140.鑑定の水晶
今日は久々に朝の訓練で汗を流した。
たまにしかやっていない型の訓練だが、なかなか様になってきているような気がする。ドラッシェン様も、俺の素振りを見て感心していたから間違いないだろう。まさかあんなにじっと見て、出来ていなかったからアドバイスをしてくれるはずだ、こいつはダメだと匙を投げられたわけではないよな? 間違っていないよな?
訓練後、汗を流すためにお風呂に行ったのだが、なんだか足とか腕とかをパンパンに張らしている人が多数いる。実戦さながらの訓練でも行ったのだろうか? 俺が見ている範囲では怪我をするような訓練をしている人はいなかったはずだが?
「ポッパーさん、なんだか肩が腫れてますが怪我でもしたんですか?」
「ん? おぉ、マスターか。実はちょっとミスってしまってな」
ポッパーさんでもミスをすることはあるんだね。しかも訓練中になんて、ちょっとお疲れなんじゃないのか?
「疲れているのかもしれませんね。実戦でのケガは致命傷になります。ポッパーさんは経験済みなので、そんなことにはならないように気を付けると思いますが、疲れていると注意力が散漫になります。気を付けてくださいね」
ミスはしょうがない、人間だもの絶対にある。ただ、やっちゃいけない時にやらなきゃいいのだ。
「わかった、大丈夫だ。安心してくれ」
そんなにたくさん色んなところが腫れている人達を目の前に、安心してくれと言われてもなぁ……俺はあんまり安心できないままお風呂からあがった。
「……なんでマスターが公衆浴場に来るんだ?」
「あぶねー、毒を受けてるのバレたらマスターがどんな行動を起こすか予想もつかねぇ」
ポッパーさんと、あとから浴場に入ってきたカイリさんの声が静かに響いた。
俺は今、孤児院に来た!
本日の目的はスピナさんに鑑定のアーティファクトについて聞くためだ。アーティファクトというけれど、結局は魔道具の一種だろう。道具さえそろえば俺のクラフトで作れるんじゃないのかと思っているのだ。
ただ、現状スキルがわからなくても各々の特技で問題なく回っている。スキルを確認した結果、本人がやりたくない仕事につかなければいけない事になったりしないだろうか? 嫌々やる仕事より、楽しんでやる仕事の方が能力が出せそうだしなぁ……できなくてもあんまり問題ないのかもしれない。
「スピナさんお疲れ様です。今時間大丈夫ですか?」
「おはようございます。先ほどは訓練お疲れさまでした。ちょうど休憩しているところなのでお茶でもどうですか?」
実はベイツの街の一部の人間に、昆布茶が流行しているのだ。昆布茶はおいしいのだが、近いうちにちゃんとしたお茶がほしい。というか、ベイツにたどり着いた初期のころから香草と言っているのに未だに見つけられてない。というか、探してもいなかった……探さなければ!
「ありがとうございます。ご馳走になりますね」
俺はスピナさんが昆布茶を入れるのを待った。
「それで、なにか用事があっていらっしゃったんですよね?」
昆布茶を飲んでいる俺にスピナさんが話しかけてくれた。この昆布茶、何気に粉を溶かすことで作れるという画期的なお茶なんだよね。まぁ、俺が出汁が取れた昆布をどうするか悩んでいたシャッドさんに「もう一回乾燥させてから粉末にすればお湯を入れて飲めるんじゃないですか?」といったのは始まりなのだが……出汁が出ても昆布の風味はあるしこれはこれでおいしい。これでもガラが余るときは肥料にでもしてもらおう。
「そうでした、実は協会にあるというスキルを鑑定できるアーティファクトについて聞きたいんです」
話が脱線しまくっていたが、今回の目的はこれだ!
「鑑定の水晶のことですね。私も見たことしかないのですが……」
「スピナさんは鑑定をしてもらったから聖魔法のスキルがあることがわかったんですよね? どんな形をしていたかとかでもいいので教えてもらえませんか?」
ひとまず形がわかればそれでいい、もしかしたら材料がわかるかもしれない。要はクラフトの材料がそろえばいいのだ。
「ちょっと待ってくださいね」
スピナさんは自分のマジックバックに手を突っ込んだ。
「あの……こんな形です」
「ん? これなの?」
「はい、そっくりでした……」
スピナさんの手に持っているのは。ベイツの近くのダンジョンボスからとれる白いソフトボールみたいな玉……これが鑑定の水晶にそっくりらしい。まさかの鑑定の水晶は鑑定のソフトボールだったのか!
「まさか……同じものではないですよね?」
「いえ、鑑定しようと試してみましたが発動しませんでした」
あぁ、一応試してみたのね? そうなるとなにか手を加えないとダメなのだろう。
「ちょっと、クラフトできるか試してみますね」
俺は白いソフトボール……いや、白い球を受け取りクラフトしてみた。
必要材料『聖女の水晶 ガラケorスマフォ』
「……クラフトで作るのは無理っぽいです」