分からない。
教室の前で秋月と手を振って別れ、机の合間を縫って自分の席に目を遣ると、滝川さんが座っていた。
あれ、席替えしたっけ?
周りを見渡すも、他の生徒は定位置のままだ。俺は何気なく言葉を放つ。
「おはよう、滝川さん」
「……おはよう、美作っち」
滝川さんは頬杖をついて上目遣いで俺を見る。いつもの熱視線ではなかった。
「美作っち、あの子と付き合っているの?」
来た。この質問。ちょっとでも間が空くと怪しまれるので、俺は高速で頭を回転させた。その間、〇・〇一秒。
「秋月さん? そう、付き合っているよ」
引きつらずに言えた。練習の甲斐があった。
滝川さんは表情を変えずに、そのままの姿勢でポロポロと涙を溢し始めた。
はーーっ!?
そして制服の袖で目元を押えながら立ち上がり、机の合間をかけて教室の扉から飛び出した。
一瞬の出来事だった。
呆気にとられたが、俺は鞄を後ろのロッカーに置いて席に座った。滝川さんの温もりが、まだ椅子に残っている。
どうしたものか……。
そう頬杖をついて滝川さんが消えた扉に目を遣ると、ひょっこりはんのように顔を出して、こちらを睨む滝川さんがいた。
滝川さんと目が合う。
「女の子が走ったら、追いかけて来てよ!」
その声に教室が滝川さんに注目する。
何をドラマのヒロインみたいな……。
追いかけてこない俺に溜息をついて、滝川さんは顔を赤らめながら自分の席に戻る。
女の子って分からない……。
昼休みになった。いつものメンバーに断りを入れ、俺は自作の弁当二つを持って秋月の教室に向かった。教室の中ほどに秋月は座っていた。扉から俺の顔を確認するなり背筋を伸ばして破顔し、すぐに表情をクールな状態に戻す。
「お疲れ様」
「……あのねぇ、普通、彼女に『お疲れ様』なんて言わないわよ」
そうか、何も考えてなかった。
「待った? これ、弁当」
小さな弁当を見るなり、彼女の眼に光の粒が増した。
「わぁ、ありがとう! 前の席をくっつけて、一緒に食べましょう」
言われた通り、俺は席を動かして彼女を正面に見据える。彼女は鼻息を抑えられないようだ。喜びが滲み出ている。包みを解いて弁当の蓋を開けた。
「えっ、これ……、本当に美作君が作ったの?」
「うん。言ったでしょ、キッチンで働いているって」自分の弁当を開けながら俺は言う。「母さんと妹の分も作っているから、大したことないよ」
秋月の周りの生徒が、俺の作った弁当を覗き込む。スゲー、とか声が上がった。秋月は弁当の蓋を閉じた。
「……美作君、屋上で食べましょう」
「え、なんで?」
「いいから!」
「あ、はい……」
秋月に手を引っ張られて、俺たちは屋上に向かった。
何かあったのだろうか。女の子は分からない……。




