桃太郎・去りし供に捧ぐ送り火
――桃太郎が鬼が島から宝を奪還してから10年。
桃太郎の名声は薄れ、おじいさんおばあさんが遺した家に一人ひっそり暮らしていた。
囲炉裏の火をぼぉっと眺めていると「桃太郎さまはいらっしゃいますでしょうか?」と、
辺鄙な家には珍しい声が響いた。
桃太郎は、玄関を開けると。
年老いた老猿がそこにはいた。
桃太郎は、「お猿さん、どうかなさいましたか?」と伺うと。
「先日、あなたと共に戦った猿が逝去しました。」
戦友の訃報の言葉だった。
犬、雉も風の噂で亡くなったことを聞いた桃太郎。
生きる時間の長さが違うからと受け入れていたが、
最後の仲間を失った消失感は大きかった。
「・・・そうか・・・」
桃太郎は、そんな言葉を漏らすことしか出来なかった。
すると、老猿が「あなたにお伝えしたいことがあります。」と呆けている桃太郎に告げた。
老猿は、そのまま桃太郎の事を気にせず言葉を続ける。
「実は、桃太郎さん。あなたと共に戦った猿は、私たち猿の頭領だったのです。
ですが、鬼との戦闘での傷が深く、その後は他の猿にその座を追いやられ、人知れない地でひっそりと私と二人暮らしていました。」
桃太郎は、そんな猿の荒んだ生活を聞き続けました。
「あの猿は、あなたに貰ったきびだんごに目がくらんだのではありません。あなたが鬼を倒す心意気に胸を打たれたのです。
それは、犬、雉も同じです。」
桃太郎は、ただただ自分の心が許せなかった。
通りすがった犬、猿、雉に鬼退治を頼んだことで、彼らの今後の生活に影響が出るとは考えもしなかったのだ。
「ですが、あの人は、最後まで鬼を倒す大偉業。自分の猿山という縛りを破壊してくれた、自分の檻を破壊してくれた桃太郎さんに斎尾まで感謝しておりました。ありがとうございます。」
桃太郎は、ただうなづくことしかできなかった。
老猿は、頭を下げ、踵を返して去って行く。
桃太郎は、友との別れ、彼らが最後まで感謝してくれたこと、そして、彼らの人生を変えてしまった後悔を胸に刻み、再び囲炉裏に向かうのだった・・・