表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/35

31 危機

 日が暮れてしまう前に住んでいる集合住宅までゴトフリーに送ってもらったアリスは自分の部屋のドアを開けて、なんだか、違和感を感じた。いつもと何か空気が違うようなそんな気がしたのだ。首を傾げながら持っていた荷物をテーブルの上に置く。


 窓から薄紫の光がぼんやりと差し込む暗い部屋の中、灯りをつけようとした時に後ろから、誰かに抱きつかれてその出来事のあまりの衝撃に頭が真っ白になる。


 この集合住宅はかなり安全対策は取られているし、まさかこの場所でこんな事があるなんて予想をしていなかった。


 突然、視界が暗闇に染まる。鼻の前にきつい薬品の匂いがして、くらりと意識が遠のいていく数瞬の間、必死で思った。


(ゴトフリー! アレック……アレック! 助けて……)


 あの不思議な生き物は、人の心の中を言葉を聞くことが出来る。


 以前ゴトフリーが言っていたように名前を思い浮かべただけで届くなら、これで届くはず。アレックに伝われば、ゴトフリーはきっと自分を助けに来てくれる。


(……きっと、きっと)



◇◆◇



 嫌な汗が体中から吹き出しているのを感じる。不快な気分だけが体と心を占めている。いくつもの下卑た男たちの声が冷えた空気に響いている。


(ここは……どこ?)


 何かで縛られているのか、体が動かない。地面に横になったまま、重い瞼を開けた。


 ゆらり、と揺れるような視界の中に見えるのは、古びてもう使われなくなってしまっていた教会のような建物の中の内部だろうか。


 いくつもの等間隔に置かれた椅子。倒れているものも多いが、装飾もあって高そうだ。


 天井が高いのか、上には大きな空間が広がっている。暗い。


(……アレック……私今、なんか、古い、使われていない教会みたいなところに居る……こわい……こわいよ)


 今も半信半疑だが、ゴトフリーの相棒であるアレックに呼びかける。


 あの賢い生き物が自分の竜騎士を乗せて、迎えに来てくれることを信じたかった。


 このまま、近くに居る男たちに想像したくもない仕打ちを受けた上に殺されてしまうことなど、絶対に考えたくなかった。


 死にたくないと泣き叫んで、のたうちまわりたかった。


 けれど、それは叶わない。


 体の中で自由になるところは頭の中だけと言える程に体中がんじがらめに縛られていたし、口には猿轡だろうか、何か乾いた布のようなものが口の中まで大きく入り込んでいて、ひどく不快だった。


「笑いが止まらんぜ。女一人を攫って売るだけでこんなに貰えるなんてな」


「ぼろい仕事だった。売る前に俺たちも楽しんでも良いなんて、良い依頼主だしな」


「……あれは竜騎士の一人の恋人らしいぞ。なるべく手を出さない方が良いんじゃないのか。あいつらが一騎当千と呼ばれているのは伊達じゃないんだ」


「もう攫ってしまったんだから、今更だろう。流石の竜騎士様が選んだ女だ。顔も可愛かったし体も良さそうだ。久々に良い思いが出来るな」



 げらげらといくつもの不快な笑い声が、古い教会に響く。


 漏れ聞こえてくる言葉に体の震えが止まらなくなった。この人達が自分をどうするつもりなのか、さっき想像した通りだった。


(それも、ゴトフリーのことも知っているなんて……どういうことだろう)


 アリスは自分のことを攫ってと頼んだ誰かが居ることを感じて、背筋が寒くなった。


(アレック……アレック……お願い。私きっともうすぐ……どこかに売られちゃうから、ゴトフリーに大好きだよって伝えて)


 横たわったまま泣いているアリスは、顔を流れていく涙を感じた。


 もう会えなくなってしまうかもしれないけれど、どうしても、今それだけは大好きなあの人に伝えたかった。


 あの時に言っていたように迎えに来てもらおうにも、今ここがどこだかわからない。


 彼らは信じられない程の速度を出すことの出来る移動手段を持ってはいるが、それを使うにしても迎えに来る自分の位置がわからないと無理だろう。


 何故、こんなことになってしまったんだろう。あの時偶然会えてから、ゴトフリーと付き合ってとても、幸せで。まさかこんなことになるなんて夢にも思わなかった。


 狂気すら感じさせるように叫んで、叫んで、この場所から、逃げ出したかった。でも、猿轡をされた口からは何の音も出てこない。


 横倒しになっている体は動かせないし、いつ来るともしれない陵辱の予感の恐怖とも戦った。


(アレック……アレック……怖いよ。こわい……こわいよ……最後に、ゴトフリーに会いたかった……)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
::::::୨୧::::::::::୨୧:::::::::::新発売作品リンク::::::::::୨୧::::::::::୨୧::::::

【10/4発売】
i945962
溺愛策士な護衛騎士は純粋培養令嬢に意地悪したい。
ストーリアダッシュ連載版 第2話


【9/12発売】
i945962
【シーモア先行配信ページです】
素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる


【8/22発売】
i945962
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、家を出ます。
私は護衛騎士と幸せになってもいいですよね


【6/5発売】
i945962
素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる
(BKブックスf)
★シーモアのみ電子書籍先行配信作品ページ
※コミックシーモア様にて9/12よりコミカライズ連載先行開始。

:::୨୧::::::::::୨୧:::::::::::コミカライズWeb連載中::::::::::୨୧::::::::::୨୧::::

竹コミ!『溺愛策士な護衛騎士は純粋培養令嬢に意地悪したい。』

MAGCOMI『ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う』

:::୨୧::::::::::୨୧:::::::::::作品ご購入リンク::::::::::୨୧::::::::::୨୧::::

【電子書籍】婚約者が病弱な妹に恋をしたので、家を出ます。
私は護衛騎士と幸せになってもいいですよね


【紙書籍】「素直になれない雪乙女は眠れる竜騎士に甘くとかされる

【紙書籍】「ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う3巻

【紙書籍】「ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う2巻

【紙書籍】「ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う

【コミック】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う THE COMIC

【紙書籍】「急募:俺と結婚してください!」の
看板を掲げる勇者様と結婚したら、
溺愛されることになりました


【電子書籍】私が婚約破棄してあげた王子様は、未だに傷心中のようです。
~貴方にはもうすぐ運命の人が現れるので、悪役令嬢の私に執着しないでください!~


【短編コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト

【短編コミカライズ】婚約破棄、したいです!
〜大好きな王子様の幸せのために、見事フラれてみせましょう〜


【短編コミカライズ】断罪不可避の悪役令嬢、純愛騎士の腕の中に墜つ。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ