俺が俺でいるために
「あの、美作君、話があるんだけど」
「えーっと……、俺、ちょっと用事が」
「すぐに終わるの!!」
武内智子が俺の袖を引っ張って、人の用事を無理やり妨害する。凄い力だ。
放課後、数学の教師に呼ばれて、もっと本気で勉強しろ! と怒られた帰り、教室で捕まってしまった。
俺の事を買ってくれている教師には悪いが、こんな事態を生み出した事を恨む。ああ、絶対告白の流れだ。
「あのね、私……美作君の事が……」
逃げ出したい。付き合って→ゴメンナサイ→関係悪化、の流れは出来れば避けたかった。なんとかやんわり彼女の好意を逸らす事は出来ないものだろうか。
「好きです!」
嬉しい。嬉しいんですよ。庇護欲を掻き立てられる小さな体から勇気を振り絞って告白してくれるなんて、男子高校生からしたらハートに矢が刺さるのも分からなくもない。でも彼女を持つ気は今のところない。この場は、どうにか無事に終わらせたい。
「あの……、えっと」
頭を高速回転させる。日頃からモテている自分にとって、いくつか断るセリフを用意してはいるものの、冷静に状況判断して最適解を求める。
「それを知ってて欲しかったから!」
「……え?」
言葉を返す前に、そのまま武内智子は顔を真っ赤にして廊下に飛び出した。
告白して、放り投げるパターンか……。なんにせよ助かった。俺はホッと胸を撫で下ろす。
武内さん……、カバン忘れているよ。
子供の頃から顔は良かった。卒園、卒業アルバムを見るたびに思う。なんでもっと普通の顔に産まれてこなかったのか。
勉強は親父からのスパルタ教育により、学年五位には常に入っている。
スポーツも帰宅部の中では出来る方だ。
今は家計を支えるためバイトをしていて恋愛なんて二の次だと思っている。それに同学年の女子より、働く女性が好きだ。そんな俺を女子は大人びている、とフィルターがかかった目で褒めてくれる。
そんな俺の一挙手一投足に今日も女子の視線が注がれる。
勉強中、机から消しゴムを落としてしまった。
前の席の女子二人がそれに飛びかかる。一人はガタンと椅子をひっくり返して、倒れ込みながら拾った。争奪戦に勝ったのは鵬雛子だった。変な取り方をしたためか、右肩を押さえているものの笑顔で俺に消しゴムを渡してくれた。
「危なかったね、美作君」
……なにが?
凄い音がしたので教師も、大丈夫か、と心配の声をかける。
「ありがとう、ごめんね」
「ううん」
倒れた椅子を元に戻して、鵬は満足げなオーラを放っていた。
そんな俺に男子の目はというと……。
「美作、ハンドボール部入ってくれない? お前の運動神経なら十分レギュラーいけると思うんだけど」
「わりぃ、バイトがあるんだ。一杯一杯でさ」
陽キャからの誘いもあれば……。
「田村、今季のアニメはどれが面白い? ラブコメ以外で」
「え、えっと、そうだね。美作君ならコレとか」
田村はアニメオタクだが俺は気兼ねなく話しかける。
それでクラスの調和がとれていて、俺はその空間にいられるだけで満足だった。
ある日、ある女子から告白を受けるまでは――。




