132.カジさんとの面談
俺は今、孤児院の院長室にいる。
メンバーは、元鍛冶師のカジさん、院長のスピナさん、秘書のサラさん、お手伝いのスズくんとジンくんに俺を含めた6人だ。ジンさんは引退したと聞いたので、もし鍛冶の仕事を引き受けてもらえても、今から鍛冶のお仕事は大変だろう、偶然だが2人の若者が見つかったのは運が良かったのかもしれない。
「実は、ベイツの街に鍛冶師がいないことがわかりました。カジさんは鍛冶師だと伺ったので、もしよければ今までの技術をベイツにも伝えていただきたいと思いまして、今日訪問しました」
「そうか……でもワシはもう体が動かん。鍛冶の仕事は過酷じゃ。ワシも何人も後継者を探したが、後継者が見つかる前に身体がダメになってしもうた」
鍛冶の仕事って大変そうだよね。熱そうだし、叩いたりして力仕事みたいだし……
「そこで、今回は若手2人を用意しました! この子たちも手伝いますので、お願いできませんか?」
若い子は体力が無限にある、特に異世界の人間は無限どころか、よくわからないくらいの力を発揮するだろう。
「子供ではつとまるかどうか……」
異世界人間でもやはり未成年だと厳しい仕事なのか……鍛冶の仕事恐るべし。でも、スズくんもジンくんもみたところもうすぐ成人になりそうなんだけどなぁ。
「そうですか……それではまずは鍛冶の方法を教えてもらえませんか? もしかしたら道具で解決できるかもしれません」
そう、仕事が大変な時は手法や道具を変えるだけで劇的に改善する場合がある。まずはやり方を確認しなければ。
「まず一番大変な仕事が金属を溶かすことじゃ、溶かせれば型に流し、研ぐだけなので研ぐ技術があればできる。とにかく金属を溶かすのに体力を使うのが厳しい……」
ん? 溶かす? 鉄を溶かしてから型に入れてる?
「あの、金属を溶かしてるんですか?」
「そうじゃ、溶かさないと形を作れないではないか」
んー、そういうことなのか。んー、んー……
そもそも金属を溶かすのは容易なことではない、金属ごとの融点は忘れたが、鉄でさえ1800度程まで上げないと溶けなかったはずだ。この1800度というのは、普通のやり方ではそこまで温度を上げることができない。たしか、石炭と金属を地層のように重ねて入れて思いっきり火を焚いてようやく溶けるような感じだったと思う。
んー、こっちでも似たようなことをやっているのだろうが、空気を送り込むのとか人力だと大変だろう。そういえば、トレーラさんの火魔法は青色だったな。あれなら溶かせるだろうけど……
「ちなみに、金属が柔らかくなるくらいの熱さなら、負担はどれくらいになりますか?」
そうなのだ、ぶっちゃけ武具など丈夫さを求めるなら鍛造の方がよい、金属を鍛造は叩いたりして作る方法、というか俺が考えていた鍛冶はこっちなのだが……まさか型を取って研ぐだけだったとは。
「それなら簡単じゃ」
鉄が柔らかくなるのが800度くらいだっけ? 1000度も違えば簡単に感じるか……
「じゃあその温度で武器などを作ってもらいたいと思います。ちょっと俺の知っている技法とこちらの技法が違うようなので俺もアドバイスします。カジさんは、新しい技法になっちゃうので覚えなおしになりますが、鍛冶師復帰はやめときますか?」
そうなのだ、カジさんは新しいことを覚えてもらわなきゃいけなくなる。今までやってきたやり方を変えるのに拒否反応を示す人は多い。今まではこれでやってきてるんだからこれが間違いないのだ! という人が実に多いのだ。
これが悪いことだとは俺も思っていない、逆に最近の若者は最終的にできるものが同じなんだから手法なんて大体でやればいいと考える人も多い。これも実にリスクをはらんでいる、例えば『AをBに入れてCを作る』を『BをAに入れてC』を作るなのだが、結果はCが完成するが、Aは液体、Cが顆粒だった場合など、手順を変えると事故が起きる危険があったりするのだ。
その危険を回避するためにルールを作るのだが、守らないのは若者が多い。理由はさきほどの『結果が同じ』だからだ。Bのほうが取りやすいところにあったから、今回はこっちからした入れたとか、説明をしても『気を付けているから大丈夫』とか、どこからそんな自信が産まれてくるんだ? というような子がたくさんいる。
今までどおりがいい人間と、こっちの方が楽なのにといういう人間の間に挟まれた中間管理職は大変なのだ。どっちがリスクがないのか、楽な方法に変えてもリスクは大きくならないのか、主査択一しなければならない。
「新しい鍛冶の方法には興味がある。金属を溶かさなくてもよいなら儂もまだいけるかもしれん。まずは新しい方法を聞いてから決めても大丈夫じゃろうか?」
カジさんは知識を吸収するのに好意的な人間だったようだ。ぜひ、今までの方法と、俺が知っている方法をすり合わせして良いものに挑戦してほしい。というか、俺も鍛冶の方法なんて知らない、知ってるふりして話しているだけなのだ。
そもそも、ベイツに鍛冶場がないのだ! まずは話をして必要な道具から洗い出していくしかないだろう。
「実はベイツの街には鍛冶場がありません。まずは俺が知っている鍛冶の方法を説明しますね。そこから必要なものを用意していきましょう」
俺はテレビでしか見たことのない鍛造の方法を、知っているふりをして話すことにした。