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21 私の方が

「わ、かわいい。かわいいね! こんなお部屋あったんだ」


 その部屋の扉を開いた時から、もう興奮が止まらなかった。やっと以前から来ようと約束していたアリスの好みだという宿屋に二人で来られたのだ。


 一度ゴトフリーの緊急招集があって、最初に言っていたその日はダメになってしまったけれど、もう一度予約を取り直してからの仕切り直しとなった。ゴトフリーはアリスの着替えなんかが入った大きなバッグを可愛らしい模様の入ったテーブルの上に置いてにこっと笑った。


「ふ。本当に可愛いものが好きなんだな。アリスの部屋もこういう雰囲気だったから絶対好きだと思ったんだ」


 一度だけ入ったことのある自分の部屋の様子を覚えていてくれたゴトフリーに近付くと、その筋肉質な腕を掴んで引っ張ると一緒にベッドに腰掛けた。隣に座って自分を見上げながら、すごく嬉しそうな顔をしているアリスの顔を見て彼は満足そうにその紺色の目を細めた。


「あの時だけで覚えててくれていたの? この部屋って私の理想ぴったりだから、いつかこんな部屋に住んでみたいな……」


 全体的にピンクの色調でところどころに効果的に白と赤が入っている。本当に可愛らしくて思わず何度も見回してしまう。


「……そっか。あのね、アリス。こんな時に何なんだけど、この前のキャサリンの事を先に説明しときたいんだけど」


 あの食堂での騒ぎになった時以来、職場である城の中でしか会えなかったし、ゴトフリーの決められた勤番の関係上、帰りも時間は合わなくて完全に二人きりになったのは初めてだ。あの時からずっと説明したくてたまらなかったのか、堰を切ったようにゴトフリーは話し始めた。


「俺の過去のことで、アリスに嫌な思いをさせてごめんね。あいつは俺と別れる時に二股をかけていて、それが原因で別れていたから、今更あんなことをするなんて思いもしなかった。俺には今あいつに気持ちはひとかけらも残っていないから、絶対に誤解しないで欲しいんだ」


 アリスはそれを聞いてすこし戸惑ってしまった。もちろんゴトフリーの気持ちは自分にあることは、ぜんぜん疑ってもないし、彼があのキャサリンと浮気する心配など全くしていない。でも、やっぱりエディが以前に言っていたように二股をかけられて別れていたという事実が、どうにも信じられないのだ。


 こんなに素敵な人が恋人なのに、他に目移りすることなど……有り得るのだろうか?


「うん。それは絶対しないから大丈夫だよ。でも……その、二股って……えっと、でもこの前楽しそうに話していたところも見たから、何だかそういう別れ方をしたって言うのが信じられなくて」


 アリスはゴトフリーが付き合った最初の彼氏だから、別れた人との正しい距離感もわからない。ひどい別れ方をした人でも、そんな風に話せるようになるものなのかもわからなかった。


「そうだね、別れてから大分経っているし、俺ももう良い歳だから話しかけられたら話すよ……あいつは、俺が竜騎士だから、付き合ったんだよ。だから先輩の竜騎士に、声をかけられたらすぐに付いていった。条件の良い方を両天秤にかけていたんだ。んで、庶民出身の俺はお払い箱だったって訳。そういうことをしていたってバレた時点で先輩にも振られていたみたいだけど、俺にはもう関係ないし。もちろん何の未練もないし、逆になんとも思ってないから今では話せるのかもしれないな」


「……あのね、気持ちはもちろんないってわかっているけど……その……」


 アリスは言いにくそうにして、じっとゴトフリーを見つめた。その優しい誠実そうな紺色の瞳に映るのは自分だけであって欲しい。でも、そんなことを言ってしまうと引かれないだろうか。彼に嫉妬されるのは自分は嬉しいけれど、そういうめんどくさい自分の気持ちを出して嫌われたくないと思ってしまう。


「大丈夫、わかってるよ。もうキャサリンとは仕事以外で話さないし、絶対にアリスに誤解されたくないから線引きする……この前ね、本当に嬉しかったんだ。アリスも俺のことが好きって言ってくれているし、付き合うのが初めての君なりに努力してくれているってわかってはいたんだけど、どうしても俺の方が気持ちが大きくて、不安になることも多かった。でも、ああやって俺のことを自分のものだから近づかないでって、そう言ってくれて嬉しかった」


 その言葉にはちょっと間違いがあるんだけど、それを説明する前に、アリスは堪えきれなくて彼の胸に飛び込んだ。大柄で筋肉質なゴトフリーの胸の中は、本当にどこよりも安心出来る。この人やこの人の同僚達にアリス自身もだけれど、大きな国全体が守られている。その力強さを特に感じられるのはその場所だった。


「あのね、ゴトフリーの方が気持ちが大きいなんてこと……絶対ないよ……私の方が絶対すきだよ……」


 彼の間違いを正したくて、胸の中で見上げたアリスにゴトフリーは優しくキスをしてくれた。それは本当のことなんだけど、彼はそれをわかってくれているのだろうか。彼は最初の開始の時点で既に竜騎士だし、とっても整った容姿に誠実で優しい性格、何よりこんなめんどくさい自分をすごく大事にしてくれる。どこをとっても好きになる要素しかないのに、なんで不安になるのかが不思議でたまらない。


「ん、ありがとう。言っても仕方ないことを言ってしまって、ごめんね。でも、絶対俺の方が好きだから。それだけは絶対譲らない」


 それを聞いてむっと口を尖らせたアリスに優しく言った。


「ここってお風呂もすごく広くて、可愛いらしいよ。今日は一緒に入ろう」


「……え? 一緒に?」


 今日はきっとそういうことをするんだろうなとは思ってはいたけれど、まさかお風呂まで一緒に入るなんて思ってなくて、ちょっと呆然としたアリスににやっと悪い笑みを浮かべて言った。


「うん。俺が体洗ってあげるから。アリスのさらさらな髪も乾かしてあげるところまでやりたい」


 その行為をすごく楽しみにしてそうなゴトフリーに対して、どうしたらその提案を却下することが出来るのかわからなくてアリスは真っ赤になってしまう。


(どうしよう。一緒にお風呂なんて、絶対恥ずかしすぎる)


「……ゴトフリー、その、私お風呂は一人が良いな……一緒に入るのはまた今度にしよ?」


 両手を重ねてもじもじしながら、声を出したアリスにゴトフリーは不思議そうに言った。


「どうせこれからお互い裸になるんだし、触り合うんだよ。何が問題なの?」


「そのっ……女の子はね、心の準備とかね、色々あるんだよっ……それにそういうことする前にチェックしときたいんだよ……」


 今までなし崩しにしか行為に至ったことがなくて、そういう心構えをする隙もなかったし、ようやくゴトフリーとちゃんとした一夜を共にすると思うと緊張する。それに変なところがないかとか、一人で隅々まで見ておきたかった。


 それを聞いて懸命に吹き出しそうになっているのを我慢している顔になっているゴトフリーをじろっと睨むと頬を膨らませた。


「ゴトフリーはこれまでいっぱい経験あるかもしれないけど、私はこういうことは本当にしたことないの。最初の時はお酒が入っていたし、この前は体が動かせなかったから、今夜が本当の最初みたいなものなんだよ。お風呂に一緒に入るなんて上級者すぎるし……別に嫌じゃないけど、何だか恥ずかしい」


 顔を赤くして俯いたアリスを本当に愛しそうに見ると、ゴトフリーはぽんぽんと頭を叩いた。


「んー、じゃあアリスが先にお風呂入る?」


 どうやら一人でお風呂に入りたい気持ちを、わかってくれたらしい彼のその言葉に頷いて、アリスは立ち上がった。


「うん。じゃあ準備してくるね」


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