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第8話 探索報酬

「え!? アンカラの森に行っていたんですか?」

「うん、そこですごい強力そうな魔物がいたから一応報告しようと思って」

「ダメじゃないですかライル君、そんな危険な森に行ったら!」


 怒られるかなと予想してたら、案の定怒られた。


「っ……ごめんなさい大きな声出して。でもレベル1であの森は自殺行為よ。ライル君に何かあったら私……」

「大丈夫、俺強くなったんだ」

「でもレベル1の呪いは……」

「それは解呪できてない」

「じゃあ強くなりようがないじゃない」


 創造魔法で強くなった――と今、明かすのは得策ではないだろう。

 ミネルバを信頼していない訳ではない。

 俺が冒険者を始めた頃から気にかけてくれていることもあり、彼女には好意を持っている。

 だが創造魔法などというチート魔法を俺が習得したことが公的に知られれば、早い段階で芽を摘もうと考える人間が出てきてもおかしくない。

 明かすとすれば力と地位とお金をある程度得てからだ。


「強くなったんだ。これは信じてくれと言う他ない」


 俺はミネルバを真っ直ぐ見据えて言う。


「ゔっ……分かったわ。ライル君が変な嘘をつく子じゃないのは分かってる。でも無理や無茶はしないでね」

「うん、分かった。それで討伐品と薬草なんかの買取りをお願いしたいんだけど……」


 俺はゴブリンの魔石に耳、満月草などを机の上に並べる。


「……これをライル君が?」

「うん」

 

 ミネルバを目を丸くして討伐品と俺を交互に眺めている。すると――


「すごいじゃない! ほんとに強くなったの? どうやって強くなったのよ、お姉さんうれしいわ!」

「むぐぐぐぐ……」


 ミネルバは突然俺を抱きしめて俺の顔を自分の胸に押し付ける。

 俺の口は柔らかな二つの膨らみに閉ざされて窒息しそうになる。


「どうしたの返事は? あら」

「……ぷはーーっ。あら、じゃないよ。息ができなくて死ぬかと思ったよ」

「うふふふ、それじゃあ討伐報酬とか計算するわね。えっとゴブリンが……」


 ミネルバはニコニコしながら計算を進めていく。


「報酬は銀貨30枚になります。内訳も必要?」

「いや、大丈夫」


 大体事前に計算してた通りの金額だった。

 単独単日の報酬で銀貨30枚は最高記録だ。


「それではライル君どうぞ」

「ありがとう」


 銀貨を入れた小袋が重い。これはうれしい重さだ。


「それじゃ」

「またね、ライル君ー」


 さて何を買って帰ろう。

 弟のエルド、妹のエリス、そして母のアンナの好きなものは――と考えていると。


「なんだライル、景気のいい顔してんな」

「ギャレット、久しぶりにいい報酬を得られたんだよ」

「へぇー、そいつはいいな。ガキどもにうまいもんでも買って帰ってやんな」

「そのつもりだよ」

「それはそうと……」


 勢いをつけるようにギャレットは酒瓶を煽る。

 ギャレットと酒瓶は最早決して離れられないパートナーのようにも感じられる。


「ケニー」


 ギャレットがその名を出した瞬間、その場の空気が変わった気がした。


「お前の幼馴染で友達。たしか冒険者になって最初の頃は一緒に冒険者依頼をこなしてたな。そのケニーだが、奴は一線を超えたぞ」

「……一線って?」


 ギャレットはまた酒瓶を煽る。

 

「ケニーは今や少年ギャング団のリーダーだ。奴は敵対組織の少年を殺害した」


 俺は下を向く。聞きたくない話だった。


「ライル、これから先、ケニーに関わるのは止めろ。あいつはもう昔とは違う。後戻りできない道を進んでる」

「でもあいつは……」

「家族が大切だろ」

「っ……」


 確かにギャング団の争いなんかに首を突っ込めば、家族を危険に晒すことになる。


「でもあいつなんかがギャング団でよく……いや、馬鹿にしてる訳じゃないけど」


 ケニーは金髪の碧眼でめちゃくちゃ顔は良いが、ヤセ型のヒョロヒョロで、強さはレベル1の俺といい勝負だったはずだ。


「薬だよ薬。身体強化薬に手出したらしい。薬の適合率が高かったみたいでな。だが……」

「だが?」

「……長生きできねえ」

「…………」


 俺は拳を握り締める。

 友が死地へと進んでいるのに、俺はほんとに何もできないのか?


「変なこと考えるんじゃねえぞ。奴がこの先くたばるにしても自業自得、因果応報だ。お前が思い悩む必要なんか微塵もねえ」

「……うん、分かってる。教えてくれてありがとう」


 ギャレットは笑顔で酒瓶を掲げて返事をする。

 それを合図に俺はギルドを出た。


 

「おーい、開けてくれー」


 紙袋を両手に抱えてドアを開けることができない。

 ドタドタとエルドたちが駆け寄る音が聞こえる。


「はーい、うわ! 兄ちゃん、どうしたの荷物」

「へへへ、聞いて驚け。これ――全部食べ物だぞ!」

「ええーー、全部食べ物ぉ!」

「ライルお兄ちゃん、すごいすごい!」


 イリスはもう飛び跳ねて喜んでいる。


「よいしょっと」


 食卓のテーブルに紙袋を下ろす。


「何ー、兄ちゃん何買って帰ってきたの?」

「早くーライルお兄ちゃんー」

「まず燻製のハム」

「「ハムーー!?」」

 

 二人とも目を輝かせる。

 

「それにソーセージにステーキ肉に――」

「すげーすげーっ!」

「えーイリス食べ切れるかなあ」


 毎回一食分くらいしか買ってこられないから、今回も一食分だとイリスは勘違いしてるみたいだった。


「こんなもんじゃない。まだまだあるぞ」

「えーまだあるのぉ!」

「イリスお腹はち切れちゃう!」

「次は甘いもんだ――まずチョコレート」

「チョコレート!」

「イリス、チョコレート知ってる! 甘くて美味しいお菓子!」

「それにシュークリームにケーキ」

「すげー俺シュークリーム初めてみた!」

「どうしようイリス幸せすぎて死んじゃう!」


 二人は嬉しすぎてその瞳にうっすら涙まで浮かべている。


「後は新鮮な野菜なんかだ。母さんに料理してもらおう」

「腕によりをかけるね」

「イリスお手伝いする!」

「俺はつまみ食い担当!」

「はいはい、じゃあちょっとライル待っててね」

「うん」


 その晩、我が家は幸せな食卓を囲んだ。

 食後にはパンパンにお腹を膨らませて動けなくなった二人の姿。

 そんな二人を抱きかかえ寝床に移動してやる。

 てかこの二人わざと動けないふりしてないか。

 寝床についても俺に抱きつくことを止めない。

 二人して嬉しいのかギャーギャー騒いでいる。

 そして母さんに怒られる。


 その晩も俺は最早、現実になりつつある夢想の後、夜のまどろみの底へと落ちていった。


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