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33 雪(epilogue +side Godfrey)

 結論から言うと、アリスを攫った一味を雇っていたのは、キャサリンだった。


 いくつかの仲介を経ていてかなり捜査は難航していたそうだが、食堂で元彼ゴトフリーの彼女であるアリスに喧嘩を売った一件は城中の噂になってしまい、それを理由に当時付き合っていた近衛騎士に別れを告げられたのを逆恨みしたのが動機だったらしい。


 一国の軍隊をも殲滅可能な竜騎士団の武力をもって助け出されたアリスは一躍時の人となり、結構な期間騒がれてしまい窓口業務からも一時期外されてしまったりしたけれど、今は以前と同じように通常業務に戻っている。


 自分が以前付き合っていたキャサリンが犯人であると知った時のゴトフリーの表情は忘れられない。


 過去のない人などいない。アリスは自分自身に問題があったから、今まで人と付き合ったことがなかったけれど、それは稀な例だ。


 だから、今のこの関係を大事にして、ずっとずっと彼と居たいと思うのだ。



◇◆◇



「ゴトフリー、もう良いでしょ。教えてよ。プレゼントって何?」


 アリスはゴトフリーの家の階段を昇りながら言った。


 今日は自分の誕生日だから、何かプレゼントを用意してくれているのだと言うのだけど、その内容を絶対に教えてくれなかったのだ。


「もう少しだから、我慢して。アリスが喜ぶものだよ」


 そう振り向きながら言う彼の顔がなんとも幸せそうで、アリスはきっと自分も同じような顔をしているだろうなと思いながら微笑んだ。


「良いよ。この扉を開いてみて」


 アリスは首を傾げた。ゴトフリーの部屋の隣にあるその部屋は、彼からは今物置になっていると聞いていたからだ。


 そっと、その扉の取っ手を掴んで開けたアリスは思わず歓声を上げた。


「ゴトフリー! どうしたの! かわいい!」


 興奮した様子で喜ぶアリスを満足そうに見て、目を細めた。


 その部屋は以前に行ったことのある宿屋で使用した部屋と同じような家具や小物などが揃えられていて、とにかくアリス好みだったからだ。


 思わず自分に抱きついて喜ぶアリスを抱きしめながらゴトフリーは言った。


「こういう部屋に住んでみたいって言ってたよね? だから、この部屋は将来的にはアリスが使うから、宿屋の主人に色々聞いて揃えたんだ。ベッドカバーとかカーテンの布系は特注だからまだ完成してなくて、誕生日に間に合わなかったんだけど、もうすぐ出来るよ……この部屋に住んでみたいって思う?」


「もちろん! これ以上もっとかわいくなるの? 嬉しいな。ゴトフリーありがとう。最高のプレゼントだよ」


「俺が世界で一番好き?」


 彼の独占欲は、きっと自分に自信が持てないことによる不安が大きいことをアリスは今分かってしまっていた。


 幼い頃からずっと、血が滲む思いで努力を重ねても、どうしても勝てないライバルが居て、そのことが生来負けず嫌いな彼にはとても辛かったのだと思う。


 いつ、自分の元から周囲の関心がなくなってしまうのか、今までずっと怖くてたまらなかったのではないだろうか。一番にこだわり続けるのは、理由があったのだ。


 だから、こう答えた。


「うん。あのね、私には、ゴトフリーが一番ていうか、唯一で特別なの……順番なんかなくて、私が愛しているのは竜騎士のゴトフリーただ一人だけなんだよ」



◇◆◇



「うわあっ……綺麗……」


 アリスはその可愛らしい声音で感嘆の声を上げた。


 丸い欠けのない満月に照らされた砂漠は、綺麗だった。


 二人で夏季の長期休暇を示し合わせて取り、砂漠のある国サルータに旅行に行こうという計画になった時に、これだけは絶対に譲れないと言ったのが、アレックに乗っての夜間飛行だった。


 なんでも、幼い頃に好んで読んだ本に魔法の絨毯に乗って砂漠を旅する騎士の物語があったらしい。


 目を輝かせて上目遣いでそのお願いをする彼女を、可愛さのあまり抱きしめたのは記憶に新しい。


 文官になれるくらい頭が物凄く良い癖に夢見がちでどこか幼いところがある彼女を、自分は本当に心から愛している。


 睡眠を重要視するアレックだが自分の恋人であるアリスをとても気に入っていて、彼女を喜ばせるならなんでもするとまで言っているから、今も機嫌の良さそうな鳴き声をしんとした夜の空気に響かせている。


 季節柄もあり、砂漠の夜は冷えるから、アリスはこのために用意しておいた紺色の大きな分厚いマントを頭から被っている。


 目の前でそのさらさらとした黒髪が風に揺れるのを見るのは好きだが、彼女の体が冷えるのを防ぐことが最優先だ。可愛い彼女を守るためなら、なんでもすると誓っている。


「アリス、見て、駱駝だ。商隊だよ」


 恐らく炎天下の昼の移動を避けて過ごしやすい夜に移動をしているのだろう、隊列を組んで進む行商人たちだ。まるで物語の中の一ページのような光景にアリスはまた喜んだ声を出した。


「凄い。どこまで行くのかな」


 横向きの姿勢になりじっと見つめて、その可愛らしい紅茶色の目を細めた。万が一の事態に備えて、その細い腰に腕を回した。


「……大きな商隊だから、きっといろんなところに行ってるんじゃないかな。世界中を回ったりする商人も珍しくないらしいよ」


「すごいねえ……いろんな人生があるんだなぁ……」


 しみじみと言った彼女の顔は微笑んでいる。その普段は見ることの出来ない光景を、目に焼き付けるようにじっと見入っていた。


「うん、アリスみたいな文官の人生もあるみたいにね」


「ゴトフリーみたいに竜騎士の人生もあるものね。不思議だな……あの人達にはもうこの先会うことはないかもしれないけれど、今ここで同じ場所にいるのは確かだもんね」


 アリスは頭が良すぎるせいか、たまによく分からない事で感動したりする。


 変なことで悩んでいたり、自分には理解出来ないことをすごく気にしたりすることもある。


 そういうところを全部合わせても、可愛いことには変わりないんだが。


「ん、アリス、だいぶ飛んだしそろそろ眠くない? 宿屋に帰ろうか。もう満足出来た?」


 頃合いを見計らって下心一杯の提案をした。


 サルータの王都で何日か滞在する用に取ってある宿屋は最上級のクラスだから、今夜寝るだけにしか使わないのはちょっと勿体無い気もしてしまう。


 貧乏性だと言うなかれ、本当に豪華で女の子の喜びそうな大きなベッドだし、真面目で可愛い恋人であるアリスは結婚するまでは一緒に暮らさないと言っているから、こうやって珍しく何日間か一緒に居る時間をすこしでも無駄にはしたくなかった。


 アリスは振り向いてふわっとした表情で笑うと頷いた。


「ゴトフリー、サルータに連れて来てくれてありがとう。砂漠って本当に本に書いてあった通りの光景で、すごく感動した」


「どういたしまして。いつでも連れて来てあげるよ。アリスがそう、望むならね」


 その時、ふわっと白いものがいくつもいくつも落ちて来て、二人は顔を見合わせた。


「……雪?」


 アリスはその落ちてきたものに手のひらを差し出して、本当に驚いているようだ。


 昼は灼熱の砂漠の夜に雪が降るなんて、なんて神秘的な光景なんだろう。


「そうみたいだね、今夜は冷えるなと思っていたけど、雪が降るなんて思わなかったな」


 アレックも初めて見るこの光景を興奮しているようだ。


 ただ、こいつはアリスと一緒に居る時は遠慮していつも心を閉ざしているから、今なんて言って興奮しているかはわからないけど。


「ねえ、ゴトフリー」


「ん? 何?」


「あのね、ゴトフリーってこの手のひらみたいだなあって思ったの」


 またよくわからないことを言い出した可愛い恋人の言葉を不思議に思い、首を傾げる。


 そんな自分の様子にふふっと嬉しそうに微笑んで、アリスは言葉を続けた。


「私はこの白い雪みたいに、ずっと空中をさまよっていたけれど、ゴトフリーは温かくして待っててくれて私の心をとかしてしまうんだよ」


「アリスがとけたら嫌だな」


 茶化して言ったら頬を膨らませた。そんな表情も可愛すぎて、出来たら頭の中でずっと保存していたい。


「もうっ……そういう意味じゃなくて、ゴトフリーが変なこと言うから……言いたいことわかんなくなっちゃった!」


 そう言ったアリスは気分を害したのか、ぷいっと前を向いてしまう。だから、背中からそんな彼女を抱きしめながら、言った。


「余計なことを言って、ごめんね。俺は雪のままのアリスでも、とけてしまって水になっても、好きなことに変わりないんだよ。そう……君が俺を選んでくれたあの時から、ずっとね」



Fin

これにて、本編完結です。お読み頂きありがとうございました。


次話もゴトフリー視点続きます。


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