50.レッドウッドパークのましろ
「いやぁ。助かりました」
ひさめが脳天気そうな笑顔を見せていた。
対して、俺は不機嫌きわまりない表情だった。できるだけ、こわい顔になるよう努力している。相手にも、そう見えているといいんだが。
「そりゃよかったな」
「私、これでファングさんに二度も助けられちゃって」
俺の気分を無視して、ひさめが頬を赤くする。
「なんだか運命を感じちゃいますねっ」
断ち切りたい、その運命。
「私たちって、お似合いだと思うんですよね。今度、一緒に映画でも……」
「今はそれよりも、だ」
現時点で、最優先にすべきことを整理する。
ひとまずこの子を安全な場所に逃がして、ましろをみつける必要がある。
「いいか。むこうに警官がいる。茂みの中に隠れているはずだ。近くまで行って呼びかけろ」
「気づいてもらえますかねえ」
「おまわりさん助けてください、とか。なんでもいい。声出していけ」
ギリーたちがいる場所を示しながら、ひさめに指示した。
「それで。ましろはどこにいるんだ」
「え? 姉さんなら、えっと……たぶん、こっちに」
「わかった。俺はましろの加勢に行く。ひさめさんは、ちゃんと警察に保護してもらうんだぞ。わかったな」
「はいっ。わかりました!」
元気だけはいい返事がきた。
このまま彼女をこの場に残していくのは、たいへん心配、というより不安だ。心残りはあったが、他にもやらなきゃならんことがある。
ひとまず俺は、教えてもらった方向に走り出した。
もうすぐ公園の中心まで、あとわずかというところまでやってきたときだ。
キィィン……。
離れたところから、鋭い金属音が響いてくる。
間違いない。
ましろだ。刀と牙がぶつかった音から察すると、牙獣とやりあっているのだろう。
音のする方向をめざして、足を速める。
すると、木々の間を疾走する黒い騎馬の背が見えた。
すっかりお馴染みになった、騎士型の牙獣だ。
そういえば、こいつらはこんな姿をしているが、目だの背中だのはいったいどこにあるんだろう。
などと思っていたら馬体の尻から馬の首が、にゅるんと生えてきた。反対側の頭が埋まり、とたんに眼前の牙獣は、体の前後を入れ替えて襲いかかってくる。
まったく気持ち悪い動きしやがって。
問答無用で引き金を絞る。タイミングをずらした二度の発砲によって、黒い塵がパッと散った。
そして、そのむこう側に牙獣と斬り結ぶましろの姿が見えた。
ましろの背後から飛びかかっていく、牙の騎士の姿が視界に入る。
「ましろ!! 後ろだ!」
叫びを放って銃を撃つ。
二発を撃ったが、その必要はなかった。攻撃に集中していた相手にとっては、俺の発砲が見事な不意打ちになったらしい。
俺が駆け寄るよりも先に、ましろも自身の目の前にいる牙獣を切り捨てる。
「おい。無事かよ」
弾丸を装填しながら声をかけると、ましろは俺の顔をまじまじと見つめた。
その目の端に、じわと涙が滲む。
直後、ましろは俺に背をむけて走り出した。
「お、おい……前」
「こないで!」
ましろの進路上に、新手の牙獣が現れた―――が、一撃で斬り伏せて走っていく。とっさに追いかけるのを忘れてしまう、あざやかな太刀筋だった。
「え……ちょっと、おい。待てよ。おいってば」
我に返った俺は、ましろを追って走りだした。
ついでに横からつっこんできた牙獣に、装填したばかりの弾丸をお見舞いする。
「待てってば!」
「もういいからっ。こないで!」
たちふさがる牙獣を次々と一刀両断にしながら、ましろは走る。
どんどん俺から遠ざかっていく。
どういうことだよ。どうしてそこまで俺を避けるんだよ。
「待てよ。話ぐらいさせろって」
ましろを追いながら銃口を背後に向けて、追ってくる牙獣に銃弾をお見舞いする。
さすがに師匠だけあって、弟子のひさめより足が速い。通りすがりに斬られる牙獣に同情したくなる勢いだった。
このままでは追いつけない。俺だって必死に走ってはいるのだが、鍛え方が違う。剣術家とガンマンじゃ、基礎体力ってもんが違うんだ。わかってくれ。
どうしたものかと思っていた、その瞬間―――。
頭の上にサッと影がかすめる。
樹上からの襲撃を警戒したせいか、ましろの足が止まった。
チャンスは今しかない。
一気に駆け寄り、手を伸ばす。必死に走った甲斐もあって、運良く右手首をつかむことができた。
「放してっ……」
「落ち着けよ。いったい、どうしたんだ」
ましろが鋭い目で、キッとにらみつけてきた。
「もういい」
短く吐き捨てるように言って、すぐに顔をそむける。
「あなたは彼じゃない。彼はもういないと、わかったから」
目に涙を溜めながら、そんなことを言う。
彼ってのは、俺じゃないのか。
いったい、こいつは誰のことを言ってるんだ。
頭に浮かんだ疑問を問いかけようとした、そのときだった。
「泣かないで。ましろさん」
俺の口が、勝手にしゃべりだした。
「大丈夫。僕も、ここにいるから」
そこまで言い終えると、スイッチを切り替えたみたいに体の自由が戻ってきた。
なんだ、今のは。
誰が、俺を操ったんだ。
俺の意思とはかかわりなく、発した言葉。
声そのものはまぎれもなく自分自身のものであったが、俺ではない誰かがしゃべらせたという事実は揺るがない。誰だよ、僕って。出てこい、この野郎。
困惑している俺の顔をましろが凝視している。
「ぁ……あ、あ」
「あー、えっと。その、今のは」
俺が何か言おうとしたとたんに、目からボロボロと涙を流すましろ。
「ウッ……ううっ」
「わ。こら、泣くな」
「うううぅ……」
さめざめと泣きながらしがみついてきた。
どうすりゃいいんだ、これ。
戸惑うばかりの俺には、もちろん悩む暇なんてものはない。。
周囲の繁みが、ザッ、ザザッ……と鳴る。
どうやら、ここが公園の中心にあたる位置だったらしい。
集まってきた牙獣によって、俺とましろはすっかり囲まれてしまっていた。
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一人称の練習で書いています。
読みにくい部分が多く、たいへん申し訳ありません。
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(例文)
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