9.お金払ったのにおっちゃん呼びは気に入らない
門近くの海岸に人だかりができている。
「なにかあったんですか?」
俺は何も知らないふりをしながら、近くにいた中年のおじさんに声をかけてみた。
「半刻位前にね、向こう側で数回水柱が上がったんだよ。ここでも見える高さだったし、振動もこちらまで響いてたから、なにか良くないことが起こる前触れかと思って見に来たんだ」
予想以上にヤバいことになってるようだ……これはすっとぼけるしかないな。
「それは心配ですね。滅多にないことなんですか?」
「今まで生きてきて一度もないね~」
でしょうねぇ~。
「心配ですね。さっきこの街についたんですけど、危ないですかね?」
「いや、ここ周辺は古龍様の加護があるから強い魔物はでたことがない、安心していいよ。みんな確認の為に出てきているだけだからね」
あぁ、不安だけど心配はしてないのね。
大災害だったらみんな逃げたりパニックになってるだろうし、そこまでではなかったと……よかったよかった。
俺はおじさんにお礼を言って門の方へ向かった。
「すみませーん、街の中に入りたいのですが。」
さすが魔物がいる世界、町は塀に囲まれ、門番さんがいる。
「ギルドカードを見せてくれ」
この世界もギルドカードが身分証替わりなのね。ないけど!
「すみません、もってないです」
「その歳で持ってないのか?」
あぁ~、そういう感じ? テンプレにはテンプレ返しだ!
「山奥で暮らしていたので、街は初めてなんですよ」
「ギルドが無い山奥ってどんなところだよ」
門番さんが仕事をしている。警戒を解いてくれない。
「いやぁ、捨て子だったらしく、山奥に一人で住んでいた人に拾われて今まで生活していたのですが、その人も死んじゃって……」
「……それは残念だったな。ギルドカードが無い場合は街に入るのに銅貨3枚必要だ。お金はあるか?」
あ~~~! これもテンプレだね。
お金払えば街に入れるっていうあれね! オッケーオッケー!
ただ、お金の価値がわからない。じいちゃんのマジックバッグにはお金っぽいのが入っているので、金ならある。
ん~、銅の10円より、鉄かわからないけど、100円の方があっちの世界では価値があったからな~。
でも異世界テンプレだと、なぜか銅貨の方が高いんだよなぁ。あぁ、金属を売るときは鉄より銅の方が価値があったな……考えたってわかんない、どうせ田舎者のフリしてるしここで確認しておこう。
「これで大丈夫ですか?」
「おいおい、おっちゃん! これは鉄貨だぜ! 鉄貨なら30枚だ!」
鉄貨10枚で銅貨1枚分ね。ありがと門番のにいちゃん。
あと、俺はお兄さんね! 門番さんよりちょっと年上だと思うけど、おっちゃんではないよ?
「すみません、お金を払うのも初めだったもので……それではこちらを」
「金をしらないってどんだけだよ……確かに受け取った。ようこそ、ベイツの街へ! ところで気になってたんだが、首に巻いてるのは魔物の剝製か?」
『ニャー』
うわっ! 生きてる! とビックリする門番さん。猫はいないらしいし、珍しいんだろうね。
「いえ、ペットです。飼ってるんです」
「ペットが何だかわからねぇが飼ってるのか、育っても毛皮しか取れないだろう? そんだけ小さければ問題ないだろう。ただ、街中で問題を起こせばおっちゃんの責任になるからな。気を付けてくれよ!」
「ありがとうございます」
お礼をベイツの街へ入る。
仕事柄警戒するのは間違いない。でもおっちゃんはちがうだろ。まったく失礼なやつだった。銅貨3
枚損した! 俺の金じゃないけど……
ベイツの街はなかなかに異世界だった。
海岸にいた人や、門番のにいちゃんもそうだったけど髪の色がすごい。水色だったり紫だったり、ピンクもいるな。それでみんな身体が引き締まっている、肉体労働が多いのだろう。
もしかして獣人・エルフ・ドワーフとかも居たりするのかな? ちょっと楽しくなってきた。
住宅は木造だ。かなり年季が入っていて壊れている家もちらほらあるけど、日曜大工で直しながら住んでいるのだろう。
この規模の街でもしっかりした家があるなら住む場所に不便はしないだろう。最悪クラフトすればいいしな。
よし、まずはギルドを探そう!
数歩歩いて、ふと足元を見る。
そこには靴が見えないくらいに、飛び出たお腹がある。
「なんか嫌な予感がするな……」
そうつぶやきながらギルドを目指すのであった。