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第1話 レベル1の呪い

「ライル、報酬だ」


 冒険パーティー【暁の明星】のリーダー、ガルツは報酬の硬貨を地面に乱暴に投げ捨てた。

 くそっ、俺は屈辱を感じながらその硬貨を一枚一枚拾う。

 そこにはたった3枚の銅貨しかなかった。


「おい! 子供のお駄賃じゃないんだぞ。銅貨3枚ってどういう事だよ!」


 銅貨3枚ではパンの1つも買えない。

 銀貨5枚という約束だったはずだ。

 人を見下したようなニヤケ顔をしながらガルツは高圧的に答える。


「ガキの小遣いには丁度いい金額だろ? 荷物運びという名のハイキングに連れて行って面倒みてやったんだ。逆にこっちが報酬もらってもいいくらいだぞ?」

「ガキって……確かにまだ俺は15歳で成人もしてないけど、荷物運びの依頼はちゃんとこなしただろ!」

「おーこわ。ライル君はお怒りだぜみんな。――ああなんだその顔は? 文句あるならかかってこいよ。ほら、ほらっ!?」


 ガルツは喜々としながら好戦的にかかってこいというジェスチャーをする。

 

「くっ…」


 俺が彼らに向かっていった所で勝てる訳がない。レベル差がありすぎるのだ。

 彼らはレベル70台。それに対して俺のレベルは――――たったの1しかない。


 仲間の冒険者たちもニヤニヤしながら俺たちのやり取りを眺めている。

 最初からそのつもりだったのだろう、やられた。


 暁の明星の奴らは地元の冒険者ではなく、旅しながらいろんなギルドを廻っている。

 そういう冒険者を流しの冒険者という。

 ギルドを通さないで、そんな流しの冒険者の依頼を受けるとこういう事があるのだ。


「こんな詐欺まがいなことを冒険者間でやって――お前らこのギルドで今後まともな取引ができると思ってるのか?」

「はっ! 俺らはこれでこのギルドからはおさらばだよ! こんな小汚い底辺ギルドなんかにゃなんの未練もねえ。怖いもの見たさに依頼を受けてみたが、よくもまあこんなクソ底辺ギルドへ留まる気になるもんだな。そんなクソ底辺ども気がしれねえぜ!」


 ギルドにいる他の地元の冒険者たちからの視線が彼らに突き刺さる。

 だが彼らはそれに動じる気配はない。

 逆に周りの冒険者たちを睨み返している。


「なんだゴミクズどもがなんか文句あるのか? スラムにある底辺のクソ貧乏ギルドっていうのは事実だろうがよぉ! 薬中に浮浪者くずれがウロウロしやがってよぉ!」

「てめえら、言わせておけば……」

「そこまでです!」


 ギルド員の女性の大きな声がギルド内に響き渡る。


「冒険者同士の争いはご法度です。従えない場合、降級処分になりますよ!」


 ガルツは憎たらしい笑みを浮かべて肩をすくめる。


「じゃあ、いくぞみんな」


 彼らは周囲を睨みつけながらギルドから出ていった。

 ギルド内では舌打ちや悪態がつかれる。


「災難だったなライル」


 一人の冒険者が俺に近寄り声をかけてきた。

 無精髭をはやしてボサボサの髪をして、革製の簡素な鎧をまとっている。

 暁の明星の奴らに向かっていこうとした男だった。

 彼は俺を何かと気にかけてくれていた。

 

「いや、まあ……ありがとうギャレット」

「気にすんな。ああいう輩がいるから流しの冒険者には気をつけなきゃいけないんだがな……全く、ライルは若くして家族を養う為に頑張ってるのになあ。あいつらにライルの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぜ」


 通常であれば流しの冒険者からギルドを通さない依頼を受ける事はない。

 であればなぜ俺が彼らから依頼を受けたのかというと。


 俺はレベルが1しかない為、依頼受託条件の最低レベルを大抵満たせない。

 その為、ギルドからはレベル条件のない低報酬の依頼しか受けられない。

 よって高い報酬を望むなら流しの冒険者からのような、イレギュラーな依頼を受けざる得ないのだった。


「結局稼ぎにならなかったからまた依頼を受けないと……じゃあまた」

「ああ、頑張れよライル。俺は陰ながら頑張ってるお前を応援してるからな!」


 ギャレットはまっ昼間から酒瓶を掲げながらそう言ってくれた。

 俺は苦笑いを浮かべながらその場から離れる。

 まだ時間は昼過ぎだ。簡単な依頼であれば今日中にでもこなせるかもしれない。

 腹を空かせた家族を食わせる為にも頑張らなければならない。


 依頼ボードを眺めてみると――薬草の採取依頼が新規であった。依頼の受託制限はない。

 俺は早速、依頼用紙をボートから剥ぎ取り、都市の外の草原へと向かって走り出した。



 

「はい、それではこちらが薬草採取の報酬、銀貨1枚になりますね」


 銀貨1枚は大人の1食分程度の報酬だった。

 半日近く費やして銀貨1枚はあまりに少ない。

 最も薬草採集は運みたいな所もあり、今回探した所は間違いなくハズレだった。

 報酬は少ないが文句を言うわけにはいかない。

 自分が受けられるような依頼はそんなにないのだ。


「ごめんね、ライル君がもっと稼げるような依頼、ギルドにあればいいんだけど……」


 カールの巻き髪をたなびかせながら、申し訳無さそうにギルド員の受付のミネルバは言う。


「ライル君はこんなに頑張ってるのに。さっきもあんな目にあって……ごめんね冒険者同士の契約や争いにギルドは介入できないの。レベル1の呪いさえなければライル君だって…………あっごめんね、一人でしゃべっちゃって」

「いえ、そうやって気遣ってもらえるのは嬉しいです」


 俺はレベルが1以上に上がらないという呪いを受けている。

 長年悩まされているが、一体誰から呪いを受けたのか全く分かっていなかった。

 非常に強力な呪いで解呪の糸口も見つけられていない。

 ある時は有名な聖者に、解呪を試みてもらったがまるで歯が立たなかった。

 そのため、俺にかけられているのは最悪、理外魔法による呪いかもと言われている。


 理外魔法とは非常に強力な神域の魔法である。

 もし理外魔法による呪いであれば絶望的で、解呪の望みは限りなくゼロに近い。


 その時突然――ミネルバは俺にもっと近づくように手招きする。

 俺は怪訝に思いながら彼女に顔を近づける。

 そして彼女は近づいた俺に耳打ちするように話す。

 彼女のいい匂いが俺の鼻孔を刺激する。


「ライル君のレベルでも受けられそうな、報酬が良い依頼あったらお姉さん、こっそりキープしとくからね。だから依頼ボード確認するだけじゃなく、こっちの受付カウンターもよかったら顔を出してね」


 俺が驚いた視線をミネルバに向けると、彼女は俺に向かってウィンクする。


「ありがとう! それじゃあこれから依頼はミネルバにも確認するよ」

「約束よ!」

「うん、じゃあ」


 俺はミネルバの花咲くようなミネルバの笑顔に送られてギルドを出る。

 町はいつの間にか夕焼けに染まっていた。


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