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13.それらとの新たな邂逅は②

お読みくださり、ありがとうございます。


スズメバチを追いかけるヴィヴィアン。

その先に待ち構えていたのは……。


今回も、よろしくお願いいたします。

2 三精霊


 すこし開けた森の深奥には、高くそびえ立つ大岩と、それを取り囲むように巨木が植わっている。

 苔むした大岩は、それ自体がこの森を守る精霊アルセイスであるらしい。

 水を守るナーイアス、樹を守るドリュアスを両脇に従えてそこにいた。


 ちなみにアルセイス、ナーイアス、ドリュアスというのは、力のある精霊の称号で、「エルフの森」では長のような立場にある者たちを指す。

 この森の結界を維持し、総括して守り育てている者たちだ。


 気がつくと、数え切れないほどの小さな精霊たちが、ヴィヴィアンをぐるりと取り囲んでいる。

 威嚇するためか、逃げられないようにするためか……。

 今のところ、まだ好奇心半分、敵意が半分といったところだろうか。


 スズメハチはその苔むした大岩の上で反転すると、さらに大群を呼び寄せてワンワンと羽音を唸らせながら、またカチカチと警戒音を鳴らしている。

 こちらはとても威圧的で、非友好的な雰囲気である。

 合わせて正面に立つ三精霊も、ずいぶん険しく厳しい表情で、緊張感が漂っている。どうにも、なかよくなれそうな雰囲気じゃない。

 さて。どこでなにを間違えたのか──?


 以前──。いつのまにか3500年以上も昔の話になるが、ヴィヴィアンにとって精霊とは、いつも自然にそばにいて、身近に親しんできた存在だった。ときにはケンカしたり仲違いしたりすることもあるが、お互いに理解し合えるよき隣人だった。

 生まれてこの方、こんなに厳しい視線と態度を、精霊や妖精たちから向けられたことはない。


 ここにいる彼らは、おそらくエルフを知らないのだ。

 だからこのヴィヴィアンという未知の生き物を前にして、精霊たちも警戒しているのだろう。

 そう理解はしたが、向けられる敵意はトゲトゲしく、なんだか悲しい気持ちになってくる。


 だが、ここで臆病風に吹かれてしまってはいけないのだ。向こうが本気なら、こっちだって本気を見せなければいけない。


「誰か──。話ができるやつはいないのか」


 言霊をぶつけてやると、中央三体の精霊から驚いたような反応が返ってくる。

 そうして、たまらずといった様子で一歩、前に踏み出した精霊がいた。


『おまえ、どうやってまぎれ込んだ! ここは我らが結界で守られている。おまえのようなゲスが踏み入って良い場所ではない!』

「……ゲスってねぇ」


 いきなり声高に叫んだのは、樹を守る精霊ドリュアス。きれいなお姉ちゃんだが、おしとやかだったエリーとはちょっと違い、ずいぶん高飛車でイキがいいようだ。

 結界の主軸を担う責任からか、はなからいきり立った発言である。

 しかもいきなり実力行使である。


 ヴィヴィアンの立つ足元の地面が割れて木の根がはいだし、その足首から腿、腰、胸とグルグル巻き付いて締め上げてくる。


「あ……あの、さぁ。知らない者を前にして不安なのは分かるけど、いきなりこれって、話し合う態度じゃないよね」

『おまえと話し合うことなど何もないのよ。この神聖なるジュリアロスの森をかき乱し、略奪する者よ。おとなしく消え去りなさい!』


 そう言ったのは、水を守る精霊ナーイアス。これまた色っぽいきれいなお姉ちゃんだが、しかし……。


「ジュリアロスの──、森って……」


 グルグル巻きの根っこのミノムシ状態で、身動きできないヴィヴィアンは驚いてつぶやく。そこへ精霊水のナーイアスが放った魔法はえげつない。問答無用で鋭い水刃を飛ばしてきたのだ。

 しかもねらいは首チョッキン!


「わっ!」


 よけようもない。鋭い水の刃は、狙い違わずヴィヴィアンの首を通り過ぎる。


「あ……、危ないじゃないか! ビックリしすぎて今一瞬、心臓が止まっただろっ!」

『ええっ! どうして首が落ちてないの!』


 恐すぎるセリフを吐きながら、精霊ナーイアスはヴィヴィアンをキッとにらみ付ける。それから、許せないとばかりに第二刃、第三刃と次々に水刃を叩き付けてくる。

 その全ては命中するが、ヴィヴィアンをめきめきと縛りつける木の根が切断され、はじけ飛ぶばかりで、ヴィヴィアン自身はいっこうに傷ついている気配はない。


『ちょっと何やってんの。あたいの拘束の根じゃなくて、あのゲスを斬るんだよ!』

『だからさっきから、そうしてるわ! だけど、う……うまく斬れないのよ! あなたこそ、その自慢の根っこでギュッとひねり潰しなさいよ!』

『わかってる! だけど硬すぎて……、びくともしないんだよ。なにコイツ! ハガネでてきてんのかよ!』


 ヴィヴィアンとしては、自分の周囲ギリギリに障壁を張っているだけである。

 それが水刃や木の根の締め付けから、ヴィヴィアンを守っているのだが、このままでは埒があかない。いい加減、無駄なことだと察して欲しいところだが……。


 続けてオオアクマスズメバチたちが、羽音も高くうなりをあげて跳んでくる。

 これには容赦なく炎の障壁を立てて防御し、さらにこちらから迎撃の炎の矢を仕掛ける。

 障壁があるので毒針が刺さることはないが、毒液を吹き付けられるのはカンベン願いたかった。間違って目に入ったら、激痛でのたうち回ることになる。

 何匹も犠牲を出して、炎が相手では分が悪いとわかったのか、やがてスズメバチも回れ右をして飛び去る。

 それっきり姿を見せることはなかった。

 ずいぶん暗くなってきたので、あるいは目が利かなくなったのかもしれない。


 周囲を取り巻く精霊たちも、がんばる二大精霊の応援なのか、正体の知れないヴィヴィアン憎さなのか、あちこちから次々とつたない攻撃をぶつけてくる。

 ドングリや小石を一生懸命、投げてくるのだが、攻撃としてはほとんど意味をなさない。

 だが、嫌われていることだけは、よく伝わってくる。

 小さな可愛らしい精霊や妖精たちが、必死になってヴィヴィアンを退治しようと攻撃してくるのだ。


 その様を見ていると、なんとも言えない気持ちになってくる。

 さっきまで浮かれていた気持ちが、みるみるうちにしぼんでいって、自分という存在が無条件に受け入れられる訳ではないことを思い知らされる。

 たぶん、力で制圧するのは簡単だ。だがそうしたら、みんなの心はどんどん離れていってしまうだろう。


「分かったよ……。わたしに、いなくなって欲しいんだな」


 ヴィヴィアンは悲しげにそうつぶやくと、意を決したように障壁領域を強引に押し広げる。すると木の根の拘束はバキバキに打ち破られる。

 精霊たちは驚愕して慌てたように、その中から姿を現すヴィヴィアンを見つめる。


「あんたたちの気持ちはよーくわかった。だけどわたしだって、そう簡単に死ぬわけにはいかないんだ」


 3579年の時を見守られ、持ち越されたこの命である。精霊エリーの献身的な思いに報いるためにも、地の底に埋もれるエリュシオンのためにも、簡単に殺されるつもりはなかった。


「さらに攻撃を続けるようなら、こっちも攻撃に入る。そこの黒焦げのハチを見ても分かるだろう? わたしが手を出したら少なくない犠牲が出るぞ。これ以上、犠牲を出したくなかったら、ちゃんと話し合いの席に着け!」


 障壁の周りに風魔法をまとわせながら前に進み出る。それから威圧感を出し、強く言霊を叩き付けて、大岩に立つ三大精霊を見上げる。

 それまでずっと黙って様子を見ていた、森を守る精霊アルセイス──。手足が短く背中の丸い岩のような精霊だが、こちらも意を決したようにヴィヴィアンを見下ろし、重々しく口を開いた


『我々は決して、ゴブリン・キングなどには屈しないっ!』

「……はぁっ?」

『出でよっ! 我らが守護神! 今こそ、その力を示し、おぞましきゴブリン・キングを討ち滅ぼすのだぁっ!』

「あ、いや……、ちょっと待ってよ。ゴブリン・キングって、ええっ?」


 精霊アルセイスが両手を天に向かって掲げると、大岩の前の地面からズブズブと何かがせり上がってくる。

 重厚な黒い金属の鎧で覆われた、精霊たちの守護神──。その思いもしない出現にヴィヴィアンは目が点になる。


 見上げるほど大きく威圧的な姿は、夕闇の中でも異様なほど黒い。その頭部に輝く赤い光が、不気味に輝き、ヴィヴィアンを見すえている。


 記憶にあるのと同じその姿に、ヴィヴィアンの頭から完全に「ゴブリン・キング」の文字は吹っ飛んでいた。


「これって、まさか……。」


(シャンデール宇宙空港のゲートで見た警備兵──。AIロボットじゃないか!!!)





お読みくださり、ありがとうございました。


なんか最後に、出てきた。

大昔、ほんの少しチラッとだけ出た、ヤツが……。


次回、「7.とある禁句のその一言①」。

それだけは、ダメ。言っちゃいけない……。

えっ? もう叫んじゃってるって?

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