竜騎士だからと好きになったわけでもないけれど、恋人が人気のある職業であると、やはり彼のことを誇らしく思ってしまう気持ちが強い。
「その気持ちは、わかるわ……私もダニエルが近衛騎士でなくても好きになって付き合っていたと思うけど、周囲から羨ましいと思われるとやっぱり嬉しいものよ。ヴェリエフェンディの竜騎士なら、尚更よ。特別な騎士学校を必死で卒業しても、選ばれるのは一握り。誰にだって、なれる職業でもないもの……あら。噂をすれば、ね」
そこでリリアが意味ありげに微笑んで、視線をアリスの背後に向けたので、不思議に思いつつ振り向いた。
そこには、彼らの象徴とも言える黒い竜騎士服を着た長身の男性何人かが居て、アリスの視線は吸い寄せられるように、その中の一人に向けられた。
「ゴトフリー……」
彼もアリスの存在に気がついたようで、手を振ってにこにこと微笑むとこちらへと近づいてきた。彼の後を数人が着いて来たので、食堂内の視線が自然と集まるのを感じた。
「アリス。ここに居たんだ……こんにちは。リリア。なんだか、久しぶりだね」
「ゴトフリーさん。お久しぶりです。さっき、アリスから飲み会の話を聞いていました」
ゴトフリーはリリアの言葉に心得たように頷き、彼の視線を向けられた黒髪のナイジェルが微笑んだ。
「そうなんだ。俺たちも、そろそろ結婚したいなーと思って。良い子が居たら、是非紹介をしてもらいたいんだよね」
「はーっ、幸せな恋人たちが憎い。不幸せな独り身の気持ちなんか、忘れてしまっているから」
「そうそう。幸せな惚気話に耐えられるのは、自分が幸せな場合のみ。だというのに、リカルドもゴトフリーも遠慮がないから」
「悪かったな」
「確かに俺たちが幸せであることは、全く否定しない。こういう要望が多くて、飲み会をアリスにお願いしたというわけ。リリアも良かったら、協力してもらえる?」
ゴトフリーは両手を合わせてリリアに微笑み、彼女は肩をすくめて頷いた。
「もちろんです。私だってアリスの結婚式も楽しみにしていますから……けど、アリスに選ばせると一生うんうん悩みそうなので、参加者は私が選抜しても?」
「リリアに頼めるのなら間違いないだろうから、嬉しいな。お礼はちゃんとするよ」
「期待しています……こういう訳だから、女性の参加者は私が選ぶわ。アリスも、それで良いわよね?」
次々に決まっていく話に驚きつつ、アリスは無言のままで何度か頷いた。
「アリス。こいつとちゃんと会うのは、初めてだろう? リカルド・デュマース。俺の同期で英雄と呼ばれる男」
ゴトフリーは隣の燃えるような赤毛の男性を小突いたので、アリスは彼に視線を移した。
(ゴトフリーが前に、絶対に敵わないと言っていた人。けど、仲はすっごく良さそうなんだよね)
負けず嫌いのゴトフリーはリカルドとブレンダンの二人には絶対に敵わないと苦しんでいたけれど、ブレンダン同様に、こうして一緒に居ると彼らは仲が良いだけに見える。
「あの時は……無事で良かった。よろしく」
「あ。助けてもらったのに、お礼が遅くなって! アリス・フォークナーです。よろしくお願いします」
「リカルド。こっちは、アリスの友人のリリア」
「よろしく」
「こちらこそ」
短く挨拶を交わし合う二人を見て、アリスは目を瞬いていた。
(すごい……リカルド・デュマースだ。ゴトフリーの同期で仲良しっていうのは知っていたけど)
彼は以前、アリスが攫われた時に助けに来てくれた人だった。
リカルドは貴族の当主であり、数々の戦功を打ち立てとても有名な竜騎士なので、もちろんアリス側は彼のことを知っているが、そんな人に自分が認識されているということが、なんだか不思議だった。
(近くで見ると、噂に違わずに格好良い人。けど、やっぱり私はゴトフリーの方が好きだな……)
好みの問題と言われればそうなのだが、どんなに魅力的な人を前にしてもアリスが選ぶのはただ一人。ゴトフリー・マーシュだけだ。
「皆に遠慮して、俺ら二人が惚気るなっていうのもおかしな話だしさ。全員幸せなら、問題ないだろうってことになった。そういうわけでよろしくね。リリア。アリス。俺これで仕事終わりになるから、今日はアリスの家で待ってるよ」
「あっ……うん。わかった」
ゴトフリーはこれで話は終わったとばかりに手を振ったので、彼らは全員が座れる席を探して歩いて行った。
「リカルド・デュマースとこうして話すなんて、思わなかったわ……なんだか、緊張しちゃった」
リリアは緊張してることなど感じさせることもなく、全く動じない様子だったが、高名な竜騎士を目の前にして彼女なりに緊張していたらしい。
「そっ……そうだよね! けど、ゴトフリーはすっごく仲良さそう。同期で騎士学校で、ずっと一緒だったって言ってたもん」
「あの人に対抗心あるってことは、ゴトフリーさんも、それだけ優秀ってことだもの。やっぱり自慢して良いわよ。アリス」
「うん……」
照れながら頷いたアリスは、席を見つけて全員で笑い合っている竜騎士たちを見て嬉しくなった。
(ゴトフリー……友達思いなんだよね。そういうところも好きだな)
なんだかんだ理由を付けつつ、ゴトフリーが望んでいることは同期の竜騎士たちにも恋人を見つけてあげたいということだ。
「やっぱり、すっごく好きだな……ゴトフリー」
「アリス。心の声が、出てるわよ……」
「え! 恥ずかしい……」
リリアに指摘されて顔を赤くし周囲を見まわしたアリスは、離れて行った彼らに注目が集まっていることを確認してホッと大きく息をついた。




