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6.ここはまるで袋小路のような②

お読みくださり、ありがとうございます。


エリーのおかげで、少しだけ元気が出たヴィヴィアン。

さっそく真相へと向かいますが……。さてさて。

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 聖果をすっかり平らげても、しばらくその場で放心していたヴィヴィアンだったが、やがておもむろに立ち上がった。


 気分的なものかもしれないが、体力はずいぶん回復したような気がする。魔力も少しだけもどってきていた。自然と笑みがこぼれる。


 全く余裕のなかったさっきまでとは違う。お腹が少しだけ満たされたのと同時に、エリーから優しさと勇気を分けてもらったようだ。


「よっしゃあー! じゃあ、エリー。ちょっと探索に行ってくるよ。また、あとでね」


 あと確認するべきは、操舵室だった。

 そこに行けば、きっといろいろと分かるだろう。

 問題は操舵室のある場所だ。

 宇宙船の構造には詳しくないが、操舵室と言えば、船全体を見渡すことができる中央にあることが多い。このラウンジが最上階だといっていたのは確かだ。

 だったらこの先にある可能性が高かった。


 そう考えて先に進んでいくと思った通り、庭園の先には、透明な樹脂の扉があった。

 その先には闇を閉じこめたような、真っ暗な通路が見えている。懐中電灯で照らしてみると、奥にまた扉がある様子だった。


 とりあえず、これは押しても引いても開きそうにない。

 扉に向かって右手を掲げ、そっと魔力を流し込んでみる。

 わずかな手応えを感じると、扉はしゅるりと開いた。センサーはまだ生きているようである。

 開いた扉から続くのは10メートルほどの通路。足元と側面に青白いライトが点灯する。


 おずおずと足を踏み出すと、背後で扉が閉まり、ヴィヴィアンは思わず身震いする。

 一気に10度は気温が下がったような感覚があった。

 ここは寒いし、静かすぎだし、なんだか恐い。


 どこかにある電子センサーの目が、こちらを監視しているのを感じる。

 不審者の立ち入りを警戒しているのだろう。当然、何だかの攻撃手段もあるに違いない。

 催眠ガスとか高圧電流とか。まさか、いきなりレーザーカッターでメッタ斬り……はない……と、思う、が……。


 緊張しながらソロリ、ソロリと、先にある扉の前まで進む。

 そうして端まで歩ききったが、首も手足も胴体とつながったままなので、ちょっとホッとする。


 同じように右手を掲げて魔力を流し込むと、二つ目の扉もすぐに開いた。


 そこに現れた空間は、やたらと暗い──。


 通路よりも控え目な待機電力の明かりのみが、様々な機器を暗闇に浮かび上がらせている。

 間違いない。ここが目的の操舵室だ。

 そうと分かると、思い切って足を踏み入れる。

 ここも寒かった。吐く息が白い。うすい検査着のままなので、何か羽織る物が欲しいくらいだ。

 腕組みして身を縮こませながら、さらに前に進み出る。


「あー。エリュシオン、聞こえてる? 一応、初めまして……、かな? わたしはヴィヴィアン・ジュリアロス・ベルコ。この船の管理者権限を持つエルフだ。音声でのやりとりはできる?」


 応える声はない。


 代わりに掲げられた巨大モニターの隅でカーソルが点滅し、小さく〈できん〉と表示される。

 その意表を突く文言には、ちょっと首を傾げたが、『……音声でのやりとりはできる?』というヴィヴィアンの問いかけに対しての応答らしい。

 とりあえずモニターの文字だが、やり取りができそうなことに、ヴィヴィアンはほっとする。


「そうか。じゃあ、それでいいよ。聞きたいことがあるんだ。まずは、現在のエリュシオンの状況だけど。だいぶ出力を絞っているよね。どうしてなの?」


 モニターには〈……〉と表示され、しばらくしてから〈魔力の枯渇……〉と表示され〈もうおしまいだ〉と続く。


「いやいや。だいぶ弱ってるじゃないか。そうじゃないかと思ったけど、まさか本当にエリュシオンも腹ぺこかぁ。まいったなぁ……。ってか、救助は呼ばないの? ここはシャンデール宇宙空港の格納庫だよね。なんで管制塔を呼ばないの?」


 当然のことを、一応聞いてみる。

 格納庫で何か不具合が起きても、最低限の手入れはされているのだから、普通なら管制塔と連絡を取り合えるはずだった。

 まあ。それができないから、この状況なのだろうが、その理由についてはまだ絞りきれない。


 エリュシオンはまた〈……〉と黙考し、〈死んだふり命令が出ておる……〉と続く。


 意味が分からず、ヴィヴィアンは瞬きをくり返し、やがて眉間にシワを寄せて考え込む。


(何だ、それは? 暗号か? 何かのミッションか? それとも、ふざけてる? のか?????)


 頭の中に疑問符がいっぱい浮かぶのは、仕方ないだろう。

 だいたい〈死んだふり〉ってのは、敵の目をあざむくためにするものだ。

 なにを敵としているのか分からないが、それを命令した者は、管制塔とのやりとりすら断てと言ったのか?


 考え込むヴィヴィアンは、ついでにこの宇宙船の外に、手強い敵が大勢押しかけてくる図を想像してみる。

 空港テロ? 未知の生命体? 還ってきた宇宙人エルフ……との戦争?

 そんな状況を考えてみるが、ちょっとアホらしすぎて、とうてい現実的ではない。

 というわけで、このAI(人工知能)、チョット人をおちょくりすぎではないだろうか。


「それで、その〈死んだふり命令〉? はいつまで続くの」


 なかばあきれながら、それでもガマン強くたずねると、〈……限界ギリギリまで〉とくる。


「もう、すでに限界ギリギリ、ってか限界を超えてない? じゃあ、命令解除だ。今すぐに管制塔と連絡を取って、エネルギーの補給と救助を要請して!」


 ヴィヴィアンは管理者権限だとばかりに、強めの態度に出る。

 いい加減、ここは寒くて本当に凍えそうだった。

 せっかくエリーにもらった『桃色の神聖樹の実』による体ほかほか効果も、一気に使い切ってしまいそうである。


〈……了解した。チョット、待て〉と、エリュシオンが応答する。


 いちいち偉そうな文面に少しイラッとするが、ちゃんと従ってくれるようなので、気にしないこととする。


「はぁっ。まったく……。なんでいい大人が、空港のドッグ内で遭難なんだ? そんなの聞いたことがないよ。救助が来たら、ドグには思いっきり文句言っとかないとね」


 そんなことをつぶやきながら、点滅しているモニターのカーソルをにらみ付ける。やがてヴィヴィアンの命令を実行したらしい、エリュシオンからの返答がある。


〈……応答なし〉


 しばらくして今度は、


〈管制塔からの応答なし……〉〈他船からの、返事ナシ〉〈……SOS信号、ムシされておるぞ〉〈……ドコとも、つながらんな〉


 と、続く。

 それからしばらくして、ついには、


〈一切の文明電波は、消えとるわっ!!!〉


 と、かなりなげやりな太字の文面が乱暴にたたき出される。


 ヴィヴィアンはほほ笑みながら、こめかみに青筋を立て固まる。

 最悪も最悪の予想パターンが踏襲されそうな予感があって、笑顔が極度の緊張で引きつっているともいう。


 エルフがこの世界に存在する以上、〈文明の電波が消える〉など、ありえない。

 電子機器を使用すれば、様々な波長の電波が生じる。さらに網の目のような通信網は、この惑星全体を網羅するのはもちろん、宇宙にまで広がっている。


 一見、緑豊かな自然と共に暮らしているように思えるエルフだが、騒々しいくらい、さまざまな電波が飛び交う世界で生きているのである。


「有線のケーブルは? それと魔法回線、衛星は? ドグミッチとのホットラインはないの? 絶対に誰かと、何だかの連絡は取れるはずだよね?」


 他にも、思いつく限りの連絡手段をあげてみせるが、エリュシオンは、


〈応答なし!〉〈回線エラー!!〉〈接続不可!!!〉


 と、次から次へと、これでもかと否定の文言をモニター全面に貼り出してくる。

 省エネモードはどこに行ったと、突っ込みたくなるくらいケバケバしい警告表示である。


「冗談、言ってる場合じゃ、ないんだけど」〈誰も冗談なんか言っておらん〉「マジでありえないんだけど」〈マジそうなんだが!〉「だけどありえないっつうの!!!」〈だから通じないし、つながらん、と言っておるのだ!!!〉「ぜえーーーったいに、ウソだぁぁぁーーー!!!」〈ウソではなぁぁぁーーーい!!!〉


 などという、不毛なバトルがいつのまにか熱を帯びて、モニター全面と大声で展開されている。

 そうやって癇癪を破裂させながらも、ヴィヴィアンは頭の隅では冷静に思考する。


 まだ、大事なことを聞いていない。

 一番大事なことだが、なんだか確認するのが恐くて、なんとなく遠回しにして、気のせいになればいいと思っていた。

 だけどもう、そういったことも言っていられないようだった。


 エリーと名付けた目覚めたばかりの緑の精霊は、眠るヴィヴィアンに覆い被さるように、まるで木の葉となって散ったかのように消えていた。


 シオンと名付けた同じく若い紫紺の精霊は、眠るヴィヴィアンを見守るかのように、石化して物言わぬ像へと変わっていた。


 そしてラウンジのある庭園では──。

 あの時は確かに存在しなかった見事なクスノキの大樹が、枯れていたとはいえ、それは立派な枝ぶりを天に掲げていた。

 一本の若木が、苔むした幹を持つ大樹となるまでに、どれほどの時の流れが必要となるのか──。


 どうしたって、とてつもない時間の流れを感じずにはいられない……。


「なあ、エリュシオン?」


 不毛な言い争いを収めると、ヴィヴィアンは旧友に語りかけるように問いかける。


「今は……。一体、いつなんだ? わたしはどれくらい、……眠っていた?」


 震えそうになる声を必死でこらえる。

 モニターのカーソルが点滅をくり返す。言いよどむように、それだけを繰り返すので、ヴィヴィアンは思わず小さく笑ってしまった。

 ずいぶんと偉そうな人格のAIなのに、変なところで気を遣ってくれるようだ。


「さっきはウソだなんて言って、悪かった。あんたのことは信じているよ、エリュシオン。だからそう気を遣わなくてもいいよ。正直に教えて欲しい。現在の暦は? あれからどれくらい、時間が経ったんだ?」


 モニターは小さく、〈……1〉と表示し、やはり少しためらいがちに、ゆっくりと続きを表示していく。〈……10239〉。

 最終的に〈創世暦10239年 Maマイユス 29day 21:32:06〉と、モニターにデカデカと年月日はもちろん、時刻まで貼り出してくれる。


 ヴィヴィアンは引きつった顔で、表示された創世暦の数字を眺める。

 ある程度、予想していた数字とはいえ、現実に突きつけられると思考がブッ飛んでしまう。


〈……3579年、寝ておったな〉

「……3579年も、寝てたの?」

 表示は〈そうだぞ〉と、続き〈おはよう。気分はどうだ。我が主(マイマスター)よ〉とくる。


「……う、う、う……、うーーーそーーーだぁぁぁぁぁーーー!!!」


 ヴィヴィアンは両手で頭を抱えると、長い灰黒色の髪をぐしゃぐしゃにかき乱し、腹の底からチカラ一杯、声の限りに叫んでいた。





ご読了、ありがとうございます。


今から3579年前って、西暦だと紀元前16世紀。

日本だと縄文時代。いや神話時代の人?


次回、「4.どこかへ扉をつなぐための」前編。

えっ? 暗黒の天魔竜王って、何?

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