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36 そうしたら(side Godfrey prequel)

「確かに受け取りました。お疲れ様です」


 そう言って彼女はかわいい笑顔を見せて書類に日付の判子を押した。


 大きな眼鏡をかけていてもなお際立つその可憐な顔立ちをさりげなく見て癒される。


 経費窓口の彼女は城で働く騎士たちの間では有名だ。


 今現在付き合っている人はいないらしいが、なんでも男嫌いで顔立ちの良いやつがどんなに誘ってものらりくらりとかわして決して乗った事がないらしい。


 よく一緒に居ることの多い親友の女官もこの城の中でも可愛いと有名で、そちらはもう近衛騎士の一人と婚約中らしいが、二人合わせてすごく目立つ存在で知られていた。


 自分が重度の面食いであることを自覚しているゴトフリーは彼女のことをかなり気になってはいたが、一年前に別れた女の子にされた仕打ちを思い出すとどうにもまた恋愛に踏み出そうという気持ちが後ろ向きになっていた。


 いや、その子だけじゃない。


 何故か、最初お互い惹かれて付き合い出すまでは良いのだが、その後は何か呪いにかけられているのではないかと思うくらいまったくと言って良い程恋愛が上手くいかないのだ。


 今まで何人かと付き合ってきたが、誰とも三ヶ月と続いたためしがなかった。


 仲の良い同僚達に女運が悪いと揶揄われるのも、それを自虐して笑い話にするのも疲れてきた。


 あの経費担当の子はあんなに可愛らしい容姿をしているのにと言っては失礼かもしれないが、文官としてこの城で働いているということは絶対に高等学院の出だ。


 国中の頭の良い人間を集めて育成する機関だが、自分の出た竜騎士を育成する特殊な騎士学校の次に入るのが難しいと言われている。


 それも文官になっているということは、上位の成績を収めていて教師からの推挙も得ているということだ。


 自分が今まで付き合った女の子達とは、決定的に何かが違った。


 なんとか話かけてみたいとは思うけれど、食事に誘ったりして難攻不落の砦のような彼女にすげなく断られるのはかなりダメージを食らうだろうなという予想もついていた。


 だから、ずっと何か話しかけるチャンスが出来るのを待っていた。


「ゴトフリー、なんだよ。変な顔して」


 ナイジェルはゴトフリーが自分の席で頬杖をついて考え事をしているのを見て、話しかけてきた。


 同期の竜騎士との間の絆は、なんと例えて言って良いかわからない。


 本当に幼い頃から集められ、そして訳もわからぬままに競わされその中でも勝ち残ってきた間柄だが、共に竜騎士になるために死にたくなるくらいの辛い試練を幾度となく乗り越えてきたのだ。


 それはもう、血を分けた兄弟ほどの絆が出来ていてもおかしくないくらいに。


「今日もダメだった。書類渡して、はい終わりだった」


 落ち込んでいる様子のゴトフリーにナイジェルは肩をすくめた。


「お前、今まで狙った女の子は全員落としてきたんだろ。その手管を活かせば良いじゃないか」


 確かにそれはそうかもしれないが、どうしてもこれだけは失敗したくないと思うと何を話しかければ良いかわからなかった。


「男嫌いな女の子なんてこれが初めてだし、今回だけは絶対に失敗したくないんだ。あんなに可愛いのに彼氏もいなくて、文官になれるくらい頭も良いなんてきっとあの子だけしかいない……」


 そう頬杖をついて不安そうに自分を見上げるゴトフリーにナイジェルはさとすように言った。


「……そうは言っても、話して自分を知ってもらわないと好きになってもらえないだろ。俺たちは竜騎士なんだぞ。俸給もすこぶる良いしこの国では名誉な職業でもある。この黒い服着ているだけで竜騎士なのはわかってくれているんだから、向こうだって食事に誘ったらそう悪い気はしないんじゃないか」


 ナイジェルの言っていることはもっともだ。今まで竜騎士だと知った途端に、目の色の変わる女の子もたくさん居た。


 そうは言っても自分は別に女の子にモテたいからと竜騎士を目指したわけではないし、そんな理由でなれる程生易しい職でもなかった。


 だから、それがあの子に好きになってもらうきっかけになるのもなんだか癪だった。


「……なんかさ、偶然を装って出会うきっかけってないかな」


「本屋で同じ本に手を伸ばすとか? ……普通に考えてある訳ないだろ。それにそういうチャンスを作ろうと後をつけたりするなよ。お前は好きになると周りが見えなくなるからな」


 友人のその忠告になんとも言えぬ顔で頷いたゴトフリーは、進展の見えない淡い恋を思うと我慢できずに大きなため息をついた。



◇◆◇



 その夜は珍しく勤番の交替の時期で休みの合った同期の五人で飲みに行くことになった。


 もう一人居る同期のリカルドは最近出来た恋人に夢中で、誘っても来なかった。


 それを羨ましく思いながらも、どうにも納得がいかない。リカルドはなんでも上手くやる。この自分と何が違うんだろうか。


 食通のエディがおすすめしてくれた美味しい店で食事を済ませて、そろそろ飲み屋へ行こうとなった時に、ブレンダンがたまには立ち飲みも楽しそうだと言い出してその辺にあった飲み屋へと入った。


「……おい、あの子お前が気になってた経費担当の子じゃない?」


 店に入って間もなく小声で聞いてきたナイジェルに本当だ、とゴトフリーは目を見開いた。


 髪を解いているし、トレードマークの大きな眼鏡もないが、あの屈託ない笑顔は彼女で間違いない。


 初めて見た素顔はとんでもなく可愛かった。背中に流れるさらさらの黒い髪の毛が揺れる度になんだかドキドキしてしまう。


 人生で初めての恋をした少年のように駆け足になる鼓動で胸が痛かった。


 急に黙り込んだゴトフリーを呆れた表情で見てナイジェルは言った。


「これ、まさにお前が言ってた偶然の出会いじゃないか。ちょっと俺がチャンス作ってやるから話しかけてみろよ」


 なんと言って話しかけたら良いのだろうか、頭の中でぐるぐる回るが、好意を持たれる話題が全く思いつかない。


 竜騎士団でも賑やかし担当のナイジェルとエディは二人して彼女を笑わせっぱなしだ。


 笑い上戸なのか、たまに笑いすぎて苦しそうになる時もあるのが可愛かった。女官の親友はかなり冷静なようで、笑顔で彼女の杯を取り上げた。


(またいつものやつだ)


 ゴトフリーは酒を傾けながら面白くない気持ちで、会話が進んでいくのを聞いていた。


 せっかくのチャンスに全く頑張りの見えないゴトフリーに酔いが回ってきたのか遠慮のなくなってきたナイジェルは、自分達が竜騎士だと知らない初対面の女の子に「この中で誰が一番タイプか」を聞くのが同期会の鉄板のネタだった。


 その時の気分で質問の内容は変わるが、まぁ、要するに言いたいのはそういうことだ。


 この顔ぶれで集まった時は、女性に人気のあるあまい顔立ちのブレンダンかその子の好みによっては凛々しい顔つきのリカルドが選ばれるのが分かっていた。


 だから、さっきから喋ってもいないし全く良いところを、見せられていない自分が選ばれる可能性はゼロに等しかった。


(今日はリカルドがいないし、またどうせブレンダンが選ばれるんだろうな)


 くさくさした気持ちでゴトフリーは思った。気になっている女の子が目の前で、自分以外の男を選ぶのは正直気分が悪かった。


 でも、自分を選んでくれたら良いという気持ちが出てくるのを止められなかった。


(あの女の子がもし自分を選んでくれるなら、誰にも渡さないのに)


 あの可愛い唇で、ハッキリとゴトフリーが一番良いと言ってくれたら良いのに。


 それは有り得ないとわかっていたけど、彼女が自分を選んでくれるなら。


 そうしたら。


Fin


本編ゴトフリー視点もこれで完結です。


★コミカライズ1話、ただいま活動報告にてどどんと大公開しております~!


本日より同世界観の竜騎士の物語『鎖に繋がれた月姫は最愛を誓う竜騎士団長に焦がれてやまない』(https://ncode.syosetu.com/n2132ko/)が連載開始になっております。そちらも良かったらよろしくお願いします。


最後まで、お読み頂きましてありがとうございました。

もし良かったら、評価お願いいたします。


また、別の作品でお会い出来たら嬉しいです。


待鳥

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