「気遣い」のIQの高さ
川本と淳は、レイク峰岸の同意を得た上で、最新のAI搭載の人工頭脳を持ったアンドロイド躯体への記憶の移植を開始した。
宇宙船への搭乗までの約5年間の記憶のバックアップはない。
簡易の報告書のようなもので、情報としては理解されたけれど、再現されるレイク本人の自覚としては、他人事のような感覚であろうか。
「木星探査船への搭乗を志したところまでですね。ぼくが覚えているのは。」
「というより、ぼく自身の意識が、その時点から始まっているわけです。」
本来なら、バックアップされたポイントからの自覚と意識なので、この発言は、復元に協力してくれる川本らへの気遣いに基づいている。
『ぼくが覚えている』
この言葉は、復元された時間以降を基点にしているのがわかる。
なので、北川と淳は、理解していた。
レイク峰岸の元々のIQの高さ。
自然な表現で、北川たちに話しの基準を合わせている。
もしも、復元された記憶と意識のままであるなら、現在形の言い回しになっていただろう。
「ぼくは、探査船への搭乗を志していましたが、まさか、墜落するなんて。」
「一緒に志した北川はどうなったんでしょうか?」
と、こんな風な発言をしていたのではないか。