媒体とか、霊媒とか
「つまり、構造上、あるいは技術的な根拠は意図されていないし、説明されていない。だけど、偶発的にでも、アインシュタイン博士が作りたかった『霊界通信』の機能が実現している可能性なんだね。」
北川の意見をじっくり聞いた淳は、端的に答えた。
『まさにそれ』
北川が言いたかったこと。
もしかしたらと思ったことが、それだった。
レイク峰岸の記憶のデータベースは、5年前のもの。
搭載されたAIは、どこまでがレイク自身の思考なのかという疑問、これは哲学の命題のひとつだけど、それをも表現してくれている。
客観的な観察で感じるのは、その哲学的な命題や疑問、問題提議の本体がAIより以前に端を発しているのではないか。
つまり、墜落時の死亡によって肉体を失ったレイク本人の魂とその霊の意識を発端として、AIは高い精度で、それを現実世界に中継しているのではないか。
わかりやすく言うと、レイクの霊と意識、つまり心を反映してAI搭載の人工頭脳が演算処理する。
それをアンドロイド躯体に命令指示する形で、レイクの行動として表現される。
ぼくたちは、それをレイク自身と評価して、彼と交流している。
人格と個性は本人の霊性に依存している。
媒体として、人工頭脳搭載のアンドロイドが動く。
『ならば、任意の媒体に、故人の霊魂を反映させることができれば、霊界通信装置という評価をしても間違いではないのではないか。』
もしかすると、その要点、技術的な中枢に、生きた本人の記憶のバックアップが必要なのかもしれない。
無機物としてのアンドロイド躯体が、有機的に稼働する鍵のようなものが、故人の意識と合致する記憶のデータベースだとしたら。
この記憶=正確には記録なのだが=は、私自身のものであると、本来の記憶の所有者が認められたなら、アンドロイド躯体の人工頭脳は、記憶の所有者である霊魂の現実世界への媒体となり得る。
川本は、考えがまとまると、差し入れの珈琲を口にして、ニヤニヤと、わかりやすく微笑した。