112.王様への手紙
危なかった……危うく王様への手紙をお願いするのを、忘れるところだった。
前回はシャッドさんへ、これからいろいろ新しいことをする旨を書いた手紙をお願いしたが、なんやかんやあって急展開している。
グランディールは今やベイツの街をのみこみ、周辺の村人まで加入した状態になっている。ちょっと規模が大きくてベイツの街を拡張してしまいたいのだが、どうしたものかという状況だ。
本来なら領主にお伺いを立てなければいけないと思うのだが、何分ベイツの街は秘密ごとが多い。
今回はその旨を記載してベティさんにお願いした。今回は炭からクラフトしたダイヤっぽい石は入れなかった。毎回贈っていると賄賂だと思われそうだし、ベイツ産だとバレてもめんどくさい。
その代わりと言ってはなんだが、ベティさんには新商品のアクセサリーを身に着けてもらった。献上は毎回無理だが受注されれば作って売ればいいだろう。売るんだから賄賂にはならない、商売なんだもん。
馬車に乗り込みクランハウスへ戻る途中、冒険者ギルド前でポッパーさんを見かけた。
なにやら入り口で数人の人と話しているようだ、多分あたらしくメンバーになった冒険者の人達だと思う。知り合いなのかな?
「ちょっと止まってもらえる?」
『わかったニャ』
今日の御者はトラだ、っていうかいつもトラがやってくれている……ってか、シルバーを一番上手に操れるのはトラなのだ。トラとシルバーは仲がいいみたいで、いい買い物をしたなと思う。ずっと仲良しでいてくれ。
「おはようございます。ポッパーさんのお知り合いでしたか?」
「あぁ、マスターいいところに来た。ちょっと話を聞いてもらえるか?」
そこには男性二人、女性二人の冒険者らしき人達がいた。俺の記憶が正しければCランクの冒険者だったはず。今回のメンバー入りでCランクの冒険者は少ない。だから何となくだけど覚えている。
「いいですよ、たまにはギルドの食堂を使いますか。芋汁の味を抜き打ちチェックしましょう!」
そうなのだ、実はベイツの街の冒険者ギルドでも芋汁を提供している。宿の食堂の芋汁は、ブルーブルの肉を使用しているので少し高い、宿泊客にはサービスになっているのだが毎日食べるには割高設定なのだ。
そしてギルドの芋汁はうまい汁は使われているが具材は今まで通り、ベイツの街だけうまい汁は無償で提供している。原材料の昆布がバレてしまったら大損してしまう、多少の出費は必要だろう。
そもそも、街の大多数の人間がクランに入ってしまった。クラン員の食事は無料なのだ。福利厚生といえば聞こえがいいけど、食事代を差し引いた金額をお給料から引いている。もちろん家賃も同様に引いている。部屋も貸している物だから、壊したら罰金を払うことにしているはずだ、多分スピナさんが言ってくれていると思う。
なのでギルドの食堂を使うのはギルド職員であったり、クランに入れなかったとか、クランに興味がない人たちだが、その人たちにも安くおいしい芋汁を食べてもらいたくてギルドで作ってもらっているのだ。
なのだが……ベティさんはよくうちのクランの食堂に来るんだよな。次回から食事代を請求しよう、ギルドマスターなのだから高給取りだろうし問題ないだろう。
俺は今、ギルドの食堂で芋汁を待っている……いや、ポッパーさんの知り合いの四人と対面している。
お昼前ということもあってか、食堂は混んでいた。前はもっとがらんとしていた気がする、食事がおいしくなって利用する人も増えたのかな?
「それで……そちらはCランクの冒険者の新メンバーですよね。改めてよろしくお願いしますね」
「グランディールに入れてくれて感謝する。俺はシンカーと言う。ポッパーさんと同じパーティー「紅の剣」にいたんだ。よろしくな」
ポッパーさんの元同僚でしたか、なるほどなるほど。
「それでお話しされていたんですね」
「そうなんだが、またパーティーを一緒に組もうと誘われてな……」
なんだか暗い表情のポッパーさん、いつもはあんなに明るいのに、神妙にしてると心配になるな。
「グランディール内に、パーティーがたくさんできるのは気にしませんよ」
こんなにクランメンバーが増えたのに、パーティーはエスポワールのひとつしかない。あぁ、ポッパーさんもエスポワールの一員か、それで気になったのかな?
「ポッパーさんもエスポワールの一員ですが、掛け持ちも大丈夫ですよ。それにエスポワールのメンバーもそれぞれ目標に向かって進んでいますからね。エスポワールがパーティーとして活動するのってこれから先、なくなっていきそうなんですよね」
そうなのだ、エスポワールはパーティーなのだが、パーティーっぽくないのだ。クラン会議は人数多すぎて無理そうだ、初期メンバーで会議をするのがせいぜいだろう……次回からはエスポワール会議って言おう。
「……ちょっと思う所があってな」
ポッパーさんは頭をポリポリかきながら苦いかををして話しだした。