契約内容
今日も無事一日が終わった。鞄に教科書を詰め、時計を見る。十六時半だ。ゆっくり行ってもバイトには十分間に合う。
俺は大きく伸びをした。
伸びをし切ったところで、秋月小冬が教室の扉に立っていることに気づいた。
クラスには何人か残っている。その数名が秋月を見ていた。
秋月は指で、ちょっと来い、と合図を送ってきた。
何だろう。契約の事で何かあるのかな。
俺は鞄を背負って、秋月に向かう。そのまま袖を引っ張られ、屋上の階段室まで連れてこられた。
「な、何?」
「私、今日一人でお昼を食べました」
腕を組み、壁に背を預けて言う。
「はあ、お疲れ様です」
お疲れ様で合っているのか?
「お疲れ様です、じゃないわよ!!」
やっぱり違ったようだ。
「美作君とは契約したでしょ!」
「そうだね」
「男女のカップルが、お昼ご飯一緒に食べないってことある!?」
「ありません……ね。普通」
「でしょう?」
ああ、確かにそうだ。だが俺もクラスの男女と席をくっつけて、手製の弁当を食べている。陽キャが中心になって食事しているグループだ。そこから抜けるのも……。
「美作君、これから時間ある?」
「ごめん、俺バイト」
秋月は肺の中を全部出すような溜息をついた。
「LINE教えて」
「えっ?」
「LINEよ、恋人同士でなくても普通でしょ!」
「ああ、うん」
俺は秋月とLINE交換した。
「美作君のバイトが終わったら、これから契約上の彼女として私とどう振る舞うべきか会議をするから」
「十一時近くになるよ」
「構わないわ。それじゃあ」
なぜか機嫌の悪いまま、秋月は去っていった。
これじゃあ、彼女がいるのと変わらないじゃないか。
文句を口から出るのを我慢しながら、俺は階段を降りた。
バイトも終わり、レストランを出てスマホを確認すると、すでに秋月からLINEが届いていた。
『契約期間 : 一年間 契約内容 : お互い恋人として振る舞う事 履行内容 : 一緒に登下校。昼食と昼休みは共に行動。顔を合わせたら手を振ること etc……』
「ほぼ恋人じゃないか!」
悪態が口をついて出た。すぐにLINEを送る。
『登下校は無し』
『じゃあ校門前で待ち合わせ。これは譲れない』
その後もLINEでやり取りして今後の方針を決めた。
家に帰って来て、時計を見ると十一時を回っていた。
勉強の復習をすることなく、シャワーを浴びて布団にもぐりこんだ。小鳥遊から借りた本も目を通す気力が無い。
俺の意識は微睡の底へと溶けていった。




