第9項 ラストチャンスのゴミカス
これで3回目のループだな。
泣いても笑ってもこれがラストチャンス。
今までの失敗を活かし、対策を立てるべきだろう。
まず、メイは優しいだけの男は好きではないらしい。
そして、デブは嫌いだ。
さらに言えば、今の俺は、リリスに投下された良心のせいで本気で極悪非道なことはできない。
今回は、極悪非道風の優しい人路線で行くべきだろう。
ツンデレ?っていうやつだな。
さて、身支度でも整えるか。
今日は、成人の儀か……。
ベッドから飛び起き、鏡を見ると。
「はぁぁ???? 若くないやんけ」
ふざけるな。あのクソ悪魔め。
ラストチャンスは、成人の日じゃない。
普通に大人。
いや、むしろ、オッサンになりかけだぞ。
これ何歳だ?
うーん。今がどういう状況なのかわからん。
ドアがノックされた。
「朝食のご準備です。よろしいですか?」
それは、ずっと聞きたかった聞き慣れた声だった。
メイだ。
メイは部屋に入るとテーブルメイクをし、ワゴンで朝食を持ってきた。
皿を見て気づく。
ピーマンが入っている。
メイが俺の嫌いな物を出したのは、後にも先にも一度だけ。
そう。
この日は、俺がメイを殺した日だ。
もうメイとの関係が出来上がってしまっていて、今更キャラの路線変更は難しい。
リリスめ。舐めたことしやがって。
さて、どうする。
どう対応する。
優しすぎると不自然だし、考え込んでも不自然だ。
自分の馬鹿さのせいでがんじ絡めだぞ。
本当にやりづらい。
ループで戻ったところで、ピーマンが好きになる訳はない。
見ただけで、あの不愉快な青臭い味が口の中に広がり、ゾワゾワする。
さぁ、どうする。
俺が悩んでいると、メイがハッとした顔をする。
ピーマンに気づいたらしい。
メイはピーマンを下げようとする。
このまま下げさせ、文句を言わないのも、俺らしくない。
俺は冷静を装ってメイに声をかける。
「おい、俺がピーマン死ぬほど嫌いだって知ってるよな? なぜ出した? シェフを呼んでこい」
メイは狼狽えた目で俺をみる。
「わたしとシェフはどのような殺され方をするのですか?」
『いや、誰も殺すなんて言ってないから……』
本当にやりづらいぜ。
「いいから、さっさとシェフを呼んでこい」
シェフがやってきた。
顔面蒼白だ。
こいつも、メイと同じように俺に殺されると思っているんだろう。
それにしても、これほどまでに恐れられるって。
俺って、相当やばかったんだな。
これじゃあ、馬車に轢かれなくても、遅かれ早かれクーデターが起きて、俺は殺されてたんじゃないか?
シェフが土下座しているので、頭をあげさせる。
「シェフよ。本来であればピーマンを出したのだから、死んでもらいたいところだが。長い付き合いだからな。今回だけは見逃してやる。それと、ピーマンは身体にいいものだからな。俺の偏食は皆には隠しておけ。領民にはどんどん食べさせるように」
俺のせいでピーマン農家に迷惑がかかってもいけないからな。
ん。
メイがジトーっとした目でこちらを見ている。
『やっちゃったか? 甘すぎたか? もう現時点で、かなりの悪人認識されているはずだからな』
話を変えるか。
メイを見ると、メイド服が汚れている。
あぁ、そうか。うちの親父もケチだからな。
使用人の衣服に金を出したがらないのだ。
他の使用人のはいずれどうにかするとして、とりあえず、俺の専属のメイだけでもどうにかするか。
「メイ、外出の準備だ。馬車をまわせ」
すると、メイはひどく動揺をしている。
「外出ですか。もしかして、ピーマン農家の私の実家に行くのですか。父は死刑ですか?」
————あぁ、本当にやりづらい。
「いや、街に行くぞ。お前のメイド服。随分と長く使っているだろ。それに、下着や身の回りの物も入用だろうしな。買い物に行くぞ」
するとメイは、さらに動揺した様子で。
「あの、わたし。昨日もお風呂に入れていないので、夜になる前に、入浴の許可をいただけませんか? それとわたし、そういう経験ないので痛くしないでください……」
『おいおい、どんんだけ勘違いしてるんだ。こいつは。マジでやりづらいし、話が進まないんですけれど』
それに、メイド達が夜伽にきたって、相手したことはないんだがな。
俺様の高貴な遺伝子を平民ごときにくれてやる訳ないと思うんだが。
俺様とメイは買い物に出ることにした。