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34 行かないで (side Godfrey)

ゴトフリー視点での「05」前半部分です。

 さらさらした感触の黒髪に指を通すと、本当に嘘みたいに滑らかな感触で思わず何度も確かめるように頭をかるく撫でる。


 アリスはすこし身じろぎをして大きな紅茶色の目を見開くと、隣にいる自分をじっと見つめている。警戒心の強い猫のように身を固くした彼女を安心させるように微笑んだ。


「ん、起きた? もしかして起こしたかな、ごめんね。アリスの髪さらさらしているから気持ち良さそうで、我慢出来なくて触ってしまった」


 その言葉をどう解釈したものか、可愛らしいピンク色の唇をぽかんと開けて、自分を見る彼女の髪を安心させるようにゆるく撫でた。本当に手触りが良くていつまでも触っていたくなる。自分の髪が柔らかくて癖がありまとまりが悪いのもあり、こんなに真っ直ぐでしなりのある髪の毛は今まで触れたことがなかった。


 ちょっとの間、彼女からの返事が返って来るのを待ったが、何故か何も言わない。昨日散々喘がせたのは自分だし、もしかしたら声が出にくいのかもしれない。自分としては飲んだ後ということもあり、久しぶりだという彼女の様子も見てかなり加減したつもりだったのだが、いかにも清純そうな外見をしている彼女はあまりこういうことに慣れていないのかも。


 幾分願望も籠ったことを考えながら、ゴトフリーは壁にある時計を見上げながら言った。


「結構良い時間になったね、お腹すいた? 俺が何か店で買ってこようか。鍵だけ貸してくれたらアリスはそのまま寝てて良いよ、かなり疲れさせたみたいだし」


 とにかく夜は明けてまぶしい朝はもう既に来ているし、お腹も空いただろう。これから、はじまる彼女の関係を思うとなんとも嬉しく満足感があった。朝ごはんを食べてから落ち着いて今後のことも話し合おう。そうしよう。


 あまり寝ていないせいで出てきたあくびをして、上半身を起こす。彼女は胸が見えてしまったのに慌てたのか悲鳴をあげて、柔らかい布団を抱えながら壁まで後ずさる。


 可愛らしい慣れていないその様子の愛らしさに目が細まる。もしかしたら本当に、こういう経験が少ないのかもしれない。とりあえず床に降りてから下着を身につける。


「そんなに慌てなくても、朝から無闇に襲ったりしないよ。とりあえず、腹ごしらえ……」


 そこまで言ってシーツの上にある血の跡を見つけて、ゴトフリーは固まった。


 昨夜から煽るような言葉を口にしながらも手つきなんかが、慣れていないなとは思ってはいたものの、まさかこんなに可愛い女の子が今まで処女だったのが信じられなかったからだ。今まで彼女の傍に居て、そして彼女に手をつけずに、見逃していてくれた腑抜けな男達に心から感謝した。


(アリスは昨日まで処女で、俺が初めてだったのか。マジか。めちゃくちゃ嬉しい)


 込み上げてくる喜びで綻びそうになった口元を慌てて引き締める。なんとも言えない表情で固まっている彼女にそんな自分の打算なんかを気がつかれたくない一心で、服をとりあえず全部身につけた。


 とにかく、もう、こういうことなら、彼女からの言葉が欲しい。早めに付き合うところまで持っていきたい。


 彼女は自分のことを気に入ってくれているのは、これまでの人生経験からも間違いないと思う。流石に好かれてるか嫌われてるかくらいは肌でわかるつもりだ。


「……えっと、その。昨日失恋した彼とは、プラトニックだったの?」


 慎重に切り出した自分に、アリスはちょっと泣きそうな顔で頷く。早く、その不安をなんとかしてあげたい。


「そっか、そっか……えっと、ちょっと順番が逆になっちゃったんだけど、アリス俺と付き合おう」


「え?」


 二人で夜を過ごして朝を迎えたこういう状況なのに、アリスは不思議そうな顔をしている。なんでだろう、好ましい女の子に告白するのは当たり前のことだろう。


「もちろん段階を踏んで、とは思っていたんだけど、君をその不安にさせたくないし、その……」


 昨夜は結構な量を飲んでいたとはいえ処女だった彼女を気遣うことなく、自分勝手に最後までしてしまった。はじめてだったし今体はつらいはずだ。そんな時にここで、前から窓口で見かけて気になっていたことや、自分の望んでいる将来的な色々を言ってしまって良いものか、ゴトフリーは逡巡した。


「……出てって」


 絞り出すようなその声を聞き、ゴトフリーは慌てた。彼女の大きな目は据わっていて、拒否感を全身から放っていたからだ。これはまずいと顔を青くしたのも遅い。


「ちょ、ちょっと待って。アリス。俺の話を最後まで……」


「やっ、もうっ……出てっててば」


 こんな時なのに、勢いよく立ち上がったアリスのぷるんと揺れる大きな胸に思わず顔を赤くしてしまう。そのまま玄関の外まで押し出されてしまうまで、呆気に取られてしまった。


「一回したからって、自分の女だなんて思わないでっ」


 何度か戸を叩いたが、反応はない。扉を隔てたすぐそこに彼女の気配は感じるものの、じっと息を殺しているのか、音はしなかった。あまりしつこくしても、あのままの姿では風邪をひかせてしまうかもしれない。今日はここで諦めるべきだろう。


(参った。完全に対応を間違えたな)


 でも冷静に考えると、あれだけ拒否されるってことは逆に言うと意識されている証拠だ。


 そう思い至り、ゴトフリーはゆっくりと廊下を歩きだし、綻びそうになる口元を引き締めた。


 書類を出しにいく一瞬しか今まで接触できなかったあの子と、これで名前を知り合う仲になった。まるで昨日の夜のことから、全て夢のように思えるが、現実だ。今まで名前も知ってもらえず、彼女について何も知らなかったのだ。それに比べたら、どんな一歩だとしても前進は前進だろう。


(そうだな、良いか。これから時間は、たっぷりとある。とにかく、手を出されないように彼女のことを狙っている奴らを牽制するのが先か)


 自らこの胸に飛び込んで来た、柔らかで甘い匂いのするかわいいうさぎ。一度この手を離れたが、それも時間の問題だ。


 周到に罠を巡らせて、必ずまた捕まえてみせる。


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