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14.とある禁句のその一言①

お読みくださり、ありがとうございます。


目の前には、かつての宇宙空港AI警備ロボ──。

どうする?! ヴィヴィアン!!!


今回も、よろしくお願いいたします。

1 警備兵ロボ


 まさかエルフが絶滅したといわれるこの世界に、あの時代の生き残りがいるなど信じられないが──。

 シャンデール宇宙空港のゲートで警備に当たっていたAIロボが、今、目の前に確かに存在する。いや、まったく同じかは知らないが、当時最新鋭の警備兵なのは間違いない。


「エリュシオン!」と、すがりつくように叫ぶ。


 だって、対テロ用の兵器である。生身のエルフがどうこうできる相手ではない。

 どんな装備があるのか知らないが、高出力レーザーなんて持ち出されたら、間違いなくヴィヴィアンの障壁など紙切れ同然である。

 今度こそ首チョッキン。いや、一撃で胴体に大穴があいて吹き飛び、上下がお別れする。永遠に──。


 対するエリュシオンも、同じく今日まで生き残ったAI。しかし警備ロボなど、敵でも脅威でもない。なんたって大量破壊兵器搭載の宇宙船である。

 図体だって態度と同じくらいデカイし、やることはアホだけど頭いいし、主砲のプラズマ砲ときたら、警備ロボなど一瞬で蒸発させられる威力がある。

 問題は、本体は地中深くで身動きが取れず、エネルギー不足のため現在、主砲はカスッとも出ないということだ。

 まあ、使われたら、ヴィヴィアンも森ごと消滅なのだが……。

 つまりこの場では、全然、戦力にはならない。


(…………)


 いや、いや。だとしても、イザとなったらとっても頼りになる、もはやツーカーの相棒なのだ。

 冷静に相手を分析し、この場をどうにかする、何かすばらしい秘策を授けてくれるに違いない。


「エリュシオン……!」と、再び声に出して叫ぶ。が、全く反応がない。


「あれ? エリュシオン? エリュシオン……さん? ははっ。トイレかな?」と、ボケてから、すぐさま「なんでやねん」と自分でツッコミを入れる。

 それでも返答がないことに気がついて、ヴィヴィアンの顔色はサアッと青ざめる。

 いつの間にか、通信が途絶えていた──。繋がらない──。

 想定の範囲内……、のはずだった。だが、間が悪すぎた。


 目の前のAIロボットは、標的を確認するかのように、ヴィヴィアンに銃口を定めてくる。


「ひえっ!」と、ヴィヴィアンは悲鳴を上げることしかできない。


(どうする、どうする、どうするっ!)


 その短い時間の中で、ものすごい勢いで思考を加速させる。

 エルフの英知を集結して、その明晰な頭脳を極限まで働かせる。


(魔法攻撃は無効化される、物理攻撃は手段がない、逃げるには……相手の索敵から逃れるには……ッ! ってか、警備兵がどうして一般人に銃口を向けるんだ。指揮命令系統はどうなって……。システムの暴走か? この責任は誰が取るんだっ!)


 脳神経はショート寸前、責任転嫁。思考放棄──。

 とりとめのない考えがぐるぐると渦を巻くだけで、有効な解決手段は一向に出てこない。

 もはやパニックのヴィヴィアンは、「来るッ!」と判断すると、とにかくその場にしゃがみ込んでうずくまり、思いっきり分厚い障壁を張り巡らせる。


 ドドドドドドドドドッッッ!


 その絶え間ない実弾発射の音に、ヴィヴィアンは自分の死を覚悟した。

 障壁が破られ、全身が穴だらけにされる瞬間を想像し、意識が飛びそうになるのをこらえてギュッと目をつぶる。

 思えば意外にあっけない最期だった。調子に乗って、油断しすぎたのだ。エリュシオンという英知を得て、まるで全能であるかのように過信した結果、エルフの魔導文明の生み出した兵器にやられるのだ。

 思ってもみない幕切れに、ついカラ笑いしてしまう。


 だが最期に『エルフの森』で、たくさん日の光を浴びて、おいしいイチゴが食べられて、きれいな水で泳ぐことができて、本当に幸せな気持ちになれた。

 地の底でエリュシオンと共に眠りにつくのも、今思えば悪くはなかったが、やっぱり明るい世界に出てこられたのは、とても幸運なことだった。


 エリュシオンには悪いが、ひと足先にむこうの世界に行くことになるのだろう。そうしたらもしかして、あの懐かしい面々……、ドグミッチやリュイノーマ。それから緑の精霊エリーに、また会えるのだろうか。

 この障壁が破られ、痛みに苦しみぬく前に、誰かそちらから迎えに来てくれないだろうか。


ドドドドドッッッ! カチャ、カチャ、カチャ……。


 必死に障壁を張りながら、今か今かとその瞬間を待っているヴィヴィアンの耳に、弾丸をはじく音が途切れ、ふと耳慣れない擦過音が届く。

 おそるおそる目を開けたヴィヴィアンの目の前には、さっきと変わらずいかめしいAIロボの姿がある。ただし、実弾切れか根詰まりなのか、向けられたマシンガンはカチャ、カチャ鳴るだけで、何も出てこない。


 ふと見ると、障壁の周囲には、大量のドングリが落ちている。

 さっきまではなかったドングリに「……え」っと、思わず声がもれる。

 まさか……と、AIロボに目をこらすと、ブンブン振り回される銃口の先から、ぽろぽろとドングリが転げ落ちる。

 それから再び銃口はヴィヴィアンへと向けられ、実弾が発射される──。ドングリの実弾が……。


ドドドドドッッッ!


「…………」


 なんというべきか。障壁の前にはじかれて周囲に降り積もるドングリに、ヴィヴィアンは目をぱちくりさせる。

 てっきり鉛玉だとばかり思っていたのだが、ドングリだ。何度見てもドングリである。一体どういう仕組みでマシンガンからドングリが発射されるのだ? あれはマシンガンに似て、マシンガンに非ず──。オモチャなのか?


 すっくと立ちあがったヴィヴィアンは、問答無用で手を振り下ろす。

 すると突然、霹靂と共にビリビリとした青白い閃光の一撃が、AIロボットを包み込む。


 プシュゥゥゥ~!


 煙を上げながら起動停止したAIロボットは、頭部の赤い光をくすませると、うなだれるように肩を落として沈黙する。

 その背後から、慌てて飛び出してきた妖精が、居たような居なかったような……。


『……なっ、なんということだ。我らが守護神が破れるなど……! くっ。なんと忌々しい。おのれゴブリン・キングっ!』


 精霊アルセイスのくやしげなセリフの、その最期の一言に、放心気味のヴィヴィアンはピクンと反応する。

 それから「ああぁぁッ?」と腹の底から低い声をしぼりだす。


 ヴィヴィアンというエルフは、普段はきわめて温厚でのんびりした性格なのである。だが、生死の極限からのゆりもどしか、そのとある禁句のその一言に、ピコンと無敵モードにスイッチが入る。


「さっきから黙って聞いてれば……。

 だぁーれぇーがぁー、ゴブリンだああああぁっ!!!」


 地獄の底から舞い戻ったような荒々しさで、一喝する怒声はビリビリと大気を震わせる。ビシバシと威嚇の風をまとうその迫力ある姿に、一転してオロオロとひるむ精霊や妖精たち。

 そんな彼らを、ヴィヴィアンは思い切りねめ回す。


「わたしは、ヴィヴィアン・ジュリアロス・ベルコ。──この世界において唯一無二。最初で最後のEX(エクストラ)・エルフだ!!!!」


 怒号のような大音声が響き渡り、荒ぶれるEX(エクストラ)・エルフの長い灰黒色の髪がゆらゆらと逆立っている。

 夕闇の中、障壁が放つ淡い光に包まれて立つその姿は、ある意味、神々しくも感じられる。


『……ジュリアロス、様? まさか、そのような……』

「そうだ。わたしがジュリアロスだ! このわたしの、どこをどう見て、ゴブリンなんかと勘違いするのか知らないけどっ……」


 そう言ってから、はたと思い当たる。そういえば、地上ではずっとプラントモードで過ごしていた。食物では不足しがちなエネルギーを取り込むためだが、今日も朝からずっと、ほんのチョットだけ緑っぽくなっていた……ことを思い出す。

 いまは日も落ちたのでその必要もなく、自然にいつもの健康的な褐色の肌色に戻っている。ひたひたと周囲を満たす宵闇のせいで、肌色など分かりづらいかもしれないが……。

 確かにさっきまでは少し緑色っぽい肌や髪だった、かもしれない。かもしれないが、それにしたってゴブリン呼ばわりされるいわれなど、ないったら、ない!


 しかもゴブリン・キングときた。ゴブリン・キングとは何なのか。この3579年でそういう種が誕生したということなのか。


「とにかく! わたしはゴブリン……なんかじゃない。誤解が解けたなら、もうムダに攻撃するのはやめろ。

 それでもわたしが気に入らないと言うなら、お望み通り、近々ここを出てってやるから!」


「いいな」とばかりに睨み上げると、三精霊は怖じ気づいたのかわなわなと震えている。


 いや、アルセイスだけは拳を握りしめ、短い足を苛立たしげにダン、ダンッと踏みつけると、怒りに身を震わせていた。





お読みくださり、ありがとうございました。


大々的に名乗りをした、ヴィヴィアン。

しかしそれに納得できない人がいる模様。

プラントモードはやっぱり……。


次回、「7.とある禁句のその一言②」。

悪役ヴィヴィアン、ついに断罪される⁈

えっ、婚約破棄ですか??? 

ってか、彼氏いない歴3579年……。

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