11.お兄さんには冒険者ギルドでのテンプレは必要ないのだ!
「ここが冒険者ギルドだよー!」
道端で偶然出会った猫好き幼女、ナギちゃんが元気よく教えてくれる。
剣と盾と杖の看板は冒険者ギルドの看板だったらしい。
「ありがとう。今からギルドカード貰いに行ってくるけど、ナギちゃんはどうする?」
「お塩買ってくる。おじちゃんはここで待っててね。ナギのお家案内するから!」
しまった、おじちゃんを訂正するのを忘れてた!
なんだかんだでトラの話しかしてなかった、失敗した!
というかトラにしか興味を示してなかったからな、しょうがない……
ナギちゃんが小走りでお使いに行くのを見送り、俺は冒険者ギルドを見上げる。
なかなか立派な建物だ。そして想像よりきれいだ。
荒くれ者が使っている建物は壊れていたり、汚れていたりしていると思い込んでいたがそうではないらしい。もしかしたら冒険者は思ったよりもおとなしいのかもしれない。思い込みは良くないな!
扉を開き、中に入った。
正面にはカウンターが二つ。
受付のお姉さんらしき人物がいる。左が若いお姉さん、右には俺よりもお姉さん。
右手側には両開き扉が開いた状態だったので、中が見えた。
食堂っぽい、テーブルとカウンターがある。あそこで食事や酒が飲めるのだろうか?
今回の目的はギルドカード作成。
俺は迷わず右側の、俺よりもお姉さん受付嬢の元へ向かった。
「すみません、ギルドカードを作りたいのですが」
「カード作成ですね、失礼ですが新規作成ですか? お兄さんの年齢だと大抵の人は再発行が多いのだけれど……」
俺は心の中でガッツポーズをした!
年齢が近いと大抵の人はおじさんと呼ばないのだ。おじさん呼びをしてしまえば、自分もおじさん、またはおばさんだと認めてしまうからな!
「今まで山奥で、育ての親と二人で過ごしていました。先ほど門番さんに、街に入ったらギルドカードを作るといいとアドバイス頂いたので伺いました」
「ギルドカードは身分証の代わりにもなります。カードを提出することで、街などへの出入りが無料になりメリットがありますが、これは無料になっているわけではありません。ギルドの依頼を行うことで報酬に税金が発生します。この税金の一部が街への入場料に使用されています」
なんかややこしいけど、どっちにしろ税金は取られるんだし問題ないんじゃね?
「ギルドの依頼を受けない一般の人達は、街に入るのにお金を払っているんですか?」
「一般的に冒険者ギルド、または商業ギルドに入っているので皆さんカードは持っています。おにいさんは……冒険者ギルドに登録でよろしいんですか?」
あ、これわかったぞ。
お前いい歳して、しかもそのだらしない……じゃなくて立派なお腹で冒険者ができるのかって言いたいんだな!
「大丈夫です。今まで山奥で暮らしてきたので腕には自信あります」
腕にはね……お腹は見ないでね。そのうちきっと立派になるよ。
「……わかりました。それではこちらに名前と職種の記入をお願いします。」
お姉さんからタブレットのような薄い板を受け取った。
なんか、これだけすごい近代的だな。
文字も日本語に見えるんだけど、これはスキル的なやつなんだろうか?
言葉も文字もわかるからいいんだけど、みんな髪の色が斬新だからなぁ。
あんまり深く考えないようにしよう。
どれどれ、名前はアタルで……職種?
「すみません、職種って何ですか?」
「あなたの得意分野を考慮し、職種の記入をお願いします。基本的にスキルは秘匿するものです。しかし、それではどなたがどの分野に精通しているかわかりません。特にパーティーやクランに入るときに職種が目安になります」
「なるほど……じゃあ、大魔法使いにしようかな?」
「嘘の申告は冒険者として信用を失いますが、よろしいですか?」
え、そんなこと言われたって戦闘のスキルなんて持ってないし……
「よろしいですか?」
お姉さんの圧が強い。さすがベテランだ、これなら若いお姉さんの方が良かったのかもしれない。
「ごめんなさい、よろしくないです」
「慎重に考えてくださいね!」
慎重にっていわれても、俺にはクラフトと引継ぎしかスキルはない。製造業かっての!
こんなんで冒険者としてアピールしろって言われても無理だ。
しかたない、これはもう開き直ろう……
「これでお願いします。」
「……管理職、ですか?」
「はい、人を使うのには自信があります」
さっきまで、今まで二人で山奥にいたって言ってたのにね。めちゃくちゃだね!
「山奥に住んでいたと言ってませんでしたか?」
「そ、そうなんですけど。戦闘向きのスキルってないんですよ。で、でも人を上手に使うスキルは持ってるんで、ク、クランを作ってクランのマスターを目指したいと思います。」
我ながらめっちゃ苦し紛れの言い訳だ。
スキルは無いけれど、管理職の研修は受けたことあるし大丈夫な感じもする。
こっちの世界、あんまり発展してないみたいだし……
「人を上手に使うスキルというのがすごく気になりますが、詮索はしません。悪用はしないでくださいね! これでカードをお作りします。お待ちください」
お、大丈夫だった。ラッキー!
『トシオより無茶苦茶だニャ』
「ちなみにじいちゃんはどうしたんだ?」
『商業ギルドで用務員さんで登録したニャ』
いや、じいちゃんの方がめちゃくちゃだろ!
自己申告の職業なんて、ちょっと心配だな。
本当にクランやパーティーを組むときの人選は、慎重にしなければいけなさそうだ。
「お待たせしました、こちらがギルドカードです。説明は必要ですか?」
ギルドカードを受け取っていると、後ろの方から「おじちゃ~ん、カード出来たー?」と、声が聞こえてきた。
これは、あんまり待たせるのもよくなさそうだ。
「あ、ちょっと用事ができました。明日また来ますので詳しく教えてください。」
こういうのは、時間があるときゆっくりと聞くものだ。
手を抜いてあとから知らなかったでは、大惨事になる場合がある。
「あの子ですか? では、宿はそちらに?」
「その予定です」
「わかりました、お待ちしています」
なんか少し表情が柔らかくなった気がしたけど、どうしたんだろ?
人を上手に使えるスキルをもっている、あやしい人間だったからなぁ、危険人物扱いされてたかな?
自分でいうのもなんだけど、悪い人間じゃないよ。