第4話 古代ダンジョン
「よう聞いたかあの話?」
冒険者ギルドを出ようとした時に声をかけてきたのはギャレットだった。
「何あの話って?」
時刻はまだ朝方だが、ギャレットは酒瓶片手にすでにお酒で顔を赤くしている。
それなりの付き合いだが、俺は今までギャレットが冒険者として、何かまともな活動をしているのは見たことがなかった。
「知らねえのか、新しく見つかったダンジョンの話だよ」
「ああ、それは知ってるよ」
「期待はずれの古代ダンジョンな」
「何、期待はずれって?」
「なんだやっぱり知らねえんじゃないか」
「どういうこと?」
ギャレットは酒瓶をあおる。
「ぷはー、うめぇ! 古代ダンジョンだから高ランクの魔物やお宝なんかも期待されてたが、現れる魔物は低レベルのスライムのみ。探索してもお宝も何もないっていうんで、もう冒険者の間では見切りをつけられちまってるぜ」
「久々に見つかった古代ダンジョンなのに?」
「ああ、他のギルドにゃ遠方からわざわざ上級の冒険者も来てたらしいからな」
ダンジョンは一般的に古い方が強力な魔物が出現し、宝など得られるリターンも大きい。
だがそんなダンジョンにレベル1の俺が潜ればすぐに死ぬことになる。
その為、ダンジョンが新しく見つかったことは知っていたが、特に今まで情報収集はしてこなかった。
「へぇー、じゃあ俺そのダンジョン行ってみようかな」
「……俺の話聞いてたか?」
「ギルドには今、俺が受けられそうな依頼がないんだよ。だから何か日雇いの仕事でも探そうかなと思ってた所なの」
「そうか……たださっき言った通り、もう上級冒険者が探索しているはずだから期待はできないぞ。獲物もスライム程度しかいないはずだ」
「分かってるよ。情報ありがとう」
俺は片手を上げて挨拶しながらその場を立ち去る。
スライムでも倒せば魔石は得られる。
二束三文にしかならないが、それでも無給になるよりはいい。
それに俺はダンジョンが好きだった。
今まで荷物持ちでダンジョンに同行したことはあるが、レベルの低さにより一人でダンジョンに潜ったことはない。
今日は一種の余暇のつもりでダンジョンに潜ろう。
ダンジョン自体は歩いて小一時間の小山の中腹にあった。
苔が群生する大岩の一つが粉々に粉砕されてダンジョンの入口が顕になっている。
一体誰が大岩を粉砕したのだろうか?
自然の雷なんかではこうはならない、人為的なものだ。
入り口は岩石に古代文字が刻まれたアーチ状になっている。
俺は疑問に思いながらもダンジョンの奥へと足を踏み入れていく。
「おらぁ!」
飛びついてきたスライムの核を下から斬り上げる。
キューっと断末魔の叫びを残した後、スライムは魔石と核を残して地面に染み込んでいく。
俺は魔石を拾い小袋に入れる。
随分ダンジョンを潜ってきた。
おそらくここが最終階層だろう。
前評判通り魔物はスライムしか出現せず、お宝の気配すらない。
だが一人でダンジョン探索をしたことがなかった俺は結構楽しい。
他の冒険者の気配が皆無なのもよかった。
更に進むと行き止まりになっていた。
もう先に進む経路はないはずだった。
「ここまでかな……」
そこで少し名残惜しさを感じながらも踵を返す。
ここまででスライムを10数体狩れた。
魔石を売れば今日明日くらいは食べられるくらいの金額にはなるはずだ。
これなら一種の余暇としてたまに来てもいいかもしれない。
「あわよくば新たな部屋でも湧いてて、そこにお宝でもないかなと思ったんだけどなー」
俺は壁を手でなぞりながら何気なく独り言をしゃべってた。すると――
「あれ?」
手の感触がおかしい所があった。
むき出しの岩肌のはずなのに平面のような感触に変わったのだ。
「なんだ?」
俺は恐る恐る感触がおかしい所をまた触ってみる。
やはり目視している情報と手の感触に乖離がある。
手に感じるのは、大理石を平にしたような、なめらかな平面の感触だ。
どうやら認識阻害が、壁の一部分にだけかけられているようだった。
平面部分の壁をしばらく触っていると、何やら掴める部分があることに気づく。
そこは小さな円状に窪んでおり、小さな取っ手があって回すことができそうだった。
もしかしたら罠かもしれないという考えが浮かぶと冷や汗が滲む。
だがそれ以上にこの先に何か、お宝が眠っているかもしれないという誘惑が勝る。
ゴクリと生唾を飲んだ後、俺は取っ手を回す。
すると――ゴゴゴゴゴゴゴ、という重量感のある石が引きづられる音とともに目の前の秘密の石扉が開いた。