ジョーイ軍團
〈春晩く男と女船出せり 涙次〉
この〈涙次〉と云ふ俳人、私(永田)の分身である、鬼子母涙次の事。俳句業界には、私は長い。駄句を連ねて、今までやつてきた。だうかお見知り置きを-
【ⅰ】
カンテラ、例に依り外殻(=カンテラ)に籠もつてゐた。牧野の指導あつて、悦美はめきめき料理の腕を上げたが、カンテラ、實を云ふと、外殻内で供給される灯油、から、より多くのパワーを得てゐるのは間違ひない。たゞこれ、悦美には内緒。新婚の内は、さうあからさまには新郎のエゴは通らない。
「おめでたう」とカンテラは云ひ、にやにやしてゐる。遷姫が夢に現れたからだ。「パレードの夢は俺も見たよ」と一呼吸。「あんたも戀多き女だな」「ナ、何ヲ」「金尾との事、惡いが、立ち聞きしてゐた」「ソレヂヤアぷらいばしーノ侵害デハナイカ」「まあ、さう怒りなさんな」「マア貴方ハカツテワタシガ戀シタ人、更ニ云ヘバ、上司、デモアル。ヨシトセザルヲ得ナイガ、重悟ニハ云ハナイデ慾シイ」「分かつた分かつた。俺もさう意地惡ではないよ」
カンテラ「ところでテオくん」-とカンテラ、この夢(?)にテオも混ぜやうとしてゐる。テオ「なんすか?」テオは、谷澤景六として、今度ばかりは『かぼちやの馬車に乘つて』の次回作成功させやうと、純文學の海を、徹夜で彷徨つてゐたばかり。眠い目をこすつてゐる。
【ⅱ】
カンテラ「折角、永田が90話もの俺たちの物語を書いてくれたんだから、(永田感激する。そんな思ひ遣りのあるカンテラだとは、思つてもみなかつた)派手なチャンバラの出來る、そんな依頼を待ちあぐねてゐたところだ。テオきみ、さう云ふ依頼が來てはいまいか、調べてくれないか?」「ラジャー」
テオ、暫くしてから、「ジョーイ・ザ・クルセイダーが最近『ジョーイ軍團』つてのを立ち上げて、怪氣炎を吐いてゐますねえ」カン「ジョーイ・ザ・クルセイダーか... また蘇生したのか。で、例に依りフーゾク荒しでもしてゐるのかね」テ「主だつた惡さは、そんなとこなんスが、更に手を拡げて、色んな人々を恐喝(『軍團』をバックに)してゐる模様」
カンテラ、最近ウィキペディアで、懐かしのコント馬鹿、ゴムパッチン藝の「ゆーとぴあ」のその前・その後を知つたばかり。私と同年代の讀者の皆さん(ゐるのかな?)、ホープさんが盟友、ビートたけしさんの「たけし軍團」の向かうを張つて、「ホープ軍團」つてのをやつてたのご存知? ウィキの記述には笑はせて貰つた。一讀をお薦めする。
【ⅲ】
「仕事は夜にしやう。金尾くんのゴーレムの働きに、俺、期待してるんだよねー」テオ「特に報酬が多額、と云ふ話ではないのですが。雪川組の繩張り以外に、ジョーイは手を出してますから」カンテラ「例へば?」テオ「身寄りのないお年寄りなどです。オレオレ詐欺に近い事をやつてゐる」テオのこの情報には、『をばさん』砂田御由希からのメールの内容も活かされてゐる。
「年寄り相手か... ジョーイも死中に活を見出さうと、必死なんだな」とカンテラ。「だがまあ『軍團』を引き連れてゐるとあらば、我々総出で立ち向かふべき案件だらう。この際、ギャランティーは度外視だ」
カンテラ、テオに「をばさん」の身を寄せてゐる施設に、「張る」やうテオに命じた。
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〈煙を呑む我が身であればなほ可愛い童貞詩人の眞似ではあれど 平手みき〉
【ⅳ】
ジョーイは「鉄箱のジョー」の稱號は大事にしてゐた。この術を以て、魔界を渡つてきた、名殘りであらうか。確かに「鉄箱」の脅威は、お年寄りには効くだらう。だが、その「鉄箱」のトリックは、カンテラ一味には通用しない事も、知つてゐた。
「やあやあカンテラさん、いつぞやは失禮致しました」とやけに低姿勢のジョーイ。これで一味の隙を突かうと、死にもの狂ひ。なんと云つても、魔界の盟主に成り上がれるチャンスは、今以外には訪れないだらう、との「讀み」が、そこには臭つた譯で...
「その手は食はないよ。今日は貴様の『軍團』とやらの検分に來た。さあ、貴様の奥の手、『軍團』を見せてみろ」「む、む、ぐぬう」ジョーイは、巨大なゴーレムに、自慢の「鉄箱」を潰されはしまいかと、それだけが気懸かりなのだつた。だが、結局は「軍團」を総動員、一味に立ち向かつてきた-
【ⅴ】
じろさん「ふゝゝ。俺の好きさうな顔が揃つてるな。血祭りに上げられたくば、來い!!」軍團のメンバー、名を上げんと、じろさんに突つかゝつてはくるものゝ... 一様に関節を外され、敢へ無く壊走。
さて、「鉄箱」、であるが、カンテラの讀み通り、ゴーレムの怪力には堪らず、その原型留めぬ處まで、捻り潰されてしまつた。ジョーイ「分かつた分かつた、あんた方には負けだ」とか云つて、「軍團」の切り札的存在は温存してゐる。毒針を吹く、「針師」がそれである。
ジョーイは、カンテラには毒針が通用しない事、知つてゐた。人造の躰には、毒針の毒など、何でもないのだ。従つて、生身であるじろさんに、その毒針を吹くやう、「針師」に下知。
じろさん、そんな事もあらうかと、「此井殺法・變はり身の術」を見せずにゐた。じろさんは、毒針が吹かれるや否や、事もあらうに、ジョーイの「鉄箱」(今や鉄屑に成り下がつてゐる)を身代はりにした...
【ⅵ】
これでジョーイ、完全に追ひ詰められた。將棋で云ふところの「つみ」である。「しええええええいつ!!」ジョーイは、その身に、幾度めかのカンテラの刃を受け、これまた壊走。
「ま、後は追ふまい。奴にはもう帰る場處はなからう。あゝ、やつぱり一味で暴れると、孤軍奮闘してゐるのに比べ、爽快だなあ」
カンテラ、後の話では、施設の大元の團體からのカネは、受け取らなかつた、と云ふ。しかし、比較的余裕のあるお年寄りからの醸金だけは貰ふには貰つた。彼の口癖「俺らは慈善團體ではない」-それに飽くまで忠實な、カンテラであつた。
【ⅶ】
「ふゝゝ、遷姫、金尾くんに益々惚れた?」「ナ、何ヲ」「あんたにはやつぱり、強い男が似合つてゐるよ。衷心ながら、それだけは云つて置く」。
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〈石の上に休み眞春の蝶があり 涙次〉
今回はこれにて。