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苦悩は空の彼方に

「彼女より彼氏のほうが料理が上手かったら、周りの人、どう思う?」

 屋上で秋月は俺が作ってきたイタリアン風出し巻き卵を、咀嚼しながら言う。

「えーっと、どうなんだろう……。羨ましい?」

「私が恥かくの!」

 秋月は時々、うまっ! と言いながらも何故かご立腹だ。

「じゃあ、今度から秋月が作ってくればいいじゃん」

 咀嚼して飲み込んだ秋月は、嘆息していう。

「私が作れるわけ無いじゃない」

 そうなんだ……。

「私はこの美貌で何不自由なく過ごしてきたわ。そんな私が料理なんか作れると思う?」

 料理なんかとは、随分な言いぐさだな。それに相変わらず自己肯定感が強い。

「現に俺は作れるわけだし」

「なんで美作君は、こんなに料理が得意なの? さらにモテるため?」

「モテるのはもういいよ。この前、LINEで送ったじゃん。俺、キッチンでアルバイトしているって」

 秋月は、ああ、と溢しながらも次の一口唐揚げを口に放り込む。美味かったのか、目を見開いている。

「そこのキッチン……、まだ募集しているの?」

 咀嚼しながらしゃべっているから聞き取りづらい。

「してるけど」

 唐揚げを飲み込んで、秋月は溢すように言う。

「じゃあ、私も働く」

「えーっ!」

「なんなの、その反応! 嫌なの!?」

 俺の反応に秋月は箸を刺さんとばかりに振り上げる。

「俺は、仕事は仕事で割り切りたいんだ。それに包丁も持った事ないんだろ?」

「それは……、そうだけど」

「じゃあ、無理だ。仕込みも仕事のうちだからさ」

 最後に取っておいたアスパラガスの肉巻きを口に放り込み、俺は弁当の蓋を閉めた。そしてスマホで時間を確認する。

「まだ、時間あるでしょ」

 秋月は、俺が逃げ出すとでも思ったのだろう。釘を刺しにきた。

「弁当箱を返してもらわないといけないからな」

「洗って返すわよ。だから最後までいなさいよ」

「いいよ、面倒だろ」

 その言葉を聞いた秋月の目が座る。

「私が使った箸をどうする気? 何に使うの?」

「あー、もう! じゃあ、洗って返してくれ!」

 カラスが飛んでる。楽しそうだ。

 秋月が隣で何か話しかけているが、俺は遠い目で空を見ていた。

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