4.クラフトスキル発動!
え? なんか今、ものすごく不穏な言葉が聞こえた。
「なんか、私がドラッシェン様の子だと聞こえた気がしたのですが……」
ドラッシェン様はゆっくりとうなづく。なんだか嫌な予感がする……いや、いやな予感しかしない。
「そうだ、アタルは我の魔力から生み出した」
意味が分からない。俺が魔力から産まれた? 産まれてるのにあきらかに子供じゃないぞ?
まだ確認してないけど、あきらかに見た目は大人だと思う。そして若返ってもいないと思う。
「アタルは我の魔力を使い、トシオのスキルで、トシオの身体を作り替えて産み出した。だから、我の子でありトシオの孫でもあるのだ!」
その考え方だと、じいちゃんの子って感じになるけど孫のままなのか。
「ひとまずアタル、ステータスを開いてみよ。」
ステータスってなに? ラノベ風に言うと『ステータスオープン』ってやつ?
と、考えていたら目の前に半透明の板状のものが現れる。
考えただけで出るのね……恥ずかしい思いしなくてラッキー。
っていうか、これで異世界確定だわ。転移か転生かめっちゃ微妙だけど。
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名前:海川 充
種族:人間
スキル:引継ぎ クラフト
加護:古龍の加護(不老)
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「ステータスは見れたか? 我の魔力でアタルの魂を召喚、引継ぎのスキルを付与。引継ぎのスキルでトシオからクラフトのスキルを引継ぎ、クラフトスキルでトシオの肉体をアタルに作り替えて魂を定着させた。我の加護で不老になったようだな。我にも老いが無い。良かったな、お揃いだ!」
なにがお揃いだ! だよ。全然意味がわかんねー。
「ちなみにトシオの肉体を使ってアタルを産み出したのは、トシオの意思だ。トシオは天寿を全うした。最後に能力を孫に継承させたいと頼まれてな……」
勝手に産み出したわけではないって言いたいのね。
「じいちゃんはこの世界を楽しんでましたか?」
「楽しんでいたぞ。誰もが恐れる我に名を付け、ここに住むくらいにはな」
いや、すでに名づけは俺もやってるから、楽しかった根拠にはなってない。むしろ俺は今、全然楽しくない!
「トラ、じいちゃんは楽しそうだったか?」
「好き放題してたニャ!」
なら楽しかったのか。そして、俺にも楽しんでほしかったのかな?
「このステータスはみんなに見えるんですか? ドラッシェン様には見えてるようですが」
「我は鑑定スキルを持ってる。スキルで見ているだけだ。この世界の人間はステータスを教会で確認してもらっていたはずだ」
覗きか! そしてステータスを自分で確認できるのは異世界人のみ?
「それで、私は何かをしたほうがいいのでしょうか?」
異世界転生物は何か使命を持って行動していたはずだ! きっと俺も世界の危機的な何を背負うことになっているんだろう。聞いてもびっくりしないぞ!
「好きに生きよ!」
「え?」
「好きに生きてよい。生きるのが嫌になったら我に言え。アタルの半分は我の魔力、なんとかしよう」
逆にびっくりした。
好きに生きていいなら、まずは釣りを楽しもう。
ちょうど目の前に大きな湖がある、きっと大物が釣れるだろう。
「それではドラッシェン様、まずは趣味の釣りをやろうかと思います。この湖では何が釣れるのでしょうか? 大物がいると嬉しいのですが……」
「さっき土産で渡したであろう。あぁいうのがうじゃうじゃいるぞ! 大きいし凶暴だ! 人間で捕獲しているのを聞いたことが無いが、釣りごたえは抜群だろう」
さっき降ってきたバカでかいやつがうじゃうじゃ?
釣れるわけがない、バカじゃないの? こちとら産まれたてホヤホヤだぞ!
「……すみません。釣りは一旦置いといてお土産を頂きたいと思います。まずは血抜きですね」
よし、まずはこの危険が危ない魚の血抜きをしよう。
ドラッシェン様と話をしている間に、かなりおとなしくなっているから、せいぜい危険な魚レベルになっているだろう。
タックルボックスからナイフを取り出し、エラに突き刺し……って、刺さらない。なんだこれ? エラは諦めヒレの方にチャレンジするも傷つかない。ナイフが鱗にあたるとキンキンいって金属にぶつかっているようだ。
「あの……全然切れません」
『シーサーペントに地球のナイフは無理あるニャ』
トラが嫌な単語を発している。
シーサーペントって魚じゃないんじゃない?
「あぁ、それならこれを使うといい。爪なら定期的に生え変わるし遠慮しなくていいぞ」
なんだかすごく気楽に、かなりでかい爪を出してきた。
というか、どっからその大きさの爪を出したの? 人間の姿のまま爪剥いだんじゃないよね?
もしや、収納魔法的なのあるの? だったらそっちを引き継いでほしかったなぁ~。
「爪でも切るのは難しいんじゃないですか?」
「何を言っている、トシオのクラフトを使え」
あぁ、そこでじいちゃんのスキルの出番なのね!
それじゃあ遠慮なくクラフトのスキルを使ってみよう、使い方わかんないけど。
ステータスオープンも勝手になったし、クラフトも作りたいの考えれば行けるのかな?
あ、今はステータスはいらねぇ! 消えろ!
『主は手を振って何してるニャ? クラフトは作りたいものを思い浮かべながら作るニャ。素材があればクラフトされるし、素材がないと必要素材を教えてくれるってトシオが言ってたニャ』
「サンキュ!」
俺はナイフを思い浮かべながら、『クラフトスキル』を念じた。
かなり強い光を発したエンシェントドラゴンの爪は、だんだん小さくなり、右手に持っている魚を〆る用に使っていたナイフと同じ形になった。形は同じでも色は黒い。刃はピカピカでカッコいい。
でも、真夏の海辺にこのナイフを置いておくとやけどしそうだ。夏は日陰に置いておくようにしよう、そうしよう!
「よし、これで血抜きができるな」
ヒレの方が近かったからヒレを切ったのだが……そのまま切断してしまった。
「切れちゃったけど、まぁいいか。あとはエラを切ってっと」
エラもスパンと切れてしまった。ずいぶん切れ味がいいもんだ。
地球のナイフはこの世界ではもう出番がなさそうだし、タックルボックスの奥に封印しておこう。
ステンレスで錆びにくく、気に入ってたんだけど同じ形のものが手に入ったし、しょうがないよね。切れ味抜群だし。
せめて今まで使ってたさやは再利用してっと……
「あぁぁ! さやが切れたぁ!」
『シーサーペントを切断した時点で驚かないのは、さすがトシオの孫ニャ』
そんなところでじいちゃんを感じるな! 失礼だぞ!
「確かにさやがないと危険だな、不老でも切られたら死ぬぞ。ほら、この鱗でさやを作れ」
またしても、ボンっとでかい鱗を取り出したドラッシェン様。
さすがパパ!
「あわわわ、まだ死にたくない」
慌ててさやをクラフトする。
鱗で作った鞘も黒くてかっこよかった。なんだか高級革っぽい感じもする。鱗は皮膚扱いなんかな?
龍の爪では鱗にキズを付けれないらしい、ナイフが収まって一安心だ。
しかし、シーサーペントの血がどくどく出てきて、足元が地獄のようになっている……全然安心できなかった。